04から07までで了
04
次のミニゲームは、壁で光っているスイッチ12個を同時に押すというもので、これは四人で協力してクリア。
その次は、左右の壁と天井と床に開いた穴から、出てくるモグラ風モンスターを叩くという、ハイパーもぐらたたき。これも四人でできるように、ハンマーが四つ用意されていた。
これも四人でクリアしたのだが。相当な数のモグラ風モンスターが出てきて「ぜぇ、ぜぇ、これって一人じゃクリアできなくね?」というブッチョの疑問に同意するライ丸姉妹とカッ子。
他にやっている人を見てみると、どうやら参加人数に応じてノルマが変わるらしい。
で、なんだかんだで四つすべての光の玉を手にいれる。しかしなぜか液晶画面には、新たにもう一つの玉を入れるべき穴が表示されている。
「・・・・・・(?)」
「あれ? なんかやり忘れたっけ?・・・と言ってる」
「「ん? でも、地図にはヨシオの所に行けって出てますよ?」」
疑問は残りつつも、勇者様御一行は最終決戦へとむかうのであった。
このアトラクションの受付の横にある、ヨシオの城の扉を開けて中に入る。全員が中に入ると、扉が閉じられる。
「なんか暗くてやな感じだな」と漏らしていると。
ガガーン! ドドドド! という轟音と共に、雷のようなエフェクトが発せられる。どうやら最終決戦の始まりのようだ。
『ハッハッハッ! おろかな人間共よ、ここで朽ち果てるがいい!』とベタな台詞がスピーカーから流れる。と同時に前方に魔王っぽい人形が姿を現す。
「ぎゃあ! ヨシオ出た! けっこう怖えぇ!」ブッチョはこの手のものが苦手らしい。
前方から、魔王の攻撃がきている体で、音と光にあわせて風まで出る気合いの入った演出である。
ライ丸姉妹を見ると、興奮最高潮らしく。二人で剣を握り合い、魔王の攻撃を跳ね返すように、必死で前に突き出している。
しばらくそうしていると、突然エフェクトが止まり、キラキラした音と共にスピーカーから声が聞こえる。
『私は光の玉の妖精。最後の隠された光の玉を取らないと、魔王は倒せないわ!これを使って!』という台詞と共に、魔王の人形の前のカゴにグローブが滑り込んでくる。
『それで魔王の頭を、10秒間に30回殴れば光の玉が手に入るわ!』
「またこれかい! ノルマ上がってるし!」
「お父さん! お願い! 光の玉をとって!」と叫んだのは、どうやら丸美ではないライ子の言葉のようだ。
「?」なんの事だかわからないブッチョとカッ子が、ライ子を見ると一心不乱に力んで叫んでいる様子。
まぁ、小学校の頃たまに先生を呼ぶときに「おかあさん!」とか言い間違う奴がいたので、それと同じ言い間違いだろう。
それをカッ子も理解したようで「「ちょっとがんばらないといけませんね、お父さん?」」と小声でからかう。
「よっしゃ、お父さんちょっと気合い入れていくかな」とグローブを装着しながら言う。ライ子には聞こえないように。
スピーカーから妖精の声でカウントダウンが始まる。
『スリー・ツー・ワーン』
「ゴーッ!」と全員のかけ声と共に、魔王の右上のタイマーがカウントダウンされる。
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」魔王にパンチを連打するブッチョ。
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」残り4秒を切っても失速しない。
「うおおぉ……げほっ、げほっ!」むせながらもパンチを繰り出し、10秒をしのぎきる。
「ぜぇ、ぜぇ、どうじゃあっ!」
カウント表示は……”35”
「よっしゃあ!」
という声と同時に、剣の液晶画面に最後の光の玉がはめ込まれる。
『よくやったわ! これで魔王を倒せる! その剣を魔王の胸に突き刺すのよ!』となにやら物騒な事を言う妖精の声と共に、魔王の胸が開き剣を差し込む穴が出現する。
それを見て、ライ丸姉妹はあわてて剣を差し込みに行く。
そうして魔王にとどめをさすと『おのれ人間ども、この恨みはらさでおくべきか!』と言う呪いの言葉を残し、魔王人形はゴゴゴ! という音と共に下にさがって消えていった。
「やったー!」とライ丸姉妹は手をとりあってピョンピョン飛び跳ねている。
するとスピーカーからアナウンスが入る。
『おめでとうございます。これで終了でございます。グローブは受付までお持ちください。』
そうして受付でグローブを返すと、代わりにクリア特典として、剣の形をしたビニール風船二つを手渡され、大喜びのライ丸姉妹。
こうして、ライ丸大満足のラグーの勇者は幕を閉じたのであった。
05
その後、昼食として大量の食料を胃の中に放り込み、一通りの乗り物を堪能する。
「・・・・・・(笑)」
「ねぇ、次あれ乗りたい!・・・と言ってる」
丸美が指さす先には、ボートに乗っている人たちがいた。
ここラグーナスは、テーマパーク全体を運河に見立てた川が流れていて、そこをボートに乗って遊覧することができるのである。
ボートは二人乗りだということなので、じゃんけんの結果、ブッチョ・ライ子ペアとカッ子・丸美ペアに分かれて乗ることになった。
先にカッ子達が乗り、こちらに手を振って出発する。
次にブッチョ達の番だが、ライ子が先に乗ろうとすると係員の兄ちゃんが「あっ、ごめんねお父さんから乗ってもらえるかな?」と言うと。
「お父さんちゃうわ!」速攻否定である。
テーマパークで着ぐるみという異常な光景も相まって、係員の兄ちゃんは愛想笑いしか出てこない。
「お前、そこは別に否定せんでもスルーでいいだろ」
「だって、ブッチョはお父さんじゃないもん」ライ子は拗ねたように言う。
「いや、でもさっき魔王と戦ってる時に俺のこと”お父さん”って呼んでたぞ」
「!!!」どうやら恥ずかしいのだろう、ビクン!としたまま止まってしまった。
しかし次の瞬間「ぐはぁっ!」ブッチョの横っ腹にライ子のパンチがつきささる。
「ぐだぐだ言ってないで早く乗れ!」と照れ隠しにしては少々過激である。
ボートに乗るとすぐにライ子の機嫌も治り、丸美達が見えると手を振りあう。まぁ、ボートは乗ってるだけでも楽しいのだが、できることといったら手を振るぐらいのものである。
「・・・・・・(笑)」
「あー気持ちいいね。・・・と言ってる」
このうだるような夏の暑さでも、水の上はそれなりに清々しかった。
06
あまりに平然としていて気がつかなかったが、ライ子はこの暑さの中着ぐるみで大丈夫なのだろうか。
「お前そんなの着てて、暑くないのか?」と聞いてみると。
「ん? ちょっとここに手ぇ突っ込んでみ?」と言いながら、ブッチョの手を首の辺りに引っ張り込む。
「!!!」驚いた事に、着ぐるみの中はヒンヤリ涼しかった。
「ふっふっふっ。冷水をホースで全身に循環させて、ホースの冷気で涼しくするシステムが装着されているのだよ」と得意げに言う。
「ずりぃ! 心配して損した!」
はっはっはっ! と運河にライ子の高笑いが響き渡った。
「「なにかずいぶん楽しそうでしたねぇ」」ボートから降りると、カッ子はそんなことを言う。
「そっちは楽しくなかったのか?」
「「いいえ、すっごい楽しかったですよ。ねーっ」」と丸美と顔をあわせ、楽しそうに一緒に首を傾ける。
「そいつはよかったな」と丸美の頭をなでてやる。
ライ子の方を見ると、なにか呆けているようだ。
「おい、大丈夫か? 疲れたんか?」
「は? ぜんぜん大丈夫ですがなにか?」どうやらかなりキているようだ。
「「そうですねぇ、丸美ちゃんも少し目がすわってきましたし、休憩しましょうか?」」
「やだ!」ライ子は即答で拒否。
「私はこんなところで力尽きる訳にはいかないんだ!」なにか格好いい事言っているが、しょせんは遊びたいだけである。
で、現在ライ丸姉妹は揃って熟睡している。
ライ子はブッチョの背中で、丸美はカッ子の胸で。
「つーか、あんな事言っといて、一回寝たらもう起きないんだもんな」
「「しょうがないですよぉ。二人ともかなりはしゃいでましたからねぇ」」
「そうだな、なんかこいつらの親に悪いな。あんなに楽しそうな笑顔を俺らがもらっちまって。一人笑顔わかんない奴いるけどな」
「「……そうですね」」
そんな事を話しながら夕日を背に家路に着いたのだった。
07
結局、ライ丸姉妹は自宅に着くまで起きなかった。
ブッチョはライ丸姉妹の自宅を見るのは二回目だが、前回は家の手前で別れたので、家族の人とは会っていない。
すでに時間は午後7時をまわってしまっているのだが、両親は帰ってきているのだろうか。
ライ丸姉妹の家は、築20年ほどのなんの変哲もない一軒家である。ブッチョとカッ子はインターホンを鳴らす。
出てきたのは60代であろうかという初老の女性である。祖母であろうか。
「はい、なんでしょうか?」と女性はブッチョとカッ子を訝しげに眺める。
「あ、えっと、ライ丸……じゃなくて」そういえば本名知らなかったな、と今更ながらに思う。
女性は、二人が抱きかかえている子供に気づき。
「あらあら、あなた達が、そう、あぁ二人ともぐっすりね、悪かったわね」と言いながら「おじいさん、手伝ってちょうだい!」と家の中に向かって叫ぶ。
すると、女性より少し年の多そうな男性が奥から出てくる。
訝しげに見る男性に女性が耳打ちすると、納得した顔になり、女性と共にライ丸姉妹を受け取る。
「いつも悪いわねあなた達、これからもよろしく頼むわね」と言いながら家の中に消えていく。
少しの違和感と寂しさを覚えながらも、ブッチョとカッ子は帰りの道を進む。
「「なんだか寂しいですね」」
「ん? あぁ、結構騒いだからな」
言葉少なに歩いていると、大通りの交差点にさしかかる。
「「あれ? ブッチョさんのアパートあっちじゃないんですか?」」
「は? お前一人で帰れんの?」と言いながらジョスコでの一件を思い出す。
「「あっ、そうですね、無理でした。じゃあついでに何か食べて帰りません?お腹すいちゃった」」
「そうだな、マグドでいいか?」
「「いやいや、まだ金額に余裕ありますから違うものにしましょ?」」
結局二人はファミリーレストランで食事をした後、カッ子をマンションまで送って別れるのだった。
その帰り道。ブッチョは今日の出来事を思いだし、今日起こった事は、夢か幻のようなそんな錯覚を覚えていた。
それはもしかしたら、テーマパークの持つ雰囲気の魔力のようなものなのか、そういった喧噪から抜けた後の寂しさからなのか解りかねていた。
しかし、確実に胸の中に生まれた感情があった。
こんな夢のような出来事がずっと続けばいいな、と。
第二章了