第五話「勇者の条件」01から03へ
第5話「勇者の条件」
01
ここは異世界ラグー。
青く広大な海と空には巨大なドラゴンが蹂躙し、大陸には様々な種族の生き物達が、生を謳歌する大いなる世界。
すべての物には魔法の力が宿り、すべての生き物には力が授けられる。
そんな世界のお話。
この世界では、近年一人の人間が世界を支配していた。
その人間の名は”ヨシオ”。
我々の世界から、この異世界に迷い込んだ特異点。
この調和のとれた異世界は、不意に入り込んだノイズで崩壊の危機に瀕していた。
この世界を崩壊から守るべく賢者は、4人の人間を、これもまた我々の世界から召還した。
勇者”丸美”
従者”ライ子”
使用人”カッ子”
奴隷”ブッチョ”である。
「って、誰が奴隷じゃあっ!」
「・・・・・・(笑)」
「だって、あきらかにブッチョ役にたってないんだもん。・・・と言ってる」
確かに、先ほどの問題でもブッチョの回答は間違っていた。
そう、ここは異世界ではなく、愛知県南部にある”ラグーナス”という海をメインにしたテーマパークである。
ラグーナス自体は、海や海賊をモチーフにしているが、現在一行は前述の冒険アトラクションを体験中なのだ。
「「よかった、てっきり話の方向転換で異世界に飛んだのかと思いました。でも、私はメイドの方がよかったです」
「カッ子! そのネタはやめろって! てか、ヨシオ出た! 流行なのか?」設定では”高橋ヨシオ”だそうだ。どこかの類人猿とは違うのだろう、きっと。
で、毎度のことながら、なぜラグーナスに遊びに来ているかというと。
それは、8月もお盆を過ぎた頃の、ライ丸姉妹にとっては夏休み終了間際の日曜日にさかのぼる。
02
天気の良い日曜日、エアコンの効いた部屋の中、例のゲームでレイさん一味をこてんぱんにした後の昼食時。
「「ブッチョさん、今度の水曜日暇ですか?」」
「なんだ? 唐突に。別に水曜日はバイト休みだから暇だけど。いやだぞ、また変なのとゲームすんの」
「・・・・・・(汗)」
「そうだね、これ以上変な知り合い増やしたくないね。・・・と言ってる」
「「いえ、実はこんな物をいただきまして」」とカッ子は四枚の紙切れを取り出す。
それをのぞき込むブッチョとライ丸姉妹。
「・・・・・・(!)」
「あっ! ラグーナスのチケット!・・・と言ってる」
「あぁ、テレビで宣伝やってたやつか」
みんなでテレビを見ていた時に、ライ丸姉妹がそのCMにやけに食いついていたのを思い出す。
「・・・・・・(笑)」
「今、ラグーの勇者って体験型アトラクションやってるんだよ! 液晶画面付きの剣を持って、謎を解いたりすると光の力を手に入れて、それを四つ集めて魔王を元の世界へ戻すってやつ!・・・と言ってる」と、ライ丸姉妹は興奮しているようだ。
「ほう、誰からもらったんだ?」
「「え? ライ丸ちゃん達のご両親からです。いつものお礼だって」」
「は? お礼なのか? それって体のいい子守……げふぅ!」すかさずライ子のパンチが横っ腹に絶妙な角度で入る。
「・・・・・・(怒)」
「……」ライ子は訳さなかった。
「ん? 何か言ったんじゃないのか?」
「お姉ちゃん殴っちゃだめだよ! って言われたんだよ!」
「げふぅ!」ライ子の渾身の蹴りがブッチョの側頭部に決まる。前にもこんなことがあったが、蹴りならいいのか?
「「まぁお小遣いもいただいているので、行きましょうよぉ」」
「あぁ、別にイヤだとは言ってないぞ。水曜日だな」
「・・・・・・(嬉)」
「やったーっ! すっごい楽しみ! もう眠れないかも!・・・と言ってる」ライ丸姉妹は手をとりあってピョンピョン飛び跳ねている。
どうも両親の仕事が忙しく、夏休みにどこへも連れていってもらえなかったらしい。そんな両親のせめてもの罪滅ぼしに付き合うのも、ライ丸姉妹のこの喜びようを見られれば良しと言わざるをえない。
「とりあえずちゃんと寝ろよ! 行く前にバテたら元も子もないぞ」
「「それじゃ水曜日の朝8時ここに集合ってことで」」
という訳で、一行はラグーナスへと向かうことになったのである。
03
で、現在ラグーナスで、ラグーの世界を冒険中の勇者御一行様である。
このアトラクションは、カウンターで受付を済ますと、液晶画面付きの剣を手渡され、スタンプラリー形式でミニゲームなどをクリアすると、液晶画面に描かれた穴に光の玉が表示されるらしい。ミニゲームの場所は、液晶画面に映るテーマパークの地図に、次の場所が光る仕組みになっている。
ちなみに先ほどのミニゲームは図形クイズだった。ブッチョのせいで危うく不正解になるところだったが、ライ丸姉妹のおかげで正解しみごと最初の光の玉をゲットしたのである。
「で、次はどの辺りなんだ?」
丸美は、ライ子の持つ剣の液晶画面をのぞき込む。剣は丸美が持つには大きすぎるのだ。
「・・・・・・(覗)」
「えっと、次はおみやげ屋さんの横の辺りだね。・・・と言ってる」
おみやげ屋さんの横には、ネズミともウサギともつかないオブジェが液晶パネルをかかげている。
「なになに? このネズミウサギの頭を、10秒以内に25回殴れ?」この安直な名前のオブジェの横にはグローブが垂れ下がっている。
「・・・・・・(笑)」
「よし、奴隷! 行け! 失敗したらゆるさん!・・・と言ってる」
「奴隷言うな! とはいえ、さっきの名誉挽回せんとな」挽回する名誉などないくせによくいうものである。
ブッチョはグローブをはめ、ファイティングポーズを決める。そして、液晶画面にタッチするとタイマーが表示され、カウントダウンをはじめる。
「うおおおおおおおおおっ!」雄叫びをあげながらパンチを繰り出す。
「うおぉぉぉ……おぉぉ……」残り4秒あたりで失速。
終了間際ヘロヘロになりながらも10秒を乗り切る。
「ぜぇ、ぜぇ、ど、どうだ?、ぜぇ、いっただろ」体力無さ過ぎである。
画面を見ると、25回と表示されている。
「「ぎりぎりでしたねぇ。でもこのゲームはクリアです」」
剣の液晶には、二つ目の光の玉が表示されている。
「・・・・・・(笑)」
「二つ目の玉、ゲットだぜ!・・・と言ってる」
「ぜぇ、ぜぇ、その決めゼリフ大丈夫か? ぜぇ、ぜぇ」お前の方が大丈夫か? と聞きたい。
こんな感じで、はしゃぎながら進行する一行であった。