5 想像上の別人
(音声から抜粋)
主治医「なるほど、それでわかりましたね。あなたの抱えていた妄想の答えが」
あなた「ええ、誘拐なんてなかった。単に病院から自宅に帰っただけでした」
主治医「あなたは何度も誘拐されたとのことですが」
あなた「記憶にはあります。しかし記憶は嘘をつきます。シッターが最悪な女子学生でね。足を抱えて振り回されたり、天井にぶっつけられたりした。人格はバラバラに引き裂かれた」
主治医「その頃のあなたは、3歳くらい?」
あなた「さあ。しかし、3歳までの記憶は残らないと、なにかで読みました」
主治医「残らないとしても、その後に支障がでるなら、何かがあったせいですよ」
あなた「……」
主治医「ねえ、いろんなことがありますから」
あなた「驚きました。あんまり精神科医の言葉とも思えないので」
主治医「私がこの病院に勤めていたの、びっくりしたでしょう」
あなた「まあまあね」
主治医「で、謎がとけた感想は」
あなた「……」
主治医「あんまり気持ちよくない?」
あなた「いえ結局、僕は李人なのかアリカなのか。そもそも守られる存在なのか、守っているのか」
主治医「ふむ」
あなた「どうもまだ受け入れなくてはならないことがある」
主治医「受け入れる、とは」
あなた「僕の病に必要なことは、単に思い出すだけでなく、それを冷静に受け止めること。だと思うのです」
主治医「なるほど」
あなた「そのためには小1の頃の入院についても語るしかない」
主治医「入院が多いですね」
あなた「ではまた。ありがとうございます」
主治医「はい。私が判子を何度もついていたことは気にしないでください」




