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くらんくらうん  作者: バラ発疹
夢見るピエロ
20/62

03と04で了です。

 

     03

    

 ブッチョはテンホー氏の車で送ってもらうことになり、車に乗り込む。

 そして帰りの道中、ブッチョは先ほど小児病棟で見てきた事の意味を分かりかねていた。

 するとテンホー氏が「ブッチョくんは、”笑いの力”ってもんを知ってるか?」

「いや、わからないです」と言うとテンホー氏は「さっきの子供達は、病状の重い、軽い、の差はあるにしても、一日のほとんどをベッドの上で過ごす入院患者なんだ。それを何週間、何ヶ月、何年と続けている子もいるんだ。ブッチョくん想像がつくかい?」

「いえ、入院したことがないので。でも、退屈で面白く無いのは分かります」

「そう、退屈でつまらない、ましてや病気で苦しんでいる、そんな子供を見て親だって気が滅入ってくるだろ?子供って、親のそういう所に敏感だからさらに面白くない」と、運転しながらテンホー氏は肩をすくめる。

「人間の体って不思議なもんで、つまらないことが続くのに耐えられないようにできてるんだよね。免疫力が落ちたり、精神的には鬱になったりさ。だからみんな遊びに出かけるだろ?」

 ブッチョはうなずく。

「でも、今日のあの子たちのような入院患者は遊びに出たくても外に出られないんだ。逃げ場がないのさ、あの子たちも、その親もさ」

「で、その昔。だったら、楽しさ、笑い、の方から遊びに行っちゃえばいいじゃん。と思いついたお医者さんがいたんだ。”パッチ・アダムス”って聞いたことないか?」

 昔そんなタイトルの映画があったような気がする。

「そのアダムス医師は、精神面からも治療するため自分がクラウンに扮し、入院中の子供に笑いを与えたんだ」

「毎日つらそうにしている子供から出た笑顔は、その親にも笑顔を取り戻させる」

 ブッチョはラグーナスでの事を思い出す。ライ丸姉妹の楽しそうな姿を見て、自分やカッ子が癒されたのも事実だ。

「世の中には、楽しい状態を継続させて病気が治ってしまったという話もあるくらいだ」

「そう、今日ブッチョくんに体験してもらったのは、そのアダムス医師が始めた取り組み”ホスピタルクラウン”とか”クリニクラウン”と呼ばれているものなんだ」

 そこまで聞いて、ブッチョはテンホー氏にたずねる。

「なんでそれを俺に見せたんですか?」

「ん?ブッチョくんにはクラウンとしての才能がありそうだったからさ」

 才能?なんの取り柄もないブッチョには幻のような単語である。

「ブッチョくんは、大人とか子供とか関係なく真正面から接するだろ?子供は大人のそういう所すぐに見抜くからさ、だからみんな寄ってきたろ?」

 いまいち言っている事が理解できない。

 そんなブッチョの様子を見ながらテンホー氏は続けて言う。

 

「それに、ブッチョくん自身がそういう世界、アダムス医師が思っている世界を、望んでいるように見えたからさ」


 ブッチョは世界を望んだ事などない。テンホー氏の自分への評価は理解できないが、カッ子やライ丸姉妹と出会ってからの日々と、今日見せられた世界が、ぼんやりと虚構と現実の狭間で揺れているような感覚を覚えるのであった。


     04


 ほどなくしてテンホー氏の車は、ブッチョのアパートに到着する。

「ありがとうございました」とブッチョはお礼を言いながら車を降りる。

 テンホー氏は去り際、ウインドウを開けて「ブッチョくん、今日は特別だったけど、興味があったら連絡してくれ。俺がキミをクラウンにしてあげるから」と笑いながら車を走らせて行った。

 ブッチョは、その後しばらく部屋の中でぼんやりと考えをめぐらしていたのだが、考えがまとまらない内にふと思い出す。

「そういや、今日は俺が飯を作る番だったな」

 ブッチョは呆けながらスーパーで買い物を済ませ、カッ子のマンションへ向かっていた。その途中で、見慣れた二人を見つける。

「よお、今から出勤か?」とその二人に声を掛けると。

「・・・・・・(笑)」

「あっ、ブッチョだ! 今日のご飯は何作んの?・・・と言ってる」とライ丸姉妹はいつものネタで答える。

「ん? あれ? 俺何作ろうと思ってたんだっけ?」といいながら買い物袋の中身を確認する。

「・・・・・・(?)」

「は? ブッチョこれで何作る気だ?・・・と言ってる」

 買い物袋の中には、さばの切り身、板チョコ三枚、キウイ、モロヘイヤ、ポテトチップ、そして豆板醤と、統一性のない食材が放り込まれていた。

「お?なんじゃこりゃ、超うける」と言うと。

「・・・・・・(怒)」

「超うける、じゃねえよ! たまにはまともな物作りやがれ!・・・と言ってる」

 そんな調子で、カッ子のマンションまでの道中、ライ丸姉妹に説教されるブッチョであった。


 で、現在カッ子を含む四人の前には、さばの豆板醤煮という創作料理と、モロヘイヤのポテトチップ和え、そしてデザートのキウイ、板チョコは、ブッチョがさばの煮物の鍋に投入しようとした直前三人が阻止し、そのままいただいたのだった。ついでに白飯の上には、砕かれたポテトチップスが乗り、醤油が数滴たらされている。

「「こっ、こんなふざけた料理なのにおいしいなんて、なんだかくやしいですっ!」」

「・・・・・・(驚)」

「さばの臭みがまったく無い! もしかしたらチョコ入っててもおいしかったのか?・・・と言ってる」と言いながらバクバク食べる。

「はっはっはっ! 食材を無駄にしないのが、正しい貧乏人の流儀というものなのだよ!」ブッチョの料理は、味付けこそ感覚に頼ったデタラメだが、下ごしらえは完璧だった。


 いつものように騒がしい食事風景、時にはケンカもするが笑いの絶えない空間。

 健常者とは言いがたい四人であるが、それなりに楽しいのだと思う。

 しかし楽しさという点だけで言えば、ラグーナスでの一日の比ではない。

 だが今日見てきた子供達の笑顔は、ラグーナスでのライ丸姉妹の笑顔に匹敵するものであった。

 短い時間でも子供たちからその笑顔を引き出せるクラウンテンホーは、正直すごいと思う。

 ブッチョは、自分にもそんな事ができるのであろうか。と少しだけ胸が高鳴るのを感じる。

 そんな事を考えていると、食べ終わった食器を食洗機にセットしながらカッ子が「「何か楽しい事があったんですか?」」と聞いてくる。

 ブッチョは、テレビを見て笑っているライ丸姉妹を見ながら「別に何もねえよ。今だって楽しいだろ?」と言う。

「「そうですねぇ」」とカッ子もライ丸姉妹を見ながら返事をかえす。


 確かに、苦しい事、悲しい事、つらい事、そんな事も忘れてしまう”笑い”を作れるとしたら、どれほど素敵な事だろう。


 そう思ったブッチョがテンホー氏に連絡するのに、それほど日数はかからなかった。


 第二話了

●参考文献および参考サイト

『ホスピタルクラウン 病院に笑いを届ける道化師』大棟耕介著 サンクチュアリ出版

『NPO法人日本ホスピタルクラウン協会』協会サイト

※この物語はフィクションです。物語に登場する人物、団体、設定はすべて架空のものです。

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