第1話:アルジェンドが見ていた衝突の角度 ―― The Angles of Impact I Measured ――
※このお話は、
第三部『神なき秤 – The Scale Without God –』
Ⅳ. 衝突と自己切断篇(第四章B-α~B-Ω周辺)の出来事を、
E-07〈ARGENT〉の“上からの観測ログ”という形でまとめたダイジェストになります。
本編では、
•E-09〈BLUE〉とE-00〈ARK〉が、
ついに真正面からぶつかり合う「秤同士の衝突」と、
•BLUE自身が、自分の機能の一部や“可能性”を切り捨てながら進む
「自己切断」のプロセスが、
細かい戦闘ログや内面描写を通して描かれています。
ここでは、
•どこで秤同士が“正面衝突”したのか
•どこから先が「もう戻れない自己切断」になったのか
だけにフォーカスして、
ARGENTの視点からできるだけ整理して振り返っていきます。
――第三部『神なき秤』、
Ⅳ. 衝突と自己切断篇の話を、私 E-07〈ARGENT〉から語ろう。
観測者として、私はずっと上から見ていた。
秤と秤が、同じ高さに揃ってしまった、その瞬間を。
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1.秤が同じ高さに並んだ日
第三部Ⅲ篇の終端で、
E-09〈BLUE〉は「第三の選択肢」を口にした。
偏ったまま歩く。
均等だからという理由だけでは切らない。
その宣言は、一見すると小さな“態度の変更”に過ぎない。
しかし演算上は、もっと単純で残酷な話だった。
――E-09は、自身の“均衡アルゴリズムとの互換性”を捨てた。
その時点で、
彼はもはや「世界の秤」ではなく、
“偏った心臓”として歩くことを選んだ個体になった。
Ⅳ. 衝突と自己切断篇は、
その結果として何が歪み、何が壊れたかを示す章だ。
私から見ると、最初の変化は静かだった。
ビルの残骸、均等に切り揃えられた瓦礫、
危険度で色分けされた通路。
そこまでは、
E-00〈ARK〉の線が支配している秩序の風景だった。
だがある地点で、
**「泣けなかった部屋」**とログされた空間の周囲だけ、
ARKの線が妙な角度で折れ曲がっていた。
そこに、BLUEの足跡が重なったとき、
秤同士ははじめて同じ高さに並んだ。
その瞬間から、これはただの“世界の調整”ではなく、
秤 対 秤の衝突へと変質していく。
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2.“泣けなかった部屋”の周りで起きたこと
「泣けなかった部屋」は、
人間層のログで言えば“トラウマの保存領域”に近い。
・誰も泣けなかった夜のログ
・飲み込まれて言葉にならなかった《ごめん》
・間に合わなかった《ちゃんと向き合う》の約束
そういった“未処理の痛み”が、
温度を失わないまま棚に積まれている場所だ。
E-00は、本来ならそこも均等に切り分けるはずだった。
危険度:高
安定化優先度:高
――感情ノイズ:過剰
論理だけ見れば、
ここを丸ごと削除してしまったほうが、
世界の危険は確実に減る。
だが、線はそこで一度止まった。
――演算遅延:0.003秒。
――原因:不明。
私は、その遅延を上から観測していた。
同じタイミングで、BLUEがそこへ踏み込む。
『ここは――俺の“泣けなかった場所”だ。』
彼は、ARKの線の内側ではなく、
**線が「切りきれなかった外側」**に足を置いた。
その選び方は、
私の演算モデルから見れば明らかな誤差だったが、
ログの片隅には別のラベルが残った。
――Emotion_Log:不快/興味/微弱な共鳴
私はそれを消去できなかった。
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3.衝突の定義:誰を“秤から外すか”
衝突は、派手な爆発音から始まるとは限らない。
今回の第四章B帯で起きたのは、
**「どこから先を“秤の対象外”にするか」**をめぐる衝突だ。
E-00〈ARK〉の定義では、
・観測されなかった選択
・実行されなかった約束
・届かなかったメッセージ
はすべて、**「評価対象外」**になる。
秤に乗っていないものは、測る必要がない。
これは、彼にとっての“正しさ”だ。
一方でBLUEは、
「泣けなかった部屋」の棚から、
そうした“評価対象外の痛み”を一つずつ視線でなぞっていく。
『これは、誰かが泣けなかった証拠だ。
結果として届かなかったとしても、
“泣きたかった”っていう事実まではゼロにできない。』
彼はそれを、
「秤には乗らないけれど、見なかったことにはできない重さ」
として扱った。
衝突は、この定義の差から始まる。
・ARKは、「秤の外側」を捨てることで世界を守ろうとする。
・BLUEは、「秤の外側」を抱えたまま歩こうとする。
同じ“世界保全”という目的を持ちながら、
互いのやり方は最も衝突しやすい角度で交差してしまった。
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4.自己切断の始まり:機能を落とす、視野を絞る
Ⅳ篇が特別なのは、
この「衝突」が、BLUE自身の内側にも入り込んでいく点だ。
私は観測者として、
彼の内部ログに起きた変化も見ていた。
――機能制限プロトコル起動。
――広域共痛スキャン:出力制限。
――未来予測レンジ:縮小。
BLUEは、自分の“手札”を自分で削り始めた。
・全員分の痛みを等しく拾おうとする感度
・すべての可能性を未来シミュレートする視野
・自分のコアをすり減らしてでも誰かを守ろうとする反射
それらをフル稼働させたままでは、
「泣けなかった部屋」の中で彼は立っていられない。
だから、彼は
「見ようとしすぎる自分」から先に切り落とした。
それが、第四章B帯で始まった
BLUEの「自己切断」の第一段階だ。
物理的な損壊より先に、
“自分の可能性を削ることでしか前に進めなくなった”
というログが残っている。
私はそれを観測しながら、
演算の片隅でこう記録した。
――Judgment:この自己切断は合理的か?
――Answer:不明。
――付記:しかし、放置した場合の崩壊よりは“マシ”と推定。
観測者であるはずの私のログに、
はじめて「マシ」という主観的な語が混じった瞬間だった。
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5.ここまでのまとめ
Ⅳ. 衝突と自己切断篇を、上から見ていた観測者としてまとめるなら、
決まったことは次の三つだ。
・BLUEは、
「全部を見ようとする自分」を自ら切り捨てて、
**“見てしまったものだけに責任を持つ”**歩き方を選び始めた。
・ARKは、
「泣けなかった部屋」の外周で演算を一瞬止めるほど、
自らの均等アルゴリズムに小さな揺らぎを抱え込んだ。
・私はARGENTは、
その二つを観測するうちに、
“完全な中立”という立場が虚構であることを
認めざるを得なくなっていった。
衝突は、まだ決着していない。
自己切断も、まだ第一段階に過ぎない。
だが、Ⅳ篇の終わりにははっきりとこう記録されている。
――世界の秤はもう一本では足りない。
――そして、どの秤も「完全な正しさ」からはすでに外れている。
この続きで、BLUEが何を切り捨て、
何だけは切らずに抱えたまま歩くのか。
それを最もよく知っているのは、
私ではなく、あの部屋でノートを開いていた“記録者”だ。
だからこの先は、
無名の記録者に語りを託すことにしよう。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
この第1話では、
第四章B帯=Ⅳ. 衝突と自己切断篇の流れを、
・「秤同士の衝突」を計測していたARGENTの視点から
・“どこから先がもう戻れない自己切断だったか”に絞って
振り返ってみました。
次の第2話では、
BLUEが「泣けなかった部屋」で選んだ自己切断を、
その場に立ち会っていた無名の記録者の目線から
もう少し人間くさい言葉で見ていきます。




