3 凡才になろう
ある晩のことである。
消灯された李人の病室に白い光が切れ込んだ。逆光に車椅子がゆっくり近づいてくる。
そこへバタバタと靴音がして、一人の看護師が現れた。李人は既に覚醒していた。
「この、ジジイ!」
看護師は車椅子を蹴り、患者の足も何度も蹴った。
「ここは、お前の病室じゃねえ!」
虐待の現場だ。李人は咄嗟にナースコールを押した。
看護師がはっと気づき、李人のベッドへ走ってくると、首を勢いよくつかんだ。
「この、ガキ、頭よすぎんだよ! 認めない、あんたが、院長先生の息子なんて」
李人は一気に苦しくなる。しかし外から靴音が急いできて、看護師は舌打ちする。何事もなかったように車椅子のそばに戻った。
ナースコールで来た看護師が部屋の電気をつけた。
「どうしたんですいったい」
先ほどまで凶行に及んでいた看護師はにっこり笑い、「患者さんが、勝手に入って転んだんです。骨いってるかもなあ」
あとから来た看護師はベッドの李人を覗き込んで言った。
「私が寝かしつけますから、電気は切っても。常夜灯で十分ですから」
そんなことがあった。
翌朝、青虫の絵本を眺めながら李人は脳内会議した。
「リカ、子供を作ろう」
「なにそれ」
「ほら、遠退きかけてるけど、神様は僕たちをこしらえなすっただろう」
李人が目を閉じると、リカと一緒に真っ暗な泥の沼にいた。しゃがんで泥をこねる。
「泥で僕らの子供をこさえよう。僕らは頭がよすぎる。それがかえってハンデになった」
「あんまりバカすぎるのも嫌よ」
「いざとなれば僕らが内側からサポートすればいい。とにかく」
彼はリカを見やる。
「出る杭は叩かれる」
「そうね」
とリカも。
出生から一年半ほど遅れを取った人格を作り上げ、外界に対応させることにした。
「僕ら自身、何らかの病だったか知れないが。これで本格的に病人だな」
李人はこね上げた人形をじっと見た。




