0607と08で了
06
ネズミーシーは海をテーマにしたテーマパークで、と、どこかで聞いたような物をテーマにしている。
テーマパークを海岸沿いに作る場合が多いので、海はテーマにしやすいのだろう。
とはいえ、やはり経営母体の規模が違うせいか、アトラクションをはじめ隅々までのクオリティが高いのである。
ライ丸姉妹曰く、これはこれ、あれはあれでどちらが良いとは言いがたいようである。
こちらのテーマパークは、メインキャラこそネズミーランドと同様”マッキー=ストライクフィールド”であるが、他は海にちなんだキャラクターが多いのだ。
そこで異彩を放つのが、この海のテーマパークにあって砂漠の物語の主人公“アレジン”この往年の名機のような名前のキャラクターは、魔法の絨毯と魔法のランプという霊感商法のアイテムのような物を売っている青年である。
実はこのアイテムは本当に魔法のアイテムで、それを大量に販売して世界を混沌に陥れる、という物語の主人公なのだ。
「また憂鬱な設定のキャラクターがいたもんだな」とブッチョが漏らす。
「魔法のランプを擦ると、中から青色の怪物がわいてくるんだよ」とライ子が余分な説明を付け加える。
「(私アレジン嫌い)」と全否定の丸美。
「「ヒロインが一番のくせ者でしたからねぇ」」と、どう聞いても良いところが聞こえてこない。
そんな”アレジン”のアトラクションは、魔法の絨毯に乗って、光線銃でランプの怪物を倒すというものだった。なにか向こうにも同じようなアトラクションがあった気がするが、攻撃性の強いアトラクションの多いテーマパークである。
「アレジンの最期はスッキリしたね!」とアトラクションから出てきたライ子は上機嫌だ。
「(ランプの怪物多すぎ)」と丸美は疲れ気味。
「「やっぱりヒロインがラスボスでしたねぇ」」とカッ子。
「なんか人間不信になりそうなストーリーだったな」とブッチョは精神的に疲れたようだ。
その後、なにやらカラフルな俗に言うコーヒーカップに乗ったり、きらびやかな回転木馬に乗ったりとどこにでもありそうな乗り物に乗っていく。
そうしてパーク内を歩いていてブッチョは気づく。
「なんかネズミーランドにくらべて人が少なくないか? 並ぶのが楽でいいけど」
「うん、こっちは出てくるキャラクターが微妙だからね、ちょっと大人向けかな?」と周りを見ながらライ子は言う。
確かにこちらのパークは、ネズミーランドよりも地味な落ち着いた色合いの建物が多いようだ。
「「それにここには激しい乗り物は少ないですよ」」
ストーリーは激しいけどな。とブッチョは心の中でつぶやく。
「(あっ! 次はあの船に乗りたい!)」と丸美は、前に見える川を進む遊覧船だか海賊船だか判別に苦しむような船を指さす。
その船は“パイレーツオブカナディアン”という映画をモチーフにした海賊船を模した遊覧船で、なんともゆったりした乗り物である。
「あぁ、なんか落ち着くなこれ」とブッチョは快適な船旅に満足気だ。
「「そうですねぇ、ちょっと寒いですけど気持ちいいです」」
と大人ふたりでまどろんでいる横で。
「わぁ、人が縛られてぶらさがってるよ!」
「(いま大砲が飛んでったよ!)」
と子供にはいい刺激の演出もあるようだ。
07
昨日の疲れが残る一行にとってネズミーシーのゆったり具合はちょうど良いようで、ライ丸姉妹もぐずることなく順調にアトラクションを満喫していく。
食事も今日は昼も夜もレストランで済ます。
「あぁ、もう外は真っ暗だな」とレストランから出たブッチョが空を見上げながら言う。
「これから中央の池で水上ショーが始まるよ!」とライ子はわくわくしながら言う。
「(噴水とかすごいんだよ!)」と丸美。
「「このショーは場所を取らなくても見られるんでゆっくり行きましょう」」
と事前に調べてきた三人は、この旅行の最後とも言えるイベントに心躍らせているようだ。
中央の大きな池に到着すると、すでに人だかりができていた。しかしどこからでも見られるように工夫がされており、難なく位置を確保する。
しばらくすると照明が暗くなり、音楽が流れ出す。
それと同時にカッ子、ライ丸姉妹を含む観客から「わーっ!」という歓声がわき起こる。
ドーン!という爆発と共にステージにマッキーが現れると、さらに大きな歓声が上がる。
ノリの良い音楽に乗せて様々なキャラクターの着ぐるみが登場し、めまぐるしく電装の色彩が変化していく。
一曲目が終わり、会場が一瞬静寂に包まれたと思った瞬間、バーン!という二曲目の始まりと同時にライトアップされた大きな水柱が上がる。
「わぁっ!」とライ子はびっくりして後ろにのけぞり、バランスを崩した所をブッチョが背中をささえてやる。ライ子は「ありがとブッチョ」と言ったのだが、ブッチョには音楽で聞こえなかったようだ。
丸美はというと、音は聞こえないものの爆発などの振動は伝わるらしく、そのたびにビクン! と体を震わせ驚いている。
カッ子はそんな丸美が迷子にならないように、肩をしっかり掴んでいて、丸美もそんなカッ子の手を掴んでいる。
周りの家族連れを見てみても、みな同様に子供を見守りながら楽しんでいるようである。
08
水上ショーも終わり、それぞれに他のアトラクションに向かって行く人々。ブッチョ達一行もその流れに沿って池を後にする。
「さあ、あと少しだけど、まだなにか見るか?」とブッチョが言うと。
「「そうですねぇ、そろそろお土産買いに行きましょうか?」」と提案するカッ子。
「えっと、私たちもいいのかな?」と珍しく控えめな事を言うライ子。
「ある程度ならいいぞ、お土産買うのも遊びの内だろ?」
「(ほんと? やったぁ! おみやげだぁ!)」と丸美はライ子の手をとりピョンピョン跳ね出す。ライ子もうれしそうである。
数軒まわったが、売っているのはお菓子ばかりでガッカリしていると。
「あっ! あそこ! あれもお土産屋さんみたい!」
とライ子が見つけたのは、大きな鯨が口を開けているようなオブジェなのだが、どうやら口の中が店舗になっているようである。
「(いろんなものが売ってるよ!)」
この店はグッズ関係が売っているようである。
カッ子と丸美はなにやら魚のキャラクターを物色しているようである。ライ子は一人で海賊グッズのコーナーを見ているので、ブッチョはライ子のそばで見ている。
ライ子はしばらく物色した後「ブッチョ、これどうかな?」と、なにやらジャラジャラと装飾品のぶら下がったバンダナを取り出す。どうやら”パイレーツオブカナディアン”の主人公の装飾品らしい。
「いいんじゃねえか? お前がほしいヤツを買えばいいよ」とブッチョが言うと。
「「あっ、“海賊チャック=スワロー”のバンダナですね、格好良いですよねぇ」」とカッ子が後押しする。
「(みんなで買って、着けて帰る?)」と丸美が提案する。
「は? そんな恥ずかしいまねできるか!」
「ブッチョ、ノリ悪い」「(それ以上恥ずかしいことなんかあるのか?)」「「きっと似合いますよ」」
といつものように騒いでいると。
「あれ? お前“久未弥”じゃね?」
と一行の後ろから声が聞こえる。
なにやらこちらの方に向けて声が聞こえたので、カッ子とライ子は振り返る。
そこには、二十歳前後程のチャラチャラした男がこちらを向いて立っていた。
「……秀夫さん」
と発したのはブッチョであった。
「やっぱ久未弥じゃねえか、お前みたいな奴がなんでこんな所にいんだ?」と秀夫と呼ばれた男は、高圧的な態度で話す。
「ヒデ〜、だ〜れこの人、ともだち〜?」と秀夫の後ろから派手な女が現れる。
「バーカ、こんなのと友達な訳ねぇだろ、こいつ親に捨てられたから、俺の親父が面倒見てやってたんだよ」と説明する。
「こいつ昔から何もできねぇし、顔があのまま変わんねぇんだぜ、超ウケるべ?」と秀夫が言うと「まじで〜超うける〜」と二人で笑い出す。
そんな異常に丸美も気づき、ブッチョの後ろに隠れる。
「あ? お前の子供? お前結婚したんか?」と、そんな丸美を見ながら秀夫は言う。
「着ぐるみ着てる子がいる〜、ジャ〜ジのお姉さんもおなかま〜? 超うける〜」と派手な女はアホの子のように喋る。
「いえ、こいつらは友達です」とブッチョは敬語で話す。
「まぁどうでもいいけどよ、お前が帰ってくると邪魔だからよ、帰ってくるなんて言いだすなよ」
「そんなこと言いません、約束ですから」とブッチョが言ったところで。
「ねぇブッチョ、この人感じ悪い、お土産いらないからここ出よ?」とライ子は、ブッチョの服を引っ張りながら小声で話しかける。
三人に押されるように店を出るブッチョの背後から「お友達になぐさめてもらえよ」と声が聞こえる。
結局嫌な気分になった一行は、ブッチョには何も話しかけられず、どうでもいいお土産を適当に買い帰路につくのであった。
帰りのバスの中、久未弥と呼ばれた男は、どこからともなく聞こえてくる声を聞いていた。
「お前みたいな奴に夢を見る権利なんかないんだよ」と。
第三章了