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くらんくらうん  作者: バラ発疹
夢見るピエロ
24/62

030405で了

     03


 ゴォォォーン……。

 除夜の鐘が鳴り響く夜道を、四人は寒さに耐えながら神社に向かうまばらな人影と一緒に歩いていた。

 どうにか睡魔に打ち勝ったライ丸姉妹は、”紅白歌マゲドン”が終わり”ゆく年くる年”の放映が始まると、眠気を覚ますように「初詣行こう!」と言い出したので、少々早いが出発する事になった。

 向かっている神社は、出店の出るような大きな神社ではなく、地域の住民のみが行くような神社である。

 カッ子のマンションから歩くこと10分ほどで神社に到着すると、年が明けてないにも関わらずある程度の人が集まっていた。

 広場の中心では焚き火がたかれており、10人ほどの人々が焚き火の周りを囲み暖をとっていて、一行もそれに参加する。

「あったかーい」とライ子は焚き火に向かって手をかざす。

「(顔があっつい)」と丸美は焚き火に背を向けながら暖をとる。

「「あっ、あそこでお汁粉頂けるみたいですよ?」」

 カッ子の言う方を見ると、大釜で暖められたお汁粉が、無料で振る舞われているようだ。

「お参り終わったら食べて帰るか」と言うと。

「はっ! ブッチョ、年が明けるまであと何秒?!」とライ子が焦って聞いてくる。

「おいおい、お前あと何秒って、そんなにギリギリじゃねえだろ」と言いながら携帯電話の時計を見ると。

「ぎゃあ! やべえ! あと10秒だ!」ギリギリだったようだ。

「(8、7、6)」と急いで指折り数え出す。

「5、4、3」と周りの子供たちの声も聞こえ出す。

「2、1」と声は大きくなり。


「あけましておめでとう」とあちらこちらで聞こえる。


「(あけましておめでとー)」「あけおめー」「「明けましておめでとうございます」」「ん、明けましておめでと」それぞれがそれぞれに新年の挨拶をする。

「それじゃお参りしに行くか」とライ丸姉妹にお賽銭用のお金の5円玉を一個ずつ渡す。「わ、ブッチョけちくさい」との声に耳をかさずにカッ子を見ると、なにやらモジモジしている。

「「えっと、ブッチョさんすいません、私お金持ってないです」」と金持ちらしからぬ申告である。

「わかってるよ、お前が現金持ってるの見たことないしな」と言いながら5円玉を渡す。ブッチョはあらかじめ全員分の5円玉を用意していたようだ。

「「すいません、後で何かでお返しします」」

「いやいや、5円でお返しって、いいよそんなもん」

「「あっ! そうですね、ブッチョさんこういうお金のやりとり嫌いでしたね」」

「ぶっ! 5円でそんなこと言うとマジでケチに思われるからやめてぇ!」実際マジでケチである。


     04


 その後無事にお参りを済ませ、待望のお汁粉タイムである。何を願ってお参りしたか、などというどっかの安い恋愛ドラマのようなやりとりもなく、参拝前から一行の意識はお汁粉に向いていた。

 大量の湯気の沸き立つ大釜からあつあつのお汁粉が、あらかじめ白玉の入った使い捨てのお椀にそそがれる。

 一行はそれぞれお汁粉の入ったお椀と割り箸を受け取り、息を吹きかけふぅふぅ言いながら食べ始める。

「あぁ、体があったまるー」とライ子は身震いしながらすすっている。

「・・・・・・(笑)」

「うぅーん、あまくておいしい。・・・と言ってる」と丸美の両手が塞がっているので、ライ子がかわりに言ってやる。

「「あぁっ! メガネが曇って何も見えません!」」カッ子の眼鏡は湯気で真っ白になっている。

 そんな一同の横を通り過ぎたカップルが「あれ? こっちは甘酒じゃなくてお汁粉食べさせてくれるんだ」と言ったのをカッ子は聞き逃さなった。

「「そういえばこの神社から少し行った所に、もう一つ神社があるんですよねぇ。そこは甘酒ですかぁ」」と行きたそうである。

「甘酒かぁ、飲んだ事ないな。お前等行くか?」とブッチョ。

「甘酒ってなに? 私たちでも飲めるお酒なの?」とライ子は言う。丸美も首をかしげている所を見ると、二人とも甘酒を飲んだ事は無いようだ。

「「ライ丸ちゃん達も飲めますよ。甘酒っていうのは、お酒を造った後に出る酒粕を煮て砂糖で甘くしたおいしい飲み物です。どうします?」」と言いながら、足はすでに次の神社に向かっている。

 

 で、現在一行の手には、甘酒の入った紙コップが握られている。

「あっ、甘くておいしい!」

「(このつぶつぶがおいしいね)」と初めて飲む子供にも概ね好評のようだ。

「ん、少しお酒の香りがするけど、いけるな」とブッチョも気に入った様子。

「って、カッ子はどこ行った?」

 気がつくと、カッ子がいない。またいつものマンネリ迷子ネタか? という不安が頭をよぎった時「あっ、カッ子姉ちゃん!」とライ子が、近くのテントにいるカッ子を見つける。

「おい、お前勝手に行くとまた迷子になるぞ」とブッチョが忠告すると。

「「ふぁい? ブッチョはん、なんれすか?」」と、ろれつがまわっていない様子。

「は? まさかお前、いくらボケキャラでも甘酒で酔っぱらうなんて古典的にもほどがあるぞ」

 と言いながらよく見るとこのテントでは、おじさんが一升瓶片手に日本酒を振る舞っていた。

「よう姉ちゃん、なかなかの飲みっぷりだね。もう一杯行っとくか?」とおっさんが一升瓶を差し出す。

「「ふぁい、ありがほーごらいまふ」」と言いながらコップを差し出す。

「ぶっ! お前やめとけって! そんなに飲んだら帰れなくなっちまふそ……はへ? はんかろれふが……」とブッチョはお酒を飲んでないのにふらふらしだす。

「ぶ……ブッチョまさか」

「(甘酒で酔っぱらったんかーい!)」とまさかの古典ギャグである。


     05


 その後、ブッチョとカッ子の酔っぱらいの保護者は、ライ丸姉妹の介添えでなんとかマンションに戻ることができた。

 リビングまで来ると、ブッチョとカッ子は倒れて動かなくなってしまった。

「(もう! こんな所で寝たら風邪ひくよ!)」と怒ったところで起きそうにもない。

「まったく、しょうがないなぁ」と言いながら、ライ子は部屋の隅に置いてある大きな袋から布団を取り出す。

 どうやら今夜泊まるライ丸姉妹の為に、カッ子が買っておいた布団のようだ。

 ライ子はリビングの床に寝ている二人の間に、敷き布団を敷く。

「ちょっと手伝って」と丸美を呼び「せーの!」と二人でブッチョを転がして布団に乗せる。

「もういっちょ、せーの!」と反対にいるカッ子も、転がして布団に乗せる。

「よっしゃ、いっちょうあがり!」と言いながら掛け布団をかぶせてやる。

「じゃ、私たちはカッ子姉ちゃんのベッドで寝よっか」

「(やった! ふかふかのベッドだ!)」

 と、こうしてライ丸姉妹は、カッ子のベッドに二人で寝ることにしたようだ。


 リビングに一つ敷かれた布団に眠る酔っぱらい達を残して。


 翌朝、がっつりとブッチョの腕の中で目を覚ましたカッ子の「ぎゃあ!」という悲鳴が目覚ましとなって、新年の朝がスタートするのであった。


 第4話了

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