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くらんくらうん  作者: バラ発疹
夢見るピエロ
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第五話「メモリーセンチメートル」01から02

 第五話「メモリーセンチメートル」


     01


 今日はブッチョにとって、新年最初のホスピタルクラウンとしての活動である。

「ねぇねぇピエロさん、私にもお犬さん作って」と、手から点滴の管が伸び、胸元から巻かれた包帯がのぞいている女の子が言う。

「おぅ! ちょちょいと作っちゃうぞ」とブッチョはポケットから風船とポンプを取り出す。

 病院での活動では神経を使わなければいけないことが沢山あり、やはりバイキンを子供達に近づけないようにしないといけない。なので、風船を膨らますのも口ではなくポンプの方が望ましいのである。

「ほらできた。おプードルさんのできあがり!」とブッチョはできあがった風船を女の子に渡すと。

「なんかあっちのピエロさんの作ったヤツのが上手」とダメだしされる。

「ぶっ! いやいや俺のはここんところにオリジナリティーを出してんだよ」と左右で長さの違うパーツを指さす。

「あははは、これは絶対しっぱいしたとこでしょう?やり直し!」となかなかきびしいようだ。

「ぎゃふん! 君は師匠より厳しいな」と作り直すブッチョを、女の子は先生になった気になって楽しそうに指示を出している。

 

 ここでの活動も、ブッチョは一部の子供達から顔なじみになりつつあった。しかしここは病院なので、本当は顔なじみになどならない方が良いのだ。

 ブッチョがこの病院に来てからの短い間にも、回復して元気になって退院した子もいれば、治療の甲斐なく亡くなってしまった子供もいた。

 人の”死”というものに直面したことのないブッチョは、はげしく戸惑い、悩みもした。

 クラウンテンホーはそんなブッチョに「俺たちの役目は、子供達の笑顔を引き出し、闘病の精神的負担を少しでも軽減させる手助けをすることなんだ。俺たちは、子供達や病院の先生とか看護師のように、病気と闘っている”主役”じゃない。わき役はわき役らしく、何も気にせず自分の役をこなしゃいいんだよ」

「ピエロはピエロらしく、悲しみは内に秘めとくもんだ。そのための涙のメイクだろ?」

 とクラウンテンホーは言うが、ブッチョとしてはこの涙のメイクは、父親に捨てられたことによる精神的な病により、感情の高ぶりによってでは涙を流したことがないので、自分の人間的な部分を表す思いで書いているのだ。

 そしてクラウンテンホーは「悲しみを全部内に秘めるなんて、簡単な事じゃないけどな」と、一瞬悲しげな表情を見せる。

 テンホー氏にどんな過去があったのであろうか。

 などということを考えていると。

「ブッチョくん、たまには一杯つきあわない?」とのお誘いをテンホー氏から受ける。

 が、ブッチョの頭に初詣の記憶がよみがえる。

「すいません、どうも俺お酒飲めないみたいです」と一連の騒動を話す。

「ぶはははは! いや、いや、ほんとブッチョくん面白すぎるよ!」と大爆笑のテンホー氏。

「じゃあさ、カッ子ちゃんとライ丸ちゃんたちも呼んで、飯食いにいこうよ」とテンホー氏は提案する。

 

     02


「スカイラグーンへようこそー!」ウェイトレスのお姉さんの元気な声が店内に響きわたる。

 ブッチョ、カッ子、ライ丸姉妹にテンホー氏を加えた一行は、ファミリーレストラン”スカイラグーン”に到着した。

「なんか、ようこそなんて言われると気持ち悪いな」

「そうだね、そこまで素敵なとこじゃないしね」

「(ぼったくられそう)」

「「わぁ、みんなそんな悪口ばっかり言っちゃでめですよぉ」」

 という四人と、苦笑いのウェイトレスのお姉さんを見たテンホー氏は「あはははは! さすが四人集まると最強だな君たちは」と大爆笑。

 

 ウェイトレスのお姉さんに案内され、席につく一行。

 その後注文をするのだが、その様子を見ていたテンホー氏は「君たちはいつもそんなに注文するのか?」と、注文した品数のあまりの多さに驚愕する。さらにその後、その注文した大量の食料のほとんどを、ライ丸姉妹が平らげるのを見て絶句するのである。


 しばらくすると、次々に食料が運ばれてくる。

 ライ丸姉妹は、待ちきれないとばかりにがっつき出す。

 他の三人も空腹感から解放されるために、とりあえず無言で食べ始める。

「テンホーさんは、なんでほんな名前にひたの?」と、しばらくしてある程度食べて空腹が落ち着いたのか、ライ子は食べ物をほおばりながらテンホー氏にたずねる。

「おい、口に物入れながらしゃべるな!」とブッチョは叱ってみせると「ふぁい」と答える。

「なんか子供にテンホー”さん”なんて言われると調子狂うな」と言うと。

「(ん、ブッチョがいつもそう呼んでるからね)」と丸美が言う。

「ま、しかたないか。で、名前の由来ね、君たちは麻雀は知ってるかな?」

 四人とも麻雀はやったことはないが、四角いブロックを使った絵合わせゲームという認識で一致した。

「それで充分、麻雀であがるには決められた特定の絵柄を揃えたりしてできる役満っていうのがあるんだけど、その中に”天和てんほう”っていう役満があるんだ」

「図柄の書いてあるブロックは”はい”って名前で、基本最初にもらえる13個の牌の絵柄にもう一つ牌を引いて、14個で完成する”和了役あがりやく”っていうのを早く揃えた人が勝ちだけど、一番最初に始める”親”って人だけ最初にもらえる牌が14個なんだ。その親が最初に牌をもらった時すでに和了役ができてるのを”天和”って言うんだ」

「確率としては、親を33万回やって1回ぐらいの割合らしく”天の神様から授かった和了”って意味で”天和”と呼ばれてる。すごいだろ? ほんとに運のみの奇跡の名前で、天=大空、和=加算、あの広大な空にプラスできるって意味にもなるから”テンホー”って付けたんだ!」やはりテンホー氏はアホで厨二であった。

「え? 日本語でオッケーですけど?」とライ子は理解できなかったらしい。

「(カッ子姉ちゃん、そこの肉取って)」と丸美は食べるのに必死だ。

「「はいはい、あんまり急いで食べると喉につっかえますよ?」」と聞いちゃいない。

「ぎゃふん! 聞いちゃいねえ! あ、確かにこのメンバーと絡むと”ぎゃふん!”って言っちゃうな」とテンホー氏はなにやら納得している。

 

 テンホー氏と話すと、毎回説明っぽくなるのは俺たちが無知だからなのか?とブッチョは思うのであった。

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