第三話補足「着信アリ」01と02で了
第三話補足「着信アリ」
01
はじめての携帯電話から二日後、カッ子が新しい服を披露する前日の話。
いまやすでに、変人達のたまり場になりつつあるカッ子宅。
その食事時間でのひとコマふたコマ。
最近夕飯は、四人そろって食べるのが習慣になりつつあった。二人ほど、夕飯ではなく間食として食べている子供がいるが。
「・・・・・・(汗)」
「うっ。カッ子姉ちゃん、このハンバーグすっごい甘いんだけど。・・・と言ってる」
「おい、味噌汁の半分が味噌のかたまりだぞ」
「「ええっ! おかしいなぁ、ちゃんと料理本の通りにやったんですけどねぇ」」
あの買い物の一件からしばらくして、せっかく買った調理器具を使わないのはもったいないと、ブッチョとカッ子が交代で夕飯を作ることになったのだ。
カッ子は、料理本を見ながら作っているにもかかわらず、できあがる物は、見た目は良いが、本とは違った味になる。まともにできるのはご飯を炊くことぐらいである。
ブッチョの作る料理はというと、味は良いのだが、高タンパク、高カロリー、高コレステロール、そして量が多いときている。しかも、オリジナル料理が多いので、見た目が最悪なのだ。
とはいえ、文句を言いながらも毎回全部たいらげてしまうのだが。
食事を終え、食洗機に食器をセットしているブッチョにカッ子が声をかける。
「「ブッチョさん、携帯電話の調子はどうですか?」」
「あぁアレなんか壊れてるみたいだから使ってねえよ」
「・・・・・・(怒)」
「なんだ、いまどき不良品つかませるたぁふてぇ野郎だ!・・・と言ってる」とライ丸は、なぜか時代劇の口調で怒りをあらわにする。
「「それじゃあ交換してもらわないといけませんねぇ。どこが悪いんですか?」」
「あぁなんか、どのボタン押しても、画面が真っ黒で何も映んねぇ」
「「ん?」」
「・・・・・・(?)」
「あれ? それって、電源入ってないんじゃない?・・・と言ってる」
「は? だから、電源も入らないんだって」
「「えっと、電源ボタンは3秒ぐらい長押ししないと入らないですけど?」」
「え? そうなのか? どれどれ」ポケットから、携帯電話を取り出す。使えないのに持っているとは律儀なやつである。
言われた通りボタンを押してみると、電子音と共に画面が映る。「おおっ!ちゃんと動いた!」
「・・・・・・(汗)」
「いまどき携帯の電源も入れられないやつがいるのか?・・・と言ってる」
「「ブッチョさん、どれだけ文明の利器から離れてるんですか?」」
電源が入り、はしゃいでいたのもつかの間。すぐに落ち込んでしまう。
「……電話をかけようにも、かける相手がいねえ!」
「・・・・・・(驚)」
「ブッチョ友達一人もいねえのかよ! いるのかそんな奴!・・・と言ってる」
「なっ! お前らだって、毎日こんな所に来てて、友達いねえんだろうがぁっ!」
「・・・・・・(怒)」
「ブッチョと違って、友達いっぱいいるもん! いつも友達と遊んでから来るんだもん!・・・と言ってる」
「ま……まじか、お前ら絶対友達いないもんだと思ってたのに」ガックリとうなだれるブッチョ。
「「ブッチョさん携帯貸してください」」と言いながら、カッ子はブッチョから携帯電話をうばいとる。
すると、手早くブッチョの携帯をいじりまわし、自分の携帯と向かい合わせる。どこかの儀式のように向かい合わせると、ピロリン、という電子音がなる。
そのまま返された携帯電話を見ると、画面には登録された電話番号が映っていた。ご丁寧に、”カッ子”という名前で。
「「ブッチョさんの初めてもらっちゃいましたぁ」」と、うれしそうにはしゃぐ。
「なんかそのいいまわし、ちょっとエロいな」
「・・・・・・(怒)」
「ブッチョさいてー。・・・と言ってる」
「ぶっ! 意味わかんのか、お前らにはまだ早い!」
あまりこのネタを引っ張るとヤバいと感じたブッチョは、携帯電話を持って歩き出す。
「ちょっとお前らここで待ってろよ」と言い残し部屋を出ていく。
02
取り残されるカッ子とライ丸姉妹。
しばらくすると、カッ子の携帯が鳴り出す。
カッ子が電話を取ると『もしもし、ってうわっ、もしもしって言っちゃったよ。しかも自然に!』という、ブッチョの、はしゃぎ過ぎて寒いテンションの声が、静かな部屋に響き、苦笑する三人。
「「あのぅ、同じ家の中で電話って、電話代の無駄だと思うんですけど」」と、呆れながら言うと。
『別にいいじゃねえか。最初ぐらい。ってお前、脱いだ服こんな所に山積みにしてんじゃねえよ』
「「ぎゃあっ! ブッチョさんどこにいるんですかぁっ?!」」
『どこって、ベッドがあるから寝室か?てか洗濯ぐらいしろよ』
「「まとめてクリーニングに出してるんですっ! 女性の寝室のぞかないでくださいっ!」」
「・・・・・・(汗)」
「いや、でも、カッ子姉ちゃん、アレはちょっとないね。・・・と言ってる」
ライ丸姉妹は、初めて来たとき寝室をのぞいていた。
「「ぎゃふん! 寝室のぞかれて、ダメだしされて、最悪ですっ!」」
撃沈するカッ子であった。
電話を切り、ブッチョは携帯電話をポケットにしまう。
そこで、前にテレビで見た映画のCMで、”着信あり”というタイトルのホラー映画があったのを思い出す。
映画そのものも、見たことはなかったのだが。
当時も携帯電話の事を、あまりよく知らなかったので、携帯電話の画面に”着信あり”と出ると呪われると思いこんでいた。
そんな事を、ふと思いだしながら部屋を出ようと、ドアの付近に差し掛かったとき、散乱していた服につまづいて転んでしまう。
その時、運悪く照明のスイッチを切ってしまい。部屋が暗黒の闇に支配される。
一方、カッ子たちは、ブッチョがなかなか帰ってこないので電話を掛けることにした。
「あれ? 電気のスイッチどこだ?」と手探りでスイッチをさがしていると。
ピリリリリリリリリ!
ブイィィィィィィン!
と、大音量の着信音とバイブレータが鳴り出す。
「ぎゃあああああああっ!!」暗闇での初めての着信に、もう大パニックである。
携帯が鳴り止み、落ち着きを取り戻すと、ポケットの携帯電話が光っているのに気づく。
恐る恐る携帯電話を開くと、その画面には。
”着信あり”の文字
「ぎゃああっ! リアルホラー!」という絶叫と共に意識を失うブッチョであった。
二度の絶叫を聞いて、部屋に駆けつけた三人が見たものは、カッ子の山積みの洗濯物に顔をうずめて気絶したブッチョで、さらにそれを見たカッ子の絶叫でこのネタは終わったのであった。
第3話補足了