第3話 ピンチ→現実逃避ってパターンはありだと思う
「……っ! はぁ、ぜ、全力疾走している人間に向かって氷柱いくつもぶち込まなくたっていいじゃないですか! 死んじゃいますよもう!!」
「うっせえ! つかなんでお前そんな軽々と避けてんの!? 結構な速さでぶち込んでるつもりなんだけど!」
「こっちだってまだ死にたくないんですーっ!! というか避けるのでいっぱいいっぱいだってこと分かってくれません?!」
相も変わらず全力疾走しつつ叫ぶ少年(追われてる方)と、相も変わらず地面すれすれを飛びながら叫び返す少年(追ってる方)。だがどちらが優位かと言われると追ってる方の少年に軍配が上がる。
追われてる方の少年は10分以上全力疾走をしているうえになんだかんだと叫んでいるため体力の消耗が激しい。
対して追ってる方の少年は魔法を使って飛んでいるため、体力の消耗は殆どない。魔力を少しづつ消耗しているものの、飛んでいることに対した支障は出ない。
それでも追いつかれていないのは、単純に少年の体力が人並み以上であったことにある。
(こ……このままじゃ本当にまずいッ……なんとか、しないとっ………)
考えるだけでなんとかできるなら誰だって苦労しないとか一瞬だけ思ったが、下らない考えを振り払うように足に力を込めた。
地面を抉るほどの強さで横に跳んだ瞬間、杭のような氷柱が地面に突き刺さった。
受け身も取れずにごろごろと地面を転がったが、すぐに体勢を立て直してまた走り出した。
「ああくそ! なんでそんなすぐ避けられんだよッ………!!」
悔しそうに言う少年に避けられるってわかるんだったら投げてくんじゃねえとか言いたいのだが、そんな余裕は一切ない。
(っ、こ、これ以上走れないっ……!)
追われている少年は、自分がなぜ追われているのか全く分かっていない。
けど誰だっていきなり自分が無防備な時に襲われたら逃げるだろう。
今の自分は魔力がないから魔法が使えない。助けを求めようにも誰もいないから求められない。
(ええっと、こういうのってなんていうんだっけ? えーと、えーと、あ、『万事休す』か!)
人間、救いがないと現実から目を反らす。(現実逃避)
追いかける少年の手が追いかけられてる少年のローブを掴もうと動いた瞬間、
二人の少年の前を小さな影が通り過ぎ、
直後、眩い閃光が荒野を、少年達の視界を塗りつぶした。