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くらんくらうん  作者: バラ発疹
かごの中の風景
31/62

第1話「カッ子」00~02で了

 第三章「かごの中の風景」


 第一話「カッ子」


     00


 陽気な音楽と共にネズミやアヒルの着ぐるみに身を包んだ人が激しく踊っている……はずなのだが、どうも様子がおかしい。

 ここは東京ネズミーランド。なのだが、夜にも関わらず照明が一つもついていない。

久未弥くみや、夢の時間はもうおしまいなんだよ」と、相変わらず土下座している父親は言う。

「そんな事お父さんに言われたくない! お父さんが僕を捨ててから、どんな目にあってたか知ってるの?」と、久未弥と呼ばれた子供は父親に訴える。

「知っているさ、それが久未弥に与えられた”現実”なんだよ」と事も無げに言う。

「こんな現実はヤダよ! 夢を見させてよ! 助けて! 助けてよ! 助けてくれよ! まだ夢を見させてくれ! カッ子……ライ子……丸美……っ!!!!!!!!!!!!」


「!!!」

 ガバッ!と布団から飛び起きる久未弥。

 時計を見ると、起きる時間までまだ2時間もある。

「ははは、まさかあいつらに助けを求めるとは重症だな」と額の汗をぬぐいながら先ほどの夢に突っ込みを入れる。

 ネズミーシーでの出来事から3日、あの日から見る夢は決まって悪夢である。

 久未弥は油断していたのだ、カッ子とライ丸姉妹と出会ってからの日々が、あまりにも自分が求めていたものに近すぎていたことに。


 それが現実ではないと知りながら。


 みんなそれぞれ何かを隠し、それを詮索せずに表面だけで成り立つ関係。そこを逃げ場にしているのだ。

「俺はっ……やっとあそこから逃げ出したのに……あの頃に戻るのは嫌だ! それとも逃げることはできないのか?……でも、あと少しだけ夢を見させてくれ」

 そうやってまた久未弥は虚構の中に身を委ねていくのであった。


     01


「気持ち悪い……」

 女はカーテンを開け、朝の光を浴びながらつぶやく。

 この、数少ない友人から”カッ子”と呼ばれている女は、朝起きる度に胃の中身をあげている。

 しかしこれでも良くなった方である、その友人達と出会う前に比べれば……。

「早く来ないかな、みんな」

 

 ライ丸姉妹が来るまで、あと9時間。

 ブッチョが来るまで、あと10時間。


 女は今までどんな目にあおうとも、そんな事を思った事は無いのだが、最近毎朝口に出す台詞がある。それをまた今日も繰り返すのである。


「さみしいよぉ、助けてよぉ、みんなぁ」


     02


 カッ子の日常は起きる時間こそ一般人と同じだが、日中は時間だけが無意味に過ぎていく。

 今の友人達と出会う前は、昼夜逆転どころではなく、時間という概念が無いに等しい生活を送っていた。

 カーテンを閉め切った部屋で、24時間パソコンのオンラインRPG”ドラゴンスクリーム”をプレイし続け、時間を知るのはもう一台のパソコンに表示されている株の取引の開始と終了の時刻だけであった。

 現在も株の取引とドラゴンスクリームは続けている。

 株は生活費の為。

 ドラゴンスクリームは、こちらの疑似世界にも共に冒険した”仲間”がいる為だ。

 現実ではない世界の、現実と虚像の境界が曖昧な”仲間”。その中には現実としてちょっかいを出してくる者もいるのだが。

 カッ子はそんな偽物の”仲間”でも捨てきれずにいた。

 もともとカッ子は、ドラゴンスクリームで廃人になってしまったのではなく、廃人になるためにドラゴンスクリームを始めたのだ。

 なので止めるのに未練は無いのだが、止めてもやることがないのも事実である。

 そして今日も無意味な冒険に出かけて行くのであった。 


 そして夕方。

「「はぁい、いらっしゃいライ丸ちゃん達」」

 と待ちわびた客を迎えるカッ子。

 その友人はライオンの着ぐるみを着た子と耳の聞こえない子供の姉妹である。

「おはよーカッ子姉ちゃん!」とライ子と呼ばれている着ぐるみに身を包んだ少女は、元気よくマンションの中に入ってくる。

「(お姉ちゃん、もう4時なんだから”こんにちわ”でしょ)」とライ子の妹の丸美が手話で喋りながら続いて入ってくる。

「「二人とも宿題は終わりました?」」

「ううん、帰ってからすぐ来たからまだ」

「(私はお姉ちゃんが帰って来る前にやっちゃった)」

「ブッチョが来る前にやっちゃうね」

 とライ子は着ぐるみの中から宿題と筆記用具を取り出す。いったい着ぐるみの中はどうなっているのだろう。

 ライ子が宿題をやっている間、丸美はテレビを見て、カッ子は夕食の準備に取りかかる。

 とはいえカッ子は昼過ぎから夕食を作り始めており、後は盛りつけるだけなのだが。


 ライ子の宿題も終わり、夕食の準備も整ったところで。

 ピンポーン!

 とカッ子のもう一人の待ち人の登場である。

「「はぁい、ブッチョさんお仕事お疲れさまです」」

 とカッ子はいつものように友人を迎える。

「あぁ、これ買ってきたんだけど、飯食ったらみんなで食おうぜ」

 とブッチョというあだ名で呼ばれた久未弥は、コンビニの袋を持ち上げて言う。

「なになに? なに買ってきたの?」

 と言いながら袋を覗くライ丸姉妹。

「(わぁ、ケーキだ! やったー!)」

 と丸美はピョンピョン跳ねながら喜びだす。

「「む、それって私の料理の口直しってことですか?」」

「ぶっ! アホか、違うって!ただの気まぐれで買ってきたんだって!」

「「あっ、アホって言ったぁ! アホって言った人がアホなんですぅ!」」

「ブッチョもカッ子姉ちゃんもケンカはダメだよ!」

「(痴話喧嘩は犬も食わないって言うよ!)」

「間違ってるし! 痴話喧嘩じゃねえし!」


 などと、いつものように騒がしい日常。


 一日数時間だけの心の拠り所。


 カッ子は最近、自分が我儘になってきたのを実感している。


 こんな事を思うのだ。


「みんな一緒にここに住めばいいのに」


 第1話了     

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