第2話 藁の上に乗ったら藁まみれになるのって当たり前
とある荒野で二人の少年が愉快な追いかけっこをしている時、その近くでは藁を積んだ荷馬車がのんびりと走っていた。
正確には、藁と少女を積んだ荷馬車が走っていた。
「お譲ちゃん、旅の人かい?」
「はい、そうです」
「魔術師かい?」
「はい、そうなんですー」
「へえ、それでどうしてこんなオンボロ馬車に乗っているんだい?」
「行きたいギルドがあるのよ」
「そうかい」
藁の山の一番上に座り込む少女は、だらだらと進む馬や白い雲がぽつぽつと浮かぶ空を見ながら、中年の御者と会話していた
「やっと入れるんだ、あのギルドに」
心底うれしそうに頬を緩め、藁の山の上をゴロゴロと転がる少女。
その瞳は無邪気な子供のようにきらきらと輝いていた。
「そうかいお譲ちゃん、がんばりなよ」
返事を求めるわけでもない、御者の小さなつぶやき。
「ええ、絶対有名になってやるから」
少女はのんびりとそれに答えた。御者は、一瞬驚いた顔をして、すぐに笑みを浮かべた。
その瞬間、少女ががばりと身を起こした。
「ちょっとおじさん! 降ろしてもらっていい!?」
返事を聞かずに少女は藁の上から飛び降りた。
「ど、どうしたんだい? なにかあったのか?」
「うん……。なんかこう、悲鳴みたいなのが聞こえた。ちょっと行ってくる!」
踵を返して走り出した少女に、御者は慌てて声をかける。
「お譲ちゃん、ちょっと待ちな! 厄介事にわざわざ首突っ込む必要もないんじゃないかい?!」
すると少女はわざわざ振り返ってこう叫び返してきた。
「ちっちゃな厄介事にあたふたするくらいじゃあのギルドには入れないのーっ!! それに、困った人がいれば助けてあげろって師匠が行ってたからーっ!」
そしてさらに、少女はこうも言った。
「私はお譲ちゃんじゃなくてアリンってゆー名前があるの! そのうちすぐに有名になるんだからーっ!」