第四話「モダンウォーフェア」01と02
第4話「モダンウォーフェア」
01
カッ子は、ビルの廃墟の二階の窓から外をうかがう。
眼下を味方が走り抜けていく。
直後銃声が鳴り響き、戦闘が開始される。
雑居ビル前方の道路右側を敵が走り抜ける。カッ子は、装備しているアサルトライフルで狙いを定め、トリガーを引くと、目標の敵はその場に倒れ伏す。
視線を前に戻すと、向かいのビルの窓からこちらを狙う敵が。
「「しまった!」」と思った瞬間、こちらを狙っていた敵が窓から転げ落ちた。
「大丈夫かカッ子!」ブッチョが窓から姿を見せる。
「「ありがとうございます。助かりました」」
ひと安心した直後、爆撃機の轟音が上空から鳴り響く。
「なっ! 空爆!?」二人は建物の中にいるので安全だが、窓際では爆風に巻き込まれる恐れがある。
「・・・・・・(笑)」
「空爆要請したから、二人とも気をつけてねー。・・・と言ってる」
ドカン! ドカン! ドカン! と周囲を焼き尽くす爆撃が放たれる。
「マジかお前ら、空爆て。そんなに倒したんか?」
「・・・・・・(笑)」
「あははは、今のでさらに3人逝ったね。・・・と言ってる」
空爆は、自分がやられずに5人連続で倒すと呼べるボーナスなのだ。
そう、これは最近はやりのFPSゲームの話。
FPSとは、その名の通り自分視点で動かし、鉄砲をうって敵を倒すゲームである。
なぜ、こんなゲームをやっているかというと……。
時は、夏本番を思わせる七月初旬。思わずエアコンの効いている場所へと足が向いてしまう時期の話。
ブッチョとライ丸姉妹の頭のなかで、エアコンの効いている施設は、自動的にここカッ子の家になる。
まぁ、暑くても寒くてもここに集まるので、季節は関係ないのだが。
「「で、今日はみんなにお願いがあるんですけどぉ」」
「金ならないぞ」金持ちに言うせりふではない。
「・・・・・・(哀)」
「ご飯は減らさないでください。・・・と言ってる」どんな貧乏セレブか。
「「いや、このゲームを一緒にやってもらいたいんですけど」」と、なにやらゲームの箱を手にカッ子は言う。
ゲームのタイトルは”コールオブビューティー:モダンガールフェスタ3”全世界で記録的な本数を売り上げた、大ヒットFPSシリーズの第3弾らしい。
ゲーム内容をざっくり説明すると。セクシーな女性兵士が、露出度の高いコスチュームで、数種類の武器を使い、2チームに分かれて対戦するというお色気系FPSである。
ちなみに設定として、人は攻撃を受けると気絶するので、武器は実在のものではない。
カッ子はこのゲームをやってる人たちのチームに所属していて、今日は他のチームとの決戦なのだが、チームメイト3人が用事でプレイできないとの事。
ヒマ人のカッ子が補充要員の確保をまかされたのだが、人見知りの激しいカッ子は、悩んだ末ブッチョとライ丸姉妹に助っ人を頼んだ次第である。
02
「よし、わかった。けど、お前のやってたネトゲってこのゲームの事か?」
「「いいえ。ネトゲの方はパソコンのオンラインRPGです。そっちの話がいいですか?そうなると、傾向としてゲームの世界に入り込むことにもなりかねませんけど?」」
「・・・・・・(汗)」
「カッ子姉ちゃん。あんまりそういう事言わない方がいいとおもうよ?・・・と言ってる」
「おい! あんまこのネタ引っ張るな!」
「「あれ? そうですか? じゃあこっちの部屋に来てください」」
と言って開けた隣の部屋の中には、3台の液晶テレビと、それに繋がった3台のゲーム機がセットされていた。
「うおっ! どっかのオフィスみたいだな。わざわざこのためにそろえたのか?」
「「いえ、テレビとゲーム機を3台つなげて遊ぶゲームがあるので、そのためのセットです」」
実際、5台つなげて遊べるゲームがあるそうだが、それは別の話。
「・・・・・・(驚)」
「すごーい! はやくやろーよ!・・・と言ってる」と、目をキラキラさせながら言う。
「「じゃあ少し説明しますね」」といってリモコンで電源を入れていく。
それから約10分ほど操作説明を受ける。
さすが子供は飲み込みが早く、すぐに操作を覚える。ブッチョも出来が悪いなりに覚えたようだった。
次に使用武器を選ぶのだが、大きく分けて遠距離・中距離・近距離の武器がある。で、数回プレイした結果。
ブッチョ……近距離武器 (ショットガン)
カッ子 ……中距離武器 (アサルトライフル)
ライ子 ……中距離武器 (アサルトライフル)
丸美 ……遠距離武器 (スナイパーライフル)
という具合になった。
「よし、まぁだいたいオッケーだろ」
「・・・・・・(怒)」
「ぜんぜんオッケーじゃねえよ! 敵が見えたからって、あんな遠距離からショットガンがあたるか!・・・と言ってる」たしかにぜんぜんオッケーではない。
「「まぁ時間もないですし、これでいきましょう」」
と言いながら、カッ子はリビングの方のゲーム機を起動させる。ブッチョとライ丸も、それぞれのゲーム機のコントローラーを持つ。
現在ゲーム画面には、ロビーと呼ばれる文字だけの画面が映し出されている。
「・・・・・・(笑)」
「あっ! わたし達の名前が書いてある。・・・と言ってる」
テレビ画面には、ブッチョ・カッコ・ライコ・マルミ、と上から順に並んで書いてある。他の名前が無いが、時間になれば増えるらしい。
「ふーん。で、この名前の前の文字はなんだ?」
自分達の名前の前に、カッコに囲まれたアルファベット四文字が書いてある。
「「あっ、それは”クランタグ”って言って、チームの名前みたいなものです。こういうゲームでは、チームの事を”クラン”って言って、このゲームではその名前をアルファベット四文字で付けられるんです」」
「・・・・・・(笑)」
「じゃあ、わたし達も”クラン”かな?・・・と言ってる」
「アホか、チームなんて格好いいもんじゃねえだろ? 寄せ集めで充分だ」と言いつつ、まんざらでもない様子。
「「えへへへ、今度わたし達の”クランタグ”考えましょうか」」
「ところでこのクランタグはどう言う意味だ?[HDKS]何かの略か?」
「・・・・・・(!)」
「H……ほっとけ・D……だまれ・K……けど・S……好き。・・・と言ってる」あいうえお作文が始まったようだ。
「ツンデレか?! もっとかっこいい略だろ! たとえば、H……ハイソな感じで・D……ドラスティック・K……クロッシング・S……サレンダー」
「「厨二病ですか! 支離滅裂ですし!H……ヘタ・D……だけど・K……かんべん・S……してね。の略です」」まったくもって駄目である。
これからの対戦の泥試合ぶりが目に見える、ブッチョとライ丸姉妹であった。
そんなこんなで、これから数分後に世紀の泥試合が幕を開けるのであった。