表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

値札が世界を壊す…50万のスマホ、1000万の車、計画停電の時代

作者: 徒然生成
掲載日:2025/12/20

★ 値札が世界を壊す

― 50万のスマホ、1000万の車、計画停電の時代 ―


---


世界は、壊れていない。

ただ、

生活と数字の

バランスが悪くなっただけだ。


---


★ 目次


■ プロローグ 静かな正月、先に壊れた数字

■ 第1章 阿闍世あじゃせ38歳、王舎城を出る

■ 第2章 金利0.75%――0.25%が刺さる場所

■ 第3章 止められない工場、止められる住宅

■ 第4章 50万のスマホ、1000万の車――「若者離れ」の嘘

■ 第5章 シビックが来ない――半導体が足りない現実

■ 第6章 熊本TSMC第2工場――「中止と言わない中止」

■ 第7章 北海道ラピダス――国策の賭けと電力の穴

■ 第8章 林維リン・ウェイ38歳、深圳――値札で壊す戦略

■ 第9章 67歳、旧人類――ニューオールドエコノミーの誕生

■ 第10章 2027年――計画停電が日常になる

■ エピローグ 若者へ――今日から変えられること


---


■ プロローグ

― 静かな正月、先に壊れた数字


正月の街は穏やかだった。

去年の続きのように人が笑い、

去年の続きのように買い物袋が揺れた。


だが、数字だけは先に進んでいた。


電気。ガス。金利。半導体。値札。

どれも、生活の下から静かに柱を抜く。


誰も「終わり」とは言わない。

だが、あらゆるものの価格が合わなくなる。


世界は壊れない。

ただ、住んでる世界がどんどん高くなる。


それは、爆発じゃない。

崩壊でもない。

“じわじわ沈む”という形で、現実が変わる。


---


■ 第1章

阿闍世あじゃせ38歳、王舎城を出る


阿闍世あじゃせは38歳。

王舎城――実家をそう呼ぶしかないほど、

長く閉じこもった家。

25年。長すぎた。


やっとの思いで外に出て、

小さなアパートを借りた。

家賃7万。

屋敷を離れて3か月。


失敗できない年齢だった。

戻れない年齢だった。


月の固定費が、先に勝つ。


家賃7万

年金・社会保険料3万

スマホ1万

食費4万

光熱費2万

雑費1万


合計18万。

これだけで、もう息が浅くなる。


仕事を探すが、ない。

「未経験は厳しい」と言われる。

「若い人を優先します」と言われる。


だから阿闍世は、 

断腸の思いでポリテクセンターへ行った。

CAD/CAM。

工場の最前線に入るための切符。


修了証は薄い紙だった。

だが、その紙の薄さとは逆に、

次の一歩は重かった。


阿闍世は知っている。

ここで止まったら、また王舎城に戻る。

戻ったら、人生が止まる。


だから進む。

怖くても進む。


“若者の根性”じゃない。

“背中を押す現実”があるだけだ。


---


■ 第2章

― 金利0.75%――0.25%が刺さる場所


日銀は金利を0.75%にした。

0.25%の利上げ。


ニュースは「小幅」と言う。

だが、借入がある者には刃になる。


計算は単純だ。

金利0.25%=0.0025。


借入3000万なら、年間7.5万増。

借入1億なら、年間25万増。

借入100億なら、年間2億5000万増。


増え方が怖いのは、

“金利”そのものじゃない。

“余白”が消えることだ。


企業の余白が削れる。

余白が削れれば、人が削られる。

コスパ重視の流れが加速する。


現場の圧は上がる。

「精神的苦痛は自己責任」

とまで言われる。


個人も同じだ。


住宅ローン。

車のローン。

分割。

リボ払い。


苦しい者ほど金利に弱い。

弱い者ほど、音もなく消える。


阿闍世は、自分の暮らしを見た。

数少ない友達も同じ状況だった。


固定費が先に勝ち、

人間が後から負ける。


そんな順番の世の中だった。


---


■ 第3章

― 止められない工場、止められる住宅


阿闍世が入った工場は最先端だった。

AI制御。無人化ライン。半導体関連。


面接で言われた。


「人はこれ以上増えません。

 あなたの汗が、この工場には必要です」


工場は止められない。


装置は温度と湿度で生きている。

一度止めれば設備が痛む。

再起動には時間も金もかかる。


止められないから、止める場所が決まる。


電力が止まるのは、住宅地だ。


「最近ネットが遅い」

「電波が悪い」

「冷蔵庫の氷が溶けた」


来年、計画停電という言葉は

何度も使われるだろう。


夜、冷蔵庫が止まる。

通信が遅れる。

暗い部屋で家族は黙る。


「蓄電池を買おうにも売り切れ」


声を上げても電気は増えない。

だから誰も声を上げない。


そして怖いのは、ここからだ。

電気が止まると、生活が止まる。

生活が止まると、心が折れる。

心が折れた者から、社会がこぼれ落ちる。


---


■ 第4章

― 50万のスマホ、1000万の車――「若者離れ」の嘘


売り場には50万のスマホが並ぶ。

来年の車はAI搭載で1000万を超えると言われる。


テレビは言う。

「若者の車離れ」


阿闍世は、その言葉が嘘だと知っている。


若者が離れたのではない。

値段が遠くへ行っただけだ。


買えないものは買わない。

それは離れることではない。

若者の選択肢から消えたのだ。


洗濯機も冷蔵庫もAI搭載。

毛布を識別して回転を調整する。

水の量も勝手に決める。

確かに、高機能。


だけど、

その便利の分だけ値札が上がる。

その便利の分だけ電気が増える。

その便利の分だけ“依存”が増える。


人は気づかぬうちに、

“買った物”じゃなく、

“買わされた仕組み”の中で生きる。


---


■ 第5章

― シビックが来ない――半導体が足りない現実


現実は、もう遅れ始めている。


ホンダのシビック。

納車1年、2年、下手をするともっと。


理由は半導体。


欲しいかどうかではない。

作れないから、来ない。


工場は最先端でも、

部品が欠ければ完成車は動かない。


世界はつながっている。

つながりすぎている。


そして半導体の供給は、

AIデータセンターへ吸い込まれる。


なぜか。

儲けが大きいからだ。


だが“儲け”は、

最後に“買い手”が消えたら終わる。


ここが、悪循環の入り口だ。


---


■ 第6章

― 熊本TSMC第2工場――「中止と言わない中止」


九州のへそ、熊本。

TSMC第2工場。


第1工場は動く。

だが第2工場は、止まる噂が広がる。


理由は単純だ。


建設費が上がる。

人件費が上がる。

電力も水も、見積もりが合わない。


菊陽町。

阿蘇の伏流水。

AIバブルの落とし子の街。


そこへ、

中国企業が値札を投げ込んできた。


性能は最先端の90%。

価格は1/10。


TSMCは計算する。


「この値段では 

 熊本の第2は合わないはず…」


ここで若者に言いたい。

工場が止まるのは、事故じゃない。

“計算”だ。


だから“中止”とは言わない。

延期。再検討。調整。


だが現場は知っている。

言葉が柔らかいほど、決定は硬い。


---


■ 第7章

― 北海道ラピダス――国策の賭けと電力の穴


北海道・千歳。

そこに国策企業が立つ。


ラピダス。


日本政府が資金を投じ、

日本の将来を背負わせた半導体企業だ。


狙いは2ナノ級。

最先端。


だけど、若者は知らない。

ここが「賭け」だということを。


なぜなら、北海道には十分な電力がない。


原子力は止まり、

火力は高騰し、

再エネは揺れる。


そこへAIデータセンター計画が重なる。


半導体工場。

データセンター。

冷却。

バックアップ。


数字は重なる。

重なりすぎる。


誰も「停電する」と言わない。

言えば計画が止まるからだ。

もう土地は手当てしてある。

もう引けない。


電気は思想では動かない。

だが思想だけで工場は建つ。


その怖さが北海道にはある。


熊本は水がある。

北海道は土地がある。

だが電気がない場所で、

電気を食う未来を作ろうとする。


それが、今の賭け?


---


■ 第8章

林維リン・ウェイ38歳、深圳――値札で壊す戦略


林維リン・ウェイは阿闍世と同じ38歳。

中国・深圳。

SMIC本社の会議室。


ホワイトボードに書かれたのは、短い方針だった。


性能:90%

価格:1/10

量産:止めない

赤字:織り込み済み


中国政府の号令はさらに短い。


「今が絶好のチャンスだ」


林維は理解している。

世界の9割は最先端を必要としていない。


SNS。短編動画。広告。配信。

90%で十分だ。

これで、人々の生活は困らない。


ここが“コモディティ化”の核心だ。


コモディティ化とは、

「特別なものが、安い日用品になること」

なのだ。


テレビも、スマホも、

この世にあるあらゆるものが

そうなった。


最初は高級品。

最後は安物が市場を支配する。


半導体も、同じ道を歩かされる。

それは歴史が教えてくれる。


資本主義は耐えられない。


四半期決算。

株主。

利益率。


資本主義の国では、

赤字を3年抱えて量産なんてできない。


だから中国はそこを突く。

欧米の盲点を突く。


これは戦争ではない。

砲弾ではなく、値札で壊す。


林維は静かに言う。


「高すぎる未来を作ったのは、彼らだ」

「私は価格を叩くだけ」


熊本の第2工場。

北海道の最先端。

それらは“夢”ではなく“計算”だ。


計算が合わないものは、

いつか必ず止まる。


そして、止まる瞬間に気づく。

壊れたのは工場じゃない。

“生活の順番”だ。


---


■ 第9章

― 67歳、旧人類

――ニューオールドエコノミーの誕生


67歳の男は、背筋が確かに伸びている。

しかも、歩き方が妙に軽い。


千葉県郊外。

ショッピングモールまで徒歩15分。


彼は去年、プロパンガスを解約した。


月2万のガス代。

風呂を張れば跳ね上がる。

払うたびに寿命が縮む。


だから切った。


風呂は投げ込みヒーター。

夏は5時間。冬は10時間。

独り者だから文句も出ない。


沸くまでの10時間、

男はモールへ行く。

足腰が鍛えられ、お腹が空く。


冷暖房は、モールにお願い。

椅子がある。

明るい。

静かだ。


「他人様の冷房で生き延びています」


笑って言う。

だが笑いの下に、現実がある。


調理は火を捨てる。


電子レンジ。

中古のオーブントースター。

IH。

ガスコンロは捨てた。


卵をレンジで茹でる技を磨いた。

ピザトーストは焦げる。


「そのうち焦げなくなるだろう」

苦笑いする。


時間は取られる。

だが金は減らない。


栄養は落とさない。


卵。豆腐。鶏肉。冷凍野菜。

夕方の半額惣菜。

量を減らし、栄養を守る。


これは節約ではない。

生活の最適化だ。


そして男は気づく。


モールの椅子に、同世代が並んでいることを。


「ガス切った?」

「切ったよ」

「風呂どうしてる?」

「投げ込み」

「同じだな」


井戸端会議は病院から消え、

モールに移った。


かつて若者を「新人類」と呼んだ。

スピード、消費、便利。


だが今、時代の中心に座るのは旧人類だ。

しかも、おばあちゃんより

おじいちゃんが圧倒的に多い。


高い未来を拒み、

生活を小さく折りたたむ

おじいちゃん。


細かいことのできない男性が、

なんと自立し始めた。


この流れは日本だけではない。

世界中で増えていくことだろう。


誰もが気づき始める。


「高いものはいらない」

「機能のいいものはこれ以上いらない」

「今の生活で十分だ」

「なぜ買わされる?」


旧人類がヒーローになる。

理由は単純だ。


彼らが“生き残っている”からだ。


---


■ 第10章

― 2027年――計画停電が日常になる


2年後。


計画停電は日常になる。

スマホは修理前提になる。

新車は1000万超が当たり前になる。


熊本。

第1工場は動く。

第2は休止のまま。


北海道。

ラピダスは稼働率を落とす。

理由は電力とコスト。


中国は市場を広げる。

性能90%、価格1/10。


十分だった。

欧米一辺倒の経済は急ブレーキ。


AIは、それでも成長する。

そして、AIを前提にした経済は揺らぐ。


高い半導体を前提にした世界が、

値札で壊れたからだ。


工場は残る。

人が AI に切り捨てられる。


しかも多くの人々は、

天国を探して大移動し始めた。

いわゆる経済難民。


だが貧乏人は天国に行けない。

AI が 門番をやっているからだ。


電気を回す順番。

仕事を残す順番。

補助金を与える順番。


全部、数字で決まる。


知らぬ間に背番号と口座が紐づけられる。


口座に金がない者は、

“優先”から外れる。


まるで無人コンビニストアの門を

潜っていくのと同じ理屈である。


そのコンビニの応用版、

それが世界の新しい地獄だ。


---


■ エピローグ

― 若者へ――今日から変えられること


未来は暗くない。

ただ、すべてが高くなりすぎた。


そして最初にそれに気づいたのは、

67歳の旧人類だった。


彼は過去へ戻ったのではない。

次の時代へ先に行っただけだ。


いわゆるサバイバー。

若者のお手本になろうとしている。


阿闍世あじゃせよ。

そして、これを読んだ若者よ。


今日からできることは、派手じゃない。


固定費を1つ切れ。

サブスクを1つやめろ。

買い替えを1回延ばせ。

電気を1段下げろ。

体を1回歩かせろ。

学びを1つ積め。


そして、


「自分の頭で考えろ!」


高い未来に飲まれるな。

値札に人生を決めさせるな。


世界が高くなっても、

生き方は高くしなくていい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ