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EVIL  作者: 頻波幾瀬
10/12

10 破綻

 中学生の李人とて完璧人間として世渡りしてきたわけではない。

 過去の中には絶対に知られてはならない、恥や弱みや醜悪さがあった。

 それらが午睡のなかで一斉に襲いかかってきた。光る目の黒い影、それを次から次へと刀で切り裂く。

 しかし腕がついていかなくなり、とうとう影に飲み込まれる。影の束は李人を踏み越えて、城のなかへと入っていく。岬に建つ城だ。


死んだのか?


 李人はぼうとした意識のなか、覗き込んでくる顔をみた。

「お前、は?」

 なんとか声をだす。

 金髪をボブカットにした女だ。白衣を着ている。

「私は医者だ。白衣と呼べ」

 李人は白衣が死神のようにも思えた。

「白衣。城が落ちる」

「お前は表の世界で医師の診察を受けている。記憶を一つずつ、消している」

「記憶を? なぜ」

「あまりにつらいからだよ。薬もすすめられたが、お前は、いや、リカが拒否した」


 李人は鼻で笑い言った。

「確かに、記憶を消していけば、しんどい理由も消えるな。完全には消えず無意識下に残るだろう。しかしそれは誤りだ」

「そう、記憶が軒並み消えたとき、必然的に表へ浮上してくるのは、誰だと思う」

「子供の、李人」

「立て李人」

 白衣は手を差し出す。その手をとって立ち上がる。

「影にはやりたいようにやらせておけ。医者に消される前の、最後の足掻きだ。じき消滅する」

「アリカはどこに?」

「道化師と戦っている、はずだ。おそらく負ける」

「リカは」

「大丈夫だ。奈落に落ちたが、私が城の地下へ送る。地下の前には門番がいる。リカの獣だ」


 城の窓越しに見えた黒い影たちが、やがて蒸発し消えて行く。

「これからどうなるんだ」

「なるようになる」

 白衣の眉間が陰る。

「道化師め。どこにいる」

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