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くらんくらうん  作者: バラ発疹
夢見るピエロ
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第六話「東京ネズミーランド」010203

 第六話「東京ネズミーランド」


     01


 陽気な音楽と共にネズミやアヒルの着ぐるみに身を包んだ人が激しく踊っている。

 ここは“東京ネズミーランド”日本のテーマパークの頂点に君臨する夢のワンダーランドである。

「マッキー! レオナルドー!」とライ子は嬉々としてキャラクターの名前を叫んでいる。

 ネズミーランドのメインキャラクター“マッキー=ストライクフィールド”はネズミの空軍パイロットで、プロペラ機を操り敵機を撃墜するエースパイロットなのだ。

 日本のアニメ映画”紅蓮の豚”というゼロ戦特攻部隊の話は、マッキーがモチーフになっているのは有名な話である。

 ちなみに”レオナルド=ダックシュタイナー”はアヒルの高射砲の砲手だ。

 しかしこのネズミーランドは、そんな血なまぐさい設定とは無縁の実に楽しい夢の楽園の雰囲気を醸し出しているのである。


 一行は前日の金曜日の晩に、ネズミーランド直行チケット付夜行バスなる格安バスで、一晩かけてはるばる愛知県から、この千葉までやってきたのだ。

 バスから降りた一行の第一声は「腰がいたい」「首が曲がらん」「(おなかすいた)」「「まだねむたいです」」と、他の乗客のテンションの高さとは対照的に、ネズミーランドを目の前に文句のオンパレードであった。

 しかし入場口で出迎えてくれたキャラクターの着ぐるみ達を見ると、前述の文句など消し飛んでしまったのである。

 着ぐるみに抱きつく着ぐるみ、というシュールな画をテーマパーク側がよく容認したなと思っていたのだが、実はカッ子がこのテーマパークの株主で、事前に根回ししていたのを知ったのはずっと後の話。


 さすがに週末のテーマパークは、気分が悪くなるほどの人の群で埋め尽くされている。

 なので人気のアトラクションは、すでに二時間以上の待ちになっている。

「(ふぅ、入り口にあんなトラップが仕掛けてあるなんて)」と行列の最高尾に並びながら丸美が言う。

 事前調査で、人気のアトラクションは開場と共にダッシュで並ぶというのが鉄則とのことだった。のだが、あの入り口の着ぐるみの出迎えは初心者には見過ごせないイベントなのである。

 今並んでいるのは”ブーさんのハニーハント”というアトラクションで、プレイボーイの豚のブーさんが女を引っかけるというアニメを再現した人気アトラクションである。

「こんなの面白いのか?」とブッチョが言うと。

「なに言ってんの! ハニーハントはジェットコースターに乗りながら立体映像で飛んでくる女の人を、光線銃で撃って捕獲するっていうすごいアトラクションなんだから!」なんだか世も末である。

「(たくさん捕まえるとブーさんバッヂがもらえるんだよ!)」豚のバッヂがほしいのだろうか。

「「バッヂもらえるといいですねぇ」」とカッ子は行列の先の方を見ながら言う。

 それから順番がまわってくるまでの一時間半、しりとりしたり、じゃんけんしたりして時間をつぶす。

 他の子供を見ると、大半の子供は携帯ゲーム機で遊びながら時間をつぶしているのだが、中にはブッチョ達一行のように両親と子供で遊んでいる家族もある。

 

 ようやく順番がまわってきて、建物の中のジェットコースターに乗り込み3Dメガネをかける。

 所用時間は約5分。あっ、という間に終わってしまった。

 しかし「あーおもしろかった!」「(まさか最後にあの女の人が裏切るなんて!)」「「バッヂ取れてよかったですね」」

 と、5分とは思えない内容であったのだ。わずか5分の為に一時間半並ぶ価値のあるものであった。

 ちなみに四人とも見事バッヂを獲得し、さっそく四人そろって服にそのバッヂを取り付ける。

 なにやらおなじ物を付けると、妙な連帯感が生まれたような気になったのはブッチョだけではないようである。


     02


「(おなかすいた)」と丸美が訴える。

 一つアトラクションを乗り終えたばかりなのだが、時間はもう昼時である。

 ここでの昼食は、レストランで食べるか、パーク各地に点在している屋台を食べ歩くかの二者択一なのだが、ライ丸姉妹とカッ子は事前に、どこの屋台で何が食べられるのかを調べてきていたようだ。

 ここの屋台は、すべて違う食べ物が販売されていて、そのすべてがキャラクターの名前がついていたり、キャラクターの装飾がほどこされている。

 

 一行は食事しながら屋台をまわり、次の屋台までの道すがらにあるそんなに並ばなくてもよいアトラクションで遊んでいく。

 実に効率の良い遊び方であるが、ブッチョはまさかすべての屋台を制覇するとは思ってもいなかったのである。

 で、最後の屋台での食事を終えた時にはすでに夜を迎えていた。

「「あと一時間でパレードが始まりますよ」」とカッ子がポップコーンを片手に言う。

「じゃあ調べておいた場所へ行こう!」とライ子はホットドッグを片手に言う。

「・・・・・・(笑)」

「パレード超楽しみ!・・・と言ってる」と丸美は右手にポテト、左手にチュロスを持っているので、ライ子が通訳する。

 ブッチョはホットドッグの最後の一口を口の中に放り込みながら、そんな具合に目的地に向かって歩く三人の後ろをついていく。


 目的地に到着すると、なるほど事前に調べていただけあって、前列の方ではないものの、子供の身長でも充分にパレードを見ることができる場所である。

 しばらくすると、場内のスピーカーから音楽が流れ出し、きらびやかな電装の施されたさまざまな山車の上では、陽気な音楽と共にネズミやアヒルの着ぐるみに身を包んだ人が激しく踊っている。


 カッ子やライ子は、嬉々としてキャラクターの名前を叫びながらリズムをとっている。

 丸美は音楽は聞こえないのだろうが、山車の上で踊る着ぐるみと同じように楽しそうに踊っている。

 そんな光景が、山車の電装に照らされて、ブッチョにはこの空間が夢なのか現実なのか判別がつかないような錯覚におちいる。

 いままでブッチョが夢で何度も見てきたこの空間は本当に夢なのかもしれない。

 ブッチョの横ではしゃいでいる三人は、出会いこそ奇妙だったものの、ブッチョが今まで現実と思っていた最低な場所から救い出してくれた恩人のように思う。

 だからブッチョは感謝の意味も込めて、この夢のような場所に三人を連れてきたかったのである。


      03


 パレードも終わり、そろそろホテルに向かわなくてはいけない時間になっていた。

 ちょうどライ子は遊び疲れたのか、先ほどから欠伸を連発させている。

「大丈夫か? 寝たら担いでいってやるぞ」とブッチョが言うと「ん? 大丈夫」とライ子は頭をふらふらさせながら答える。

 丸美はすでにブッチョの腕の中で寝息をたてている。

 ホテルは、電車ですぐの海浜幕張駅周辺で予約してあるので、ライ子を担いでいってもたいしたことはない。


 結局電車に乗る頃にはライ子も力尽きたので、丸美をカッ子に預け、ブッチョが背負って行くことになる。

 しかしなぜかホテルのロビーに到着すると二人とも目を覚ますのであった。

 で、チェックインを済ます時にブッチョが気づく。

「すまんカッ子、部屋を一つしか予約しなかった」と言う。

 ライ丸姉妹がいるとはいえ、さすがにつきあってもいない若い独身男女が一つの部屋で泊まるのはマズいと思ったのであろう。

 するとカッ子も「「えぇっ? うーん」」と躊躇している。

 それを見てライ丸姉妹は「は? 何言ってんの? 二人で一つの布団で寝てたくせに」「(ブッチョの腕枕で寝てたのに?)」と犯人の二人が言う。

「ぶっ! なにを言ってるんだね君たちは!」

「「あわわわ、な、なにもやましいことはしてませんよ?」」

 と慌てふためく二人。

 よくよく考えてみると、別に一つのベッドで寝るわけではないので、そのままチェックインすることになった。

 

 部屋に入り一息ついた後、一行は風呂に入りに行くことにした。

 このホテルのは大浴場があり、のんびりと風呂を楽しめるのである。

 ふとブッチョは、ライ子はあの着ぐるみのまま風呂に入ってるのか?という疑問が頭をよぎる。後で聞いてみようと考えながら、風呂の中でまどろんでいくのであった。


 少々長湯をしてしまったブッチョが部屋に戻ると、すでにライ丸姉妹はそろって寝息をたてていた。

「うおっ! もう寝たんかい!」と驚くと。

「「二人とも今日は最後まではしゃぎきりましたからねぇ」」とカッ子は、風呂上がりで肌を上気させたまま言う。

 そんな普段ではあまり見慣れないカッ子の雰囲気に、ドキリとしたかどうかはブッチョの無表情ではうかがい知れない。

「俺たちも疲れたな、明日もあるし早く寝るか」

「「そうですねぇ、私もちょっとはしゃぎすぎました」」


 こんな感じでネズミーランド初日の夜は更けていくのであった。

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