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神殿から放逐されました

「聖女ティラ! 君との婚約は破棄する!」


王太子であるアラン様が、大聖堂で高らかに宣言した。

傍らには聖女シャルロット。

(そっかー、この子を選んだのかー。外面はいいけど性格悪いし、清純さのかけらもないのになー。見る目ないなー)


「理由は、聖女としての能力が足りないからだ! 魔力は少ない、治療には時間がかかる、結界はすぐ壊れる、攻撃力もない。そんな役立たずを聖女として置いておけない! 私の婚約者としてもふさわしくない!」


(うん、たしかに、その通り。魔力検査の時は膨大だった魔力が、今では平均以下だもんね)


「よって、聖女の称号は剥奪する。ここを出て、どこへなりとも行くがよい!」


(やった! ついに聖女のお仕事から解放されたー! フリーダム!)

という喜びを顔に出さないように注意しながら、「かしこまりました」と静かに礼をして、聖女の証として与えられたペンダントを外し、神官に返した、そして粛々と出口に向かった。


神官や衛兵たちがひそひそする声が聞こえる。

「しょうがないよなあ、ティラ様、子供の時はまさに神がかってたのに、成長したらどんどん衰えてきちゃったもんなあ」

「二十歳過ぎればただの人、ってことわざが異国にあるみたいだけど、その通り、っていうか、20歳前にただの人になっちゃったよなあ」

「うん、たしか今17歳じゃなかったっけ。この年で神殿から放り出すなんてなあ。せめて行先ぐらい探してやればいいのに…」


(ちょっと同情的な声もあるのね。優しいなあ。でも心配いらないんだけどね。

だって私、ほんとは無敵だもん)


子供の時は、魔力をセーブするとか、鑑定スキルの数値をごまかすとかができなかったから、能力全開の魔法を見られてしまった。そのせいで、王太子の婚約者にされた。そのまま王家に囲い込まれて搾取されるのは目に見えてたので、凡人に見えるよう努力した。具体的には、少しずつ魔力をセーブして、鑑定されたときの数値も減っていくように虚偽魔法をかけて、治癒や結界も「はあはあ、これ以上は無理です」という演技をしながら、どんどんと使えない奴になってみせた。


その結果が、婚約破棄&放逐だ。最初の魔力が大きすぎたので、ここまで5年かかった。長かった…。


神殿から出たら、神殿前の広場に人が集まってるのが見えた。

『王太子殿下の婚約者だった聖女が追放されるらしい』という噂を聞いて見に来たのか。『平民のくせに殿下の婚約者になるなんて』って、憎々しく思っていた人も多いもんね。


「早く出ていけ! 聖女の面汚しが!」

怒鳴り声に目を向ければ、王国騎士団の副団長だった。


実力もないくせに、コネで副団長になっただけの奴。魔物の討伐でケガ人が運び込まれる中、「私を先に治せ!」と騒いだ奴。薬草でも貼っておけば数日で治るような傷で。「重体の人が先です!」と言ってるのに「そいつは平民だ! 貴族の私を先に見るべきだろう!」とずっと騒いでうるさかったので、股間にすんごいかゆみを与えてやった。


「はうっ」と股間をおさえて走り去った間に、他の人に治療を施し、彼が戻ってきた時には「魔力切れです…すみません…」と言ってほったらかしてやった。ほんとはあんなの、一瞬で治せるんだけどね。時間かけないと能力がばれちゃうからね。


「うちの領土の結界もひどかった! 何度魔物に入られたかわからない!」


(あっ、『魔物から被害を受けた』って言っては国からの援助金を請求してた人だ)


私の結界は、ちょっと火の魔法をかけただけで、燃えたように見える。でも実際は壊れてないし、魔アリ一匹通さないはずだ。だから『魔物に襲われた』は援助金目当ての嘘なのである。


でもそれを言ったら、結界が強固だとバレてしまうから、本当に魔物に襲わせてやったのよね…


「ゾンビも倒してくれなかった! 何が聖魔法だ! 我が領土の墓地にはいまだにアンデッドがうろついてるから、近寄れないんだぞ!」


(あー、まあねえ、ゾンビ、消してはいないわねえ。領主が近寄れないなんて、かなり問題だわね)


「私の領土の瘴気だって全然減らない! なんのために瘴気払いを頼んだと思ってるんだ!」

「うちの周りもよ! この役立たず! おかげで毎日具合が悪いわ! どうしてくれるの!」


(ああそれは…まあ、消す気がなかったというかね…消した所もあるんだけどね…)


ガッ! 頭に衝撃が走る。


(おお、石ぶつけられたのか。けっこう恨まれてたのね私)


「出ていけ!」

「能無しの聖女もどきめ!」

「税金の無駄遣い!」


1人が投げたら、次から次へと石が投げられる。同調圧力かこれ。集団心理怖い。

もちろんすぐ治せるんだけど、治せないことになってるので、痛そうなふりして、偽装魔法で派手に血でも流しておこう。あと、石投げた奴には、家に帰ったら股間が猛烈にかゆくなる呪いをかけておこう。


「やめないか!」


衛兵の何人かが、私をかばうように立ちふさがった。


「ティラ様は、私たちのケガを治してくださった! 結界だって張ってくださったし、瘴気も消してくださった! たとえ今はその力をなくしてしまわれたとしても、助けられた恩があることには変わらない!

感謝こそすれ、暴言や暴力など、不義理にも程がある!」

「そうだ! 今、石を投げた者は、二度と神殿に助けを求めるな! 不義理な人間に助けを求める資格はない!」


石を投げていた民衆がきまり悪そうにしている。


「ティラ様、大丈夫ですか!」

「すぐにお手当を。おい救護班を!」


(わー、いいひとたちだなあ。こっそりいっぱい防御魔法をかけておこう。長生きしてね)


「大丈夫です。弱くなったといっても、自分で治せますから…」と力なく笑って見せる。

実際治ってるからね。血も傷も偽装魔法だから。


「私が送っていく。後を頼む」


一人の騎士様が馬に乗って現れ、私をかつぎあげて馬に乗せた。そのまま馬で神殿を離れる。


(わわわ、誰かと思えば、騎士団長のレックス様じゃない! なにこれ物語のヒロインみたい! でも私、行くとこ決まってないけど、どこに送ってくれるんだろう?)


「勝手なことをしてすみません。とりあえず私の屋敷までお連れします」


(まあ~~レックス様のおうちに? なんだろう、もしかして、『以前からお慕いしてました』とかそういうやつ? キャー!)


鼻息荒くしながらお屋敷の中に入ると、侍女が体を拭いてくれたり、手当をしてくれたり、新しい服に着替えさせたりしてくれた。服も体も浄化魔法できれいになるし、傷も治ってるんだけどね…手間かけさせてごめんね…。


「こちらへ」と侍女に案内された部屋に入ると、レックス様が座って待っていた。

立ち上がって対面に座るよう言われ、ぽすんと座ると、レックス様も座った。紳士。


「単刀直入に言う。能力が弱くなったというのは、嘘だな?」


(げっ)


「まさか…。そんな嘘をつく理由がありませんわ、ほほほ」

とりあえずごまかしてみる。


「王家や教会に、都合よく使い回されるのが嫌だったんじゃないのか」


「そういう気持ちはありましたけど…。私のような小娘が、他に行くあてもないのに、保護を失うようなことは怖くてできませんわ…」と悲しそうに言ってみる。


「保護なんていらないだろ」


「!」


「私はね、魔力が見えるんだ。あなたの魔力は子供の時もすごかったが、さらにどんどん成長して、今は魔王をもしのぐんじゃないかという魔力量だ。なのに鑑定スキルや計測器では数値が出ない。おかしいじゃないか」


う…魔力を直接見ることができる人が、私以外にもいたとは…。知らんかった。


「治療にしてもそうだ。見た目は重症なままなのに、なぜかあなたが来た途端、痛みがなくなる。たぶんすぐ治してるのに、そうとわからないように表面をカムフラージュしてるんだ。そうだろう?」


バレてた。そうなのよ。副団長の時も、副団長は放置するつもりだったけど、罪のないケガ人を無駄に苦しませるつもりはないので、運ばれた瞬間に治していた。でも治したことを知られたくはないので、表面は偽装魔法で出血や傷跡がそのままあるように見せていた。

その上で、「うーんうーん、治れ~~」と言いながら、時間をかけて偽装魔法を消していったのだ。


「今だってそうだ。あなたの頭からの出血はしばらく止まらなかった。普通なら気を失ってる。そして何より、ものすごい出血があったのに、あなたの真後ろで馬を操っていた私には、まったく血がついていないのだ。ありえない」


「うっ」

(あああ、レックス様の麗しい制服を汚すのが嫌でつい…! 失敗したー!)


「とにかく、あなたの能力が失われたというのは嘘だ。ではなぜそんな嘘をつくのか。自分が自由になるためか。そのためなら、傷ついた人を放置したり、結界を弱くして民を危険にさらしたり、瘴気を払わずにいたりしたのか。それなら許せないと思って、あなたの周りを調査していた」


「なんと」


「そして調査の結果、あなたが能力を隠すのは、私利私欲のためではないと結論づけた」


「まあ」


「たとえば、傷を放置されたと叫んでいた副団長は、カスだった。子供でも痛がらないような傷で、1か月も任務を休んだ」


「1か月も!? あの傷で!」

思わず身を乗り出してしまった。どうしようもないなあ、あの男。


「結界の件もだ。あの領主は、3か月に1度くらい、魔物に襲われたと言って国から補助金を貰っていた。執務の人間も疑っていたが、証拠がなかった」


「そっか、疑われてはいたんだ」


「しかし最近は、毎週魔物に侵入されるようになった。結界に壊れた個所はなく、民衆の被害はゼロ。なぜか領主の家だけが壊れる。さすがに異常だということで大々的な調査が入ったから、真実はすぐにわかることだろう」


「よかった…」


そうなのよね。『魔物が出た』って騒ぐなら、ほんとに出してやるって思ったんだけど、そのために結界に穴をあけたりしたら、罪のない領民に被害が出るかもしれないじゃない? 

だから週に1度、幻術魔物に襲わせることにしたんだ。領主とその家しか襲わない、ケガはさせないけど、家は壊す魔物。私が望んだ通りに怪しまれててよかったわ。


「ゾンビが出ると言っていた奴も、その地の領主とごろつきの数人だけだ。それからは墓荒らしが出なくなったらしいから、ゾンビはきっと、墓守をしてくれてるのだろうな」


思わずこくこく頷いた。そうなのそうなの。墓を荒らす奴にはゾンビが襲うようにしておいたの。まさか、領主自らが墓荒らししてたとはねえ。


「瘴気が消えてないと訴えてた奴も、調べてみたら人間的に問題のある輩だけだった。後妻に入った愛人とその子供を優先して、正当な後継ぎである令嬢を虐待していたり、婚約者を冷遇して幼馴染と会ってたり、冤罪をかぶせて婚約破棄をしたり。性格の黒さが、瘴気を呼び寄せているようだった」


「えっ、そんな、内情までわかるの?」


私はその人の魔力の色で、誠実さとか虚偽とか悪辣さとか、ある程度わかる。だから、その家の実情とかの推察がしやすいのだけれど、貴族って、外面を装うことに長けてるから、内情を調べるのって難しくない?


「その想像を裏付けたのは、虐待されていた令嬢の部屋からは、きれいに瘴気が消えていたことだ。その令嬢の魔力の色は、清純で歪みがなかった。だから瘴気も消えたのだと思った」


「あっ、あなたも、魔力の色まで感じられる人なんだ」

すっかりレックス様を信用していた私は、素直に自分の力を白状した。この人の魔力もきれいだしね。

そういえばいつのまにか敬語も吹っ飛んじゃったけども、まあいいわよね。


「そうかやっぱり君もか。だから瘴気の廃棄場所を分別することもできたのだな」


「そうなの。故意に誰かを傷つけたり、人を騙してお金を取ったり、魔力が悪の色に染まるたびに、瘴気がまとわりつくような魔法をかけたの」


「なるほどな」


と、ここまで暴露しといてなんだけど、能力隠してるのって、王家や神殿に対する反逆になるのかな? でもまあ、いざとなったらテレポートできるし、王国ごと消滅させることもできるからいいか。


「それで? それを知ったあなたは、私をどうするつもりなの? 王国に突き出す?」と聞くと、


「そんなつもりはない。ただ、知りたいのだ。あなたが、これから何をするつもりなのか」という。


「普通に生きていくつもりだけど…」


「そんなわけないだろ。それだけの魔力があったら、王国は絶対あなたを手放さないだろうし、最上級の待遇も約束されたはず。魔力が減っているように装うのも大変だっただろうし、役立たず扱いされるのも嫌なものだったろう。それでも聖女をやめるからには、よほどの理由があるはずだ」


「そんなたいした理由はないのよ」

私は正直に答えた。

「身分や貧しさのせいで、治療を受けられない人がいるのが嫌だっただけ」


正直、私は、やろうと思えば町の人間全員に、治療魔法をかけられる。でも、そしたら悪党まで一緒に治してしまう。できれば真っ当に生きてる人だけを優遇したい。


でも聖女にはそれができない。どんな人間性であろうと、身分が上の人、多額の寄付ができる人を優先して回復しなくちゃいけないし、浄化や結界の要望にこたえなきゃいけない。まじめにコツコツ働いて、子供3人育てたお母さんが、平民だから、治療費が払えないからと、治療も薬も与えられずに神殿から追い出されるのが許せないのだ。ちなみにこのお母さんの病気は、神殿に来た時点で治しておいた。


「だから私は…、清く正しく貧しい人の治療を、こっそりやりたいの」


「こっそり…陰徳を積むということか」


「まあそうなんだけど、悪人は成敗してやろうと思ってるので、徳が高いわけじゃないわね」


「……」


レックス様が考え込んでる。対処に悩んでるのかな~。まあ、反対されても私のことは誰にも止められないと思うし、好きにやるけど…。うーん、それにしても、考え込んでるレックス様も素敵。結婚してくれないかしら。


「私と…一緒にやってはもらえないか」


「えっ!」


「急に言われても困るだろうが…」


「困らない! 一緒になる!」


「え?」


「え?」


「あの、一緒に…」


「うん! 一緒になりましょう! 結婚しましょう!」


「いや、あの、一緒に、なるんじゃなくて…」


「え?」


「君のその、仕事人みたいな活動を、一緒にやらせてもらいたいな、と…」


「なんだ」(ちっ)


「王都で働いていると、成敗したいのに、やり方が巧妙だったり、身分が高かったりで、手を出せなかった奴らが大勢いる。そいつらを、君だったらなんとかできる気がするんだ」


「あー、騎士様だものね。いろいろ知ってるよね」


「だからどうか、協力してほしい。私もできるだけの協力を約束するから」


「……」

私は、一人でやるつもりだったので、この申し出のメリットとデメリットについて、考えたほうがいいのかもしれなかったが、


「やりましょう! よろしくお願いします!」

と勢いよく返事した。


だって、こんないい男と一緒にいられるだけで、メリットしか感じない!


こうして私は、騎士団長様のおうちに住み込み、嫁の座も狙う、暗躍聖女となったのであった。

ところで、なぜ股間のかゆみの呪いをかけるかというと、「おおっぴらにかけない場所だからつらい」「医者にいくのも勇気がいる」と、一粒で二度おいしい呪いだと思っているからです。世直しの話なので、痔の呪いにして「別名・肛門様」にしようかちょっと悩んだけども、肛門を連呼するよりは股間のほうがいいかなあと思ってこっちにしました。

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