10 破綻
中学生の李人とて完璧人間として世渡りしてきたわけではない。
過去の中には絶対に知られてはならない、恥や弱みや醜悪さがあった。
それらが午睡のなかで一斉に襲いかかってきた。光る目の黒い影、それを次から次へと刀で切り裂く。
しかし腕がついていかなくなり、とうとう影に飲み込まれる。影の束は李人を踏み越えて、城のなかへと入っていく。岬に建つ城だ。
死んだのか?
李人はぼうとした意識のなか、覗き込んでくる顔をみた。
「お前、は?」
なんとか声をだす。
金髪をボブカットにした女だ。白衣を着ている。
「私は医者だ。白衣と呼べ」
李人は白衣が死神のようにも思えた。
「白衣。城が落ちる」
「お前は表の世界で医師の診察を受けている。記憶を一つずつ、消している」
「記憶を? なぜ」
「あまりにつらいからだよ。薬もすすめられたが、お前は、いや、リカが拒否した」
李人は鼻で笑い言った。
「確かに、記憶を消していけば、しんどい理由も消えるな。完全には消えず無意識下に残るだろう。しかしそれは誤りだ」
「そう、記憶が軒並み消えたとき、必然的に表へ浮上してくるのは、誰だと思う」
「子供の、李人」
「立て李人」
白衣は手を差し出す。その手をとって立ち上がる。
「影にはやりたいようにやらせておけ。医者に消される前の、最後の足掻きだ。じき消滅する」
「アリカはどこに?」
「道化師と戦っている、はずだ。おそらく負ける」
「リカは」
「大丈夫だ。奈落に落ちたが、私が城の地下へ送る。地下の前には門番がいる。リカの獣だ」
城の窓越しに見えた黒い影たちが、やがて蒸発し消えて行く。
「これからどうなるんだ」
「なるようになる」
白衣の眉間が陰る。
「道化師め。どこにいる」




