1 十字架に仕えるアニマとアニムス
本作はフィクションであり、人物や事件のモデルはありません。
はじめに闇があった。
闇に十字の光がともり、庭木くらいの高さになった。
光を敬うように、膝をつき両手を組む女児と男児がいた。
光が言葉を発した。
「私は神である。疑問は」
女児が「ありません」と言い、男児がそれに続いた。「ありません」
十字の光は言う。
「名前がいるな。面倒だ。リヒトと、リカだ」
「問題ありませんわ神様」
「問題ありません」
光は言う。
「では私に背を向け、闇の向こうへ」
男児は振り向く。
「しかし黒く塗りつぶされております」
「果てはある。行くのだ」
女児が男児の手を取り、十字の光に背を向けて歩き出す。
その姿はやがて黒煙に飲まれるように消えた。
目が覚めるとベビーベッドの上だった。
頭が痛む。じんじんする。
覗き込んでくる顔、顔、顔。
「やっと目を覚ましましたよ」
白衣の女性が言う。
「誰だったかな。ラストに帝王切開で産まれた赤子を書いた作家は」
白衣の男性が抱き上げる。
「あの母親はだめかもしれない」
「私、奇妙なことを考えてしまうんです」
「どんな」
「この子、へその緒が首に巻き付いて、窒息の恐れがあったんですよね」
「ああ」
「自殺しようとしたんじゃないかって」
「胎児が?」
「赤子は産まれるとき、人生の苦難を見通して泣く」
看護師の言葉を聞いた医師は、ハハと笑って赤子をベッドに寝かせる。
「僕は、大声を出さないと叩かれるから泣くのだと思う。産まれてきたぞ、てね」
「何かおかしいんですよ。首にへその緒を巻き付けるために、動いていたような」
「ろくな家庭じゃないから? 胎児にそれだけの知能があれば、僕らは廃業だ」
「なんにしても、産まれた子供を叩き落とす母親がいますか」
「しばらく、うちで面倒を見よう」
「それがいいです」
赤子は言葉がわからなかったが、雰囲気は読めた。
神様は、元々一人だったけど、叩き壊されて自分達という欠片をこさえたのだろう。
ひとつの器に僕たち私たちはいる。
リヒトとリカ。




