11 記憶がなくとも
主治医「ふーむ、興味深い」
あなた「何がです」
主治医「その、中学校のあと、まりなさんとは?」
あなた「僕たち家族は、町に近い郊外に移り住んだんですよ。まりなは僕と同じ高校に通い始めました。ネットが使い放題なんて最強じゃない? て言ってました。工業高校の情報技術科です」
主治医「あなたは、記憶が消えたあと、どうなりました」
あなた「統合失調症の症状は出始めていたと思います。とても陰鬱とした日々でした。だけどね、まりなは言うんです。人気者だったね、と」
主治医「ジョハリの窓です。自分には見えない自分の姿」
あなた「まりなは、しんどそうでした。かわいくてモテるから、ヒエラルキー上位の奴らとつるんでましたけど、時々俺の前で、とても重たそうな顔をする。俺は毎日、あいつを楽しませたくて、いろんなネタを集めて、考えてました」
主治医「白衣、という存在も興味深い。あなたのなかの医者。医学的知識を結集された何かか」
あなた「いや、あいつは、病人の間を渡り歩いてると言ってた。必要なときに、必要な人に」
主治医「薬は今まで通りだしておきます。解離はなくなりつつあるようですね」
あなた「はい。ところで、ピエロはどこに行ったんでしょうね」
主治医(かすかに笑う)
あなた「なんです」
主治医「いらなくなったんでしょう。あなたが、まりなさんを楽しませようとしてきたから」
あなたは会計を済ませる。傍らには一人の女性、まりな。彼女は言う。
「作家てさ、すぐ悲恋にしたがるよね」
「世は全てこともなし」
手を握り合う。
自動ドアが開き、二人は白い光のなかへ溶け込む。
夏である。




