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くらんくらうん  作者: バラ発疹
夢見るピエロ
29/62

0405

     04


 窓の外には街の街灯の灯りがまばらにかがやいていた。

 ブッチョは風呂の後すぐに床についたのだが、なぜか寝付けず窓際の椅子に腰掛け外を眺めていた。

「「眠れないんですか?」」とカッ子がベッドの中から声をかける。

「ん? あぁ、なんか寝付けなくてな。起こしちまったか?」とブッチョは外を見たまま答える。

「「いえ、私も寝付けなくて」」とカッ子は上半身を起こし、ライ丸姉妹が剥いだ布団を掛けなおしてやる。

「「なにか飲みますか?」」

「あぁ、もらおうかな、アルコール以外で」

「「あはは、お酒はもうこりごりです」」と言いながら、備え付けの冷蔵庫から買っておいた飲み物を取り出し、もう一つの椅子に座りながらブッチョに渡す。

「サンキュー、今日は疲れたろ」

「「ええ、でもあそこまで楽しい所とは思いませんでした、私ネズミーランド初めてなんで」」

「あぁ、俺も初めてだし、ライ丸姉妹も初めてみたいだな」と言いながら受け取ったペットボトルのお茶に口をつける。

「いつもライ丸たちの両親に連絡してもらって悪いな」

「「え? 別にたいしたことじゃないですよ?」」

「いや、俺はこんなだから人に誤解される事が多くてさ」

「「そんなことないですよ? ほら、テンホーさんとかすぐに仲良くなったじゃないですか」」

「あはは、あの人は特別だ、レイさんもな」

「……」「「……」」

 夜中ということもあるが、カッ子と二人きりで話すことなどないので自然と沈黙が訪れる。その沈黙を破ったのはブッチョの言葉だった。


「ありがとな」


「「え? 突然何ですか?」」いきなりの感謝の言葉に動揺する。

「いや、お前があのとき友達になってくれって言ってくれたから、今こんなに楽しく過ごしていられるなって思って」

「「えへへ、私も楽しいです」」

「俺は子供の頃親に捨てられて、それ以来表情が変わらなくなったんだ」

「「……」」ブッチョの突然の告白に言葉をなくす。

「知っての通り、俺は何をやってもダメだし、人との接し方なんて何一つ分かっちゃいない」

「でも、お前やライ丸たちと出会ってから、なにか他人との関わり方が分かってきたような気がするんだ」

 カッ子は何も言わずブッチョの話を聞いている。

「ライ丸たちにも感謝してる、あいつらがいなかったらホスピタルクラウンに興味なんか持ってなかったと思う」

 まだクラウンの姿はカッ子やライ丸姉妹には見せたことはないのだが。

「お前たちのおかげで俺に夢ができたんだ、ほんとありがとう」

「「いや、別になにもしてませんし、ブッチョさんにもお世話になってますし、でも、夢ってなんですか?」」


「それは俺の力でお前たちを幸せにさせてやるって夢だ」


「「えっ? それって……」」と思わずカッ子はブッチョの目を見る。

「……え? あれ? なんか俺言うことまちがった?」とそんなカッ子に戸惑う。

「えっと、だから、俺がもっとクラウンとしての腕を上げて、今日のようなお前たちの笑顔を俺の力で引き出してやるって……あれ?カッ子寝るの?」

 カッ子はふてくされたように何も言わずにベッドに入り込む。

「え、えっと、じゃ、俺も寝るかな?」とブッチョもすごすごとベッドに入ろうとする。

「あ、そういえばライ子って風呂入るときも着ぐるみ着てるのか?」

「「そんなわけないじゃないですか、なにおかしなこと言ってるんですか? もう寝ますよ!」」となにやら怒っていらっしゃるようだ。

「じゃあライ子の顔知らないの俺だけ? ずるい!」と空気の読めない発言をすると。

「「ライ丸ちゃんたちが起きるからあんまり騒がないでください」」と怒られる。

「……ごめんなさい、もう寝ます」と訳も分からず敗北したようだ。

 その後ブッチョは、今までに見たことのないカッ子のマジギレにビクビクして、なかなか寝付けなかったという。


     05


「おっ、きっ、ろー」と叫びながらベッドの反動を利用してジャンプした後、空中で大の字のように両手両足を広げるライ子。

「うぎゃあ!」とブッチョの悲鳴がホテルの部屋に響く。どうやらライ子は無事ブッチョにフライングボディーアタックを決める事ができたようだ。めでたしめでたし。

「って、めでたしじゃねえ! って、ぐえぇっ!」とブッチョの上に覆い被さっているライ子の上に、丸美のボディーアタックが追加される。

 そんな感じに二日目の朝は爽やかに始まったのである。

「って、まだ6時半じゃねえか! もうちょい寝させて!」と言いながらブッチョは再度寝ようと試みるのだが、ライ丸姉妹がおなじ部屋ではしゃいでいて寝れるはずもなくそのまま起きることになる。

「あれ? カッ子は?」とブッチョは一人足りない事に気づく。

「(カッ子姉ちゃんトイレだよ)」とのこと。

「でもちょっと長いね、おっきい方かな?」とライ子が言っていると。

 ガチャッ! と部屋の扉が開いて「「ちょっとライ子ちゃんそういうこと言わないの!」」とあわててカッ子が入ってくる。部屋の外まで聞こえていたようだ。

「ん、おはようカッ子」とブッチョが言うと。

「「おはようございますブッチョさん」」と普通に返してくる。

 昨晩の一件があったので、ブッチョは内心ビクビクしていたのだが、少し安心する。

 その後一同はホテルの朝食を済ませ、身仕度を整えながら、テレビから流れる見たことのない番組やCMに興味をそそられるのであった。


 外に出ると、今日も昨日に続いて快晴である。

 ブッチョは旅行などの行事に出かけた事などないので、自分が晴れ男なのか雨男なのかなどという話題とは無縁なのだが、そんなことはどうでも良いと言う程の快晴である。

「ねっずみっしーぃ、ねっずみっしーぃ」とライ子はアホのように同じ言葉を連呼して歩いている。

 丸美はそのアホと手を繋ぎ、一人で楽しそうにスキップしている。よく転ばないものである。

「「ネズミーシーも楽しみですねぇ、知ってました? ネズミーランドではお酒売ってないですけど、ネズミーシーでは売ってるんですよ?」」と出さなくてもいいお酒の話題を出すと。

「カッ子姉ちゃん、もうお酒飲んじゃダメだよ!連れて帰るの大変だったんだから!」とライ子。

「(布団に入れるのも大変だったんだから!)」と丸美も追い打ちをかける。

「「あわわわ、別にお酒飲みたい訳じゃないですっ」」と慌てるカッ子。


 そんないつもと変わらぬ一行はネズミーシーに入場したのである。

 

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