02とか03とか
02
女性に”友達になってください”なんて言われて悪い気はしないが、お互い初対面。目の前の女は、まぁ美人と言うほどではないが普通レベルである。身なりといえば、ノーメイクにメガネをかけ髪はボサボサで上下ジャージにパーカーを羽織っていると言う具合。
男は品定めしている訳ではないが、いつものように無表情で女を見ている。
「「あ、突然友達になってくれなんておかしいですよね? ごめんなさい忘れてください」」
「ん? いや、別にいいよ」
「「え? あれ? ほんとにいいんですか?」」
「なんでもなにも、友達になるくらいどってことないよ」
「「わぁ、ありがとうございます。すごい! 占いが本当にあたった!」」
この女は占いで友達を探しているようだ。聞いてみると、昨日インターネットで噂の占い師にうらなって見てもらったところ。「アシタジンセイノブンキテン、アシタトモダチツクルアルヨ」とのこと。カタコトなのが不安だが、占い師はさらに地図を取り出し適当にページを開き適当に指を置き。「ココデマテバトモダチデキルアル」
これで三万円、ぼったくりである。しかもなぜかカード決済オーケー。で、今に至るとのこと。
「アナタダマサレテマスヨ」
「「なぜにカタコト?!デモトモダチデキマシタ」」
「つーか、あんた友達いないのか?」
「「ギャフン! カタコトおしまい? 乗ったのにぃ……。はい、この9年ほど友達いないです。わたし引きこもりなので」」と泣いたり笑ったり表情をコロコロ変えながらながら言う。
「おぉっ初めてヒッキー見た!やっぱ親のスネかじって生活してんのか?」
「「わたし一人暮らしなので、収入あります」」
「引きこもりで収入て内職とかやってんのか?」
「「いえ、ネトゲと株です」」さらりと男とは縁のなさそうな単語を口に出す。
「おおっ! 絵に描いたような廃人ってヤツか! てかネトゲとかそんなに儲かるのか?」
「「まぁ生活に必要な分くらいは稼げます。収入の大半は株ですけどね」」
たぶんネトゲも株も、素人が手を出すにはリスクが高すぎるだろうな。と男は思っているふりをして、ネトゲも株もぼんやりとしたイメージしか思い浮かばない。所詮その程度の人間である。
しばらく呆けていたが、ふと仕事に行く時間なのを思い出す。
「うおっやべっ!仕事行かなきゃいかん!じゃまた今度な!」
「「あっ、携帯のアドレスを」」
「すまん、俺携帯もってないんだよね」
「「じゃあウチに直接来てください。ウチは駅前のヒルズパレス903号室です」」
「「ああっ、あとわたしの名前は……」」女が自分の名前を言おうとすると。
「待った! わかるぞ! お前の名前は……」
「”カギ カッ子”だあぁぁぁぁぁぁっ!」
「「えぇぇぇぇっ! ぜんぜん違いますよぉぉぉっ! てゆうか安直すぎますよぉ!」」
「「あ……でも、それでいいです」」いいのかそれで? しかしなぜか少しうれしそうに見える。
「じゃあ近いうちに遊びに行くぞ! またなカッ子!」
「「はいっ! 待ってます!」」
カッ子と名づけられた女は、男の姿が見えなくなるまで手をふりつづけた。そこで気づく。
「「名前聞くの忘れた」」
03
築43年の四畳半の部屋に、目覚まし時計のごう音が鳴り響き男が目を覚ます。
昨日は結局一時間遅れで出勤してバツが悪かったので、早めに起床する。
「さて、今日もバリバリはりきって仕事するぜ! いつものように、俺の仕事っぷりに上司も舌を巻くぜ!」
サドルに穴の開いた愛車のフェラーリを走らせること12分、ここが男の勤務先スーパー バーローフーヅである。
バーローフーヅは、ここ地元愛知県に6店舗を構える中堅スーパーである。
男はいつものようにバリバリ仕事をする。
「おらぁ! 新入りぃ! いつまでもチンタラやってっとクビにすんぞぉ!」
どうやら男は、新入りで駄目社員のようである。
人はみんな、自分が主人公の物語の中で生きている。
中学生の頃そんなことをぬかした教師がいた。うまいこと言ったつもりだろうが、つまらない”物語”しか出てこない人間にとってはビタ一文心には響かない。
てか中坊ばっか相手してるから頭ん中膿んできて、そんな厨二病的な発言をはずかしげもなく言えるのだろう。
主人公だからってデキル奴ばっかじゃねえんだよ!と誰にうったえるでもなく心の中で叫んだ。
そうやっていつものように悶々と仕事をしているうちに、帰宅の時間を迎える。実は男はバイトなので15時で帰宅なのである。男は持ち前の低能力と社交性の無さで定職には就けずにいた。
しかもこれまでの24年の人生の中で、友達と呼べる存在は皆無に等しかった。
「おっ、そういや昨日友達できたんだった。さっそく遊びに行くか!」と言ったところで行動が止まり震えだす。
「だ……だれじゃぁぁぁ! 俺の愛車のサドルに穴開けた奴はーー! しかも二つも! 俺の顔(∵)みたいになってんじゃねえか」
確かにサドルには綺麗に三つの穴が開いている。また勢いにまかせて犯人探しをしようとすると、どこからともなく声が聞こえる。
「ひとつ人よりかわいくて」
「ふたつ二重の器量よし」
「みっつみんなの癒しキャラ、それは誰かとたずねたら……」
「それはわたしの妹だあぁぁぁぁぁ!」
と、駐輪場横の自動販売機の上に現れたのは二人の子供である。
叫んで現れた一人目はライオンだと思われる着ぐるみに身を包んでいる。どうやら手作りのようで、サイズも大きければ作りも雑。顔に至っては、黒目があらぬ方向を向いている始末。
着ぐるみの後ろでおっかなびっくりしがみついているもう一人は、かわいらしいパステルカラーのワンピースに身を包んだ女の子である。
どうやら声の感じから、着ぐるみの方も女の子の様子。叫んでいた内容からすると姉妹なのだろう。着ぐるみの方が背が高いので姉なのだろう。
「あ、あぶないから降りなさい」唖然としていた男がなんとか発した言葉は、おそろしいほどまともな忠告だった。
二人の子供は、プラスチック製のビールケースを積み上げて作った階段を使って降りてくる。
「・・・・・・(笑)」ワンピースの女の子が、無言のまま口をパクパクさせる。
「こんにちは。わたし達はあやしい者ではございません。・・・と言ってる」とライオンの着ぐるみがしゃべる。
うわぁ、まためんどくさいのが絡んできたな。と思っていると。
「・・・・・・(怒)」
「めんどくさい言うな!・・・と言ってる」
「ぎゃぁ! 勝手に人の思ってることを読むな! てか読めるの?」
「うん、妹は人の思ってることがわかるよ」とライオンの着ぐるみが言う。
「嘘だ!」と言いながら、何で着ぐるみなんか着てんだ?と思うと。
「・・・・・・(怒)」
「着ぐるみちゃうわ! お姉ちゃんは本物のライオンじゃい!・・・と言ってる」
「ぐはぁ! モノホン? やべぇ怖い! もう行く!」と愛車に乗ろうとすると。
「・・・・・・(哀)」
「おなかすいた。・・・と言ってる」
「はい?」
「・・・・・・(笑)」
「マグドでゆるしてやる。・・・と言ってる」
マグドとは大手メジャーハンバーガーショップで、100円バーガーを始め貧乏人にやさしいお店である。
男も常連だが、見知らぬ子供におごってやるほど人間出来てはいない。
今日から俺はNOと言える人間になる!と男は思うのであった。