12 真終章
九月のある日。李人がアパートに帰ると、白衣がテーブルでお茶を飲んでいた。なに食わぬ顔で。
彼女は一冊の書類をテーブルに置く。
「その書類は?」
李人が尋ねると、白衣は湯呑みの茶をすすり言った。
「お前の主治医が書いたものだ。お前のことが書かれてある。お前のために書かれてある」
李人はテーブルから書類を拾い上げる。確かに診察で交わした会話が記されている。李人のことは『あなた』と表記されてある。
白衣は安物のクッキーをつまむ。
「お前の勝ちだ李人。あの医者はお前が廃人になると思っていた。しかし実際は」
白衣は立ち上がり、李人の持つ書類を指で弾く。
「グッドエンドだ、だかしかし。人生にエンドはない。これからも真面目に生きろよ」
白衣は李人を通りすぎると、玄関のドアを開けた。その向こうにはなぜか他人の家が広がっていた。
「李人。ピエロが行った奇行など気にするな。それはもう十年以上前のこと。お前はもう悪くないよ。では、さようなら」
白衣はドアの向こうの家に入り、閉めた。しんとなる。
李人は書類を読みながら微笑する。
やがてまりなが訪れた。
「やっほー李人。それなに」
李人は笑いながら答えた。
「人生の土産物さ」
「なにそれ」
まりなが横から覗き込む。李人はテーブルに書類を置く。
「なあ、俺はいろんな人に迷惑をかけたかな」
「いきなりなにー。迷惑なら私の方がまずいよ。だからその分、お返しするしかないな、て。それで生きてる」
李人はまりなの頭をくしゃっとなでた。
「私をもっとなでるんじゃ!」
「なんだよそれ、アホか」
二人で笑い合い、李人は白衣の使った湯呑みを片付けることにする。
「お客さん来てたの」
「ま、世話になった医者がな」
つくつくぼうしが鳴いている。
夏が終わるまでに、逸るように。
精一杯に生きている。
(了)




