4 ゆうかいくらい しっている
白い壁、白い天井、白い床。
一句できたな、とリヒトは思った。
外界に対応する人格の李人は大人によく甘え、見ているテレビ番組の影響もあるやら知れないが、自分を城の王子とでも思っているらしかった。
「ちょっと」
とリカの声。
「どうした」
リヒトが応じると彼女は言った。
「あんた、名前変えてくれない。李人とかぶってたら分かりづらいもの」
「名前、名前は、アリカで」
「オッケー。由来は?」
「秘密」
「へえ、ほお」
病院でちやほやされる人生にも終わりが来る。
母上様と書いてクソババアが迎えに来たのである。
やけに香水か何かの香りがする実母を李人は拒絶した。
抱っこされても看護師たちのほうに手を伸ばし、ギャン泣きした。
病院から出て自動車の助手席に乗せられるとようやく観念し、泣き疲れて眠る。
車内の振動が看護師に抱かれているように錯覚される。
ふと目を覚ますと町のなかだった。いろんな人がいろんな服装で歩いている。
アリカが心の奥から李人に語りかけた。
「見てみろよ、車と人が整然と動くように、良くできてるんだな、道路は」
李人は安心していた。これだけ人がいれば悪いことなんて起こせないに違いない。
しかし。
車は町を抜け、人家もない道路を通る。山がせまってくる。深い緑の大きな山。峠を登り、トンネルを抜け、下る。不思議と李人はトンネルの闇が素敵だと感じた。
ただし車の行方は不穏だ。
広い川にかかる大橋を渡り、坂に張り付いているような人家と、何枚か広がる田畑。
とうとう車は坂の下の車庫に止まった。
実母に抱かれて坂を登る。
坂のてっぺんに家があった。
平屋である。
家のなかは、整えられてはいるのだが、経年劣化を隠せてはいなかった。暗い。
実母は土間を上がって李人を居間におくと、どこかへ消えてしまった。
李人が立ち上がり、思わずリカが呟いた。
口を開けて、呟かざるを得なかった。
「なに、このボロ屋」
李人は思う。
ゆうかいというやつだ!




