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EVIL  作者: 頻波幾瀬
6/12

6 仲良く喧嘩しな

 大したことではない。(今となっては)

 李人が育った田舎では、保育園、小学校、中学校が近所同士で固まっていた。

 郵便局と駄菓子屋もすぐそこにあった。小学生は下校時に、舌が緑色になる液体や、ラーメンスナックなどをむさぼっていた。


 その郵便局の向かいに保育園があった。

 その日は保育園のそばに赤い車が止まっていた。

 李人は小学生からもらった風船ガムを一生懸命、ふくらまそうとしていた。


「風船にならないよアリカ。膨らましてよ」

 しかしアリカの返事はない。

 最近、リカちゃんと李人はお別れした。

 母親から「リカちゃんはもっとお利口だよ」

 と叱られたとき、「どこにいるの」と聞いたら、おもしろそうに笑われた。李人は裏の畑を捜しに行ったがやはりいない。

 

 保育園の砂場でリカちゃんと話しながらトンネルを作っていたら、他の園児から「幽霊と話してる」と距離を取られた。


 リカちゃんは見えるときもあったし、見えないときもあった。あの太い木の裏側に隠れてる、と思っても、確かめたらセミしかいなかった。木を蹴ったらカブトムシが落ちてくると親戚のお兄さんから聞いたが、いくらやってもセミはのんきに鳴いていた。


 どういうわけか、保育園の先生が言った。

「リカちゃんなんていないんだよ、私たちにはなにも見えないよ。リカちゃんは死んでしまったの。もうどこにもいないよ」

 その言葉があまりに衝撃で、しかもはっきり握っていたリカちゃんの手がするりと逃げる。

 リカちゃんは李人を見下ろしてにこりと笑い、うっすら消えていった。


 李人は泣いたが、その午後、他の園児を避けるようにゆらゆら歩きながら、ふと眠くなった。

 誰かのすすり泣きがする。

 目を開けると、デスクに向かう先生が泣いていた。


「とんでもないことをしてしまった」と先生が何かを悔やんでいる。

 アリカの声が聞こえた。

「ちょっと憑依して喋ったんだよ、リカが。もうおまえの前に出てくることはないかもな」

「どういうこと」

「お前の信仰がへし折られたのさ。お前がリカであり、リカがお前である。難しいだろ。俺のほうでも予定が狂っちまった」


 そんな感じでお別れした。

 やがて小1になった李人は仲のよい友達ができた。

 同級生で、好きなアニメを通じて仲良くなった。女子だ。


 保育園のそばに停車した赤い車、きっと先生の車。

「僕がトムとジェリーみたいにペラっペラになったら面白いよね」

 そんな下らない憧れでそれは行われた。あるいは自傷の最たるものだったかもしれない。

 李人がタイヤのそばに横たわり、女子がバックギアを入れたのだ。


 ボキボキボキっと音がして、李人は痛みをどこかへ切り離した。気付くと病院で横になっており、立ち上がることができなかった。


主治医「ちょーっと待ってください」

あなた「なんです、ひげじいみたいに」

主治医「あなたは確か、大好きな女の子と離ればなれにされたときも、自殺未遂して入院したとか。入院が重なりすぎてはいませんか」

あなた「知りませんよ。そのバックギア女子は毎週、お見舞いに来てくれました」


主治医「それはよかったですね」

あなた「ああ、よかった」


主治医「背骨やられて、よく戻りましたね」

あなた「さあ、いつの入院かはもうはっきりしませんが。身体中、骨折して。病室でAKIRAとルパンのマモー見て。トイレで用を足すと清掃のおばちゃんが文句言うから、床で糞したら殴られて」


主治医「骨折。骨折ねえ」

あなた「退院の日、僕は看護師さんに包帯をぐるぐる巻いてもらった。身体中にね。女の子が来るから、驚かせたくて。でも逆効果。彼女はショックで大泣きしてしまった。僕は言いました。『笑われないピエロはみじめだ』」


主治医「仲が良かったんですね」

あなた「何もかも分からなくなっていましたよ、どうやら彼女が見舞いに来たとき、応対していたのは別の人格だった」


主治医「アリカ君?」

あなた「いや、もっと邪悪な、なにか。車にひかれたときの痛みを引き受けた」


 痛みを痛みとも思わないもの。

 

あなた「それよりも理不尽なことに」

主治医「はい」

あなた「自動車を誰が運転していたか、尋ねられてね、警察に。僕は正直に言いました。その少女だと。しかし信じてくれないんだ。動機も。母には怒鳴られた。『本当は誰がやったの?』それで、運転していたのは園の先生ということになり、世話になった先生だよ? 証拠もないのに先生は罪を引き受けた」

主治医「なんとまあ」


あなた「引き換えに僕たちが何を得たと思います」

主治医「なんです」


あなた「罰ですよ。一生背負う。もっとも、それは先生の慈愛を知り薄まってくれました。先生、てそういう人だな、て。生意気だけどそう思います」

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