プロローグ「僕の最後の日」
暗かった。とても暗かった。
かすかな月の光が、少し開いた窓から差し込んでいた。
その光は、小さな金属製の物体に触れ、かすかに輝いた。
それは――ナイフだった。
そして、それを握る手は、自分の首元へと向けられていた。
涙が静かに頬を伝い、時折、短い嗚咽が静寂を切り裂いた。
手は震え、汗が流れ落ちた。
彼は肺いっぱいに空気を吸い込み、深く息を吐いた。そして、次の瞬間、そっと目を閉じた。
――「……ああ、これで終わりか。」
声は重いため息のように漏れ、その後、再び静寂が部屋を支配した。
窓から入り込む微かな風が、彼の黒い髪を優しく揺らした――それが、彼の最後の感覚だった。
一瞬の動きで、刃が彼の喉元に触れた。
血だ。血だ。あまりにも多くの血だった。
それが、彼の最後に見た光景だった。
血は口から、そして新しく開いた喉の傷口から溢れ出した。
服を濡らし、やがて床に赤い水たまりを作っていった。
絶望、絶望、絶望。
目は脈打ち、体の力が抜けていった。視界がぼやけた。
叫ぼうとした。動こうとした。だが、それは無駄だった。
最後に感じた感情は、ただ一つ――絶望だった。
体が赤い水たまりの上に崩れ落ちた。
血の滴が、ぽたぽたと音を立てて落ちていった。
それが、彼の耳に届いた最後の音だった。
視界が闇に沈み、呼吸が止まった。
体は青白く、目は濁り、動かなかった。
もう、誰の目にも明らかだった――松木優、死んでいた。
――そして、何かが動き始めたように思えた。




