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EVIL  作者: 頻波幾瀬
7/12

7 太公望でも気取ろうか

 山の岩場で李人は釣竿を伸ばし、キラリと光る糸を川に垂らしていた。

 来年から中学生になる彼は、陰鬱な思考を整理していた。


 小二のとき、上級生たちに全身を縄跳びで縛られ、階段下の物置きに閉じ込められた。

「喋ったりしたら殺す」

 と言われていたから、じっとしたまま引き伸ばされた時間の中にいた。

 翌朝、物置きを開けた先生に助けられた。

 先生は事件に関わった上級生をたった一人だけつれてきて、無理やり李人と握手させた。

「よっしゃ、シェイクハンドじゃ」

 この教師、本当に江戸末期がわかっているのか? くだらん竜馬ごっこなぞ園児のときに卒業した。

 泣き虫だった李人は竜馬の役に見立てられ、四歳上のガキから毎日、殴られた。


 そのガキは知能に障害があったため特別教室に通っていた。おとなしい児童として学校から優しくされていたが、李人と同じ集落に戻ると態度はガラリと変わり、様々なやり方で李人の邪魔をした。

 

(しかしあいつは学校に泣きついたのだ。逆に俺にいじめられていたと。なんで俺があいつをいじめてたことになるのかね。俺は三から四歳の頃からあいつにからまれ、体格からして違う。俺があいつに勝てたことはなかった。あいつが学校からいなくなるのを根気強く待った。教師とはなぜあそこまで馬鹿なのか)


 当然閉じ込められたことはシェイクハンド、で許せることではなかった。

 尿も漏らしていたし、空腹だった。

 熱い血の奔流、気付いたときには上級生の腕に噛みつき、肉削ぎしていた。

 その後、上級生は傷口が化膿したかなにかで難儀し、転校した。

 李人は責められたが、ことの起こりはなんぞ。と教師をにらんだら、黙り込んでしまった。

 李人は声を上げた。

「実に小さくなってしまった、実にみにくい泥炭なのだぞ!」

 その事は一年くらいたって思い出したので、夢か何かのようだったが、現にその上級生は消えていた。


「アリカ。あれお前か」

 木々がしゃわしゃわ鳴っている。

(いいや、リカが飼ってる獣だよ)

「獣ぉ?」

(痛みを痛みとも思わない存在)

「あれか」


 ザザっと土を滑る音がした。一人の少女がやってくる。名前はまりな。歳は同じ小六、学校が違う。少女は町の学校に通っている。夏休みの間だけ、うちで預かることになった。親が知り合いなのだ。

 あの、トムとジェリーのときの彼女だろうか。なんとなくそんな気がする。


「なにしてんの李人」

「見ての通りの太公望」

「針ついてんの」

「ついてない」

「つけてよ。魚つろうよ。意味わかんない」

川蜷(かわにな)の命一個」

「え?」

「びっしりいる小さな貝だよ。それを石で打って身を引きずり出して、餌にして釣るんだから、魚の命と交換だ」

「魚釣って食べるの?」

 まりなの声がはずむ。

「身が痩せてまずそうだ」


「針つけてよ」

「宿題は?」

「あんなもんしてなんになるの?」

「締め切りぶっちぎれるの? 町の学校」

「針つけようよ」


 はいはい、しかたないな。

 李人はプラスチックのケースを開け、針と浮きをつけた。

 まりなは川の流れに足を浸す。バシャバシャ跳ねる光が眩しかった。

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