第6話 人形少女は何を思うか?
ギルド内は少年が最後に訪れたときよりも随分変っていた。
テーブルは砕かれ、椅子が転がり、床がめくれあがっている。
理不尽な暴力が、普段は平和なギルドを変えてしまっていた。
そして、決定的に違うところは。
「………っ!」
「え………?」
傷ついた魔術師達が、破壊の限りを尽くされた部屋の中に転がっていた。
無傷な者など誰もいない。全員が血を流し、戦意を奪われ床に倒れ伏している。
「みんな!? ねえ、何があったんだよ! 一体、誰がこんなことッ………!」
カノンは慌てて聞きだそうとするが、答えられる者はいない。
気を失っているか、痛みに声も出せないのか。どちらにしろ、彼らからは答えを聞き出せない。
「一体何が………」
呆然とする少年に答えたのは、アリンだった。
「決まってるでしょ、あいつがやったのよ」
少女の視線を追うと、ギルドの中央に行きついた。
カノンは一瞬、呼吸することを忘れた。
「なんだ、意外と早いじゃねえか。まあ、こいつらを助けるには遅すぎたがな」
それは、先ほど荒野でカノンを追いまわしていた少年だった。
だが、カノンの視線は少年に向けられてはいない。
その足元に転がっている青年を見ていた。
「リュート………?」
自分の恩人であり、師であり、大切な仲間。ギルド内で最強の魔術師。
「なんでっ………!!」
なんで、そんな男が地面に倒れ伏している?
どうして、自分がいない間にこんなことになっている?
少年の思考を知ってか知らずか。アリンが一歩、少年の盾になるように進み出た。
「カノン、あんたは下がってなさい」
「へえ、標的と行動してたのはギルドの人間じゃなかったのか。これは意外だったな」
ぼそぼそと呟く少年を睨みながら、アリンは魔術を展開させた。
先程も言っていた通り、彼女は人形術師だ。
人形術師は人形を操り、戦わせるという風な魔術を得意とする。
その欠点は、人形を操るのに集中し過ぎると魔術師本人が攻撃に晒されること。
そのため、人形術師でギルドに所属している人物というのは少ない。
死ぬ危険性があるのにギルドに所属し、命を落とすなんてことはよほどの物好きがすることだった。
リスクが高すぎる。そういった理由で人形術師をギルドに入らせないというギルドも存在する。
「カエン、シズク、ヤナギ」
そして、もう一つの人形術師の欠点。それは、人形を操るという作業がとても複雑だからだ。
人形の一挙手一投足にも、複雑な操作を必要とする。
だから、どんな人形術師も一度に2、3体程しか操れない。
「久しく出番よ。全力で戦いましょう」
どんな人形術師も一度に2、3体程しか操れない。はずなのに。
「人形術師の鎖なんて打ち破ってやる」
少女のマントの下から桜吹雪のように小さな人形が溢れだしてきた。
溢れだした少女の形をした人形。その数およそ、30体。
人形達の手には、さまざまな武器が握られていた。
斧、槍、剣、銃。魔術を放つための道具を掲げ、その矛先は全て、少年に向けられていた。
「私の道を邪魔しようものなら、容赦するつもりはないわ」
人形少女の戦いは、何のためにあるのだろうか。