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第一章 大天使ミカエル

 スマホの通知で目が覚める。今日もたくさんのメッセージが溜まっている。客、店のスタッフ、付き合いだけの浅い友人。ざっと全ての通知に既読をつけないように目を通してから、適当に返さなければいけないものだけ、連日のお酒で死んだような顔をしながら、とびきりの絵文字で明るく装った返信をした。


 鏡の前に座った。メイクをする時は、いつも自分の顔をしばらく見つめる。この私、周郷(すごう)リリの顔。心と身体をそこらの人より多く削って得たお金で手に入れたこの人工的な美しい整形顔。でも何故か鏡には、はるか昔に葬り去った醜い私、まだ若くて芋っぽい私が映り続けているように感じてしまう。そして胸の奥に渦巻くゾワっとした嫌な空虚感をしばらく堪能する。


 ねぇ、私のこの心の穴は、あと一体どれくらい生きれば満たされるの……?


 そう心の奥で囁きながら、鏡の奥に映る醜い自分の裏の顔を覆い隠すため、いつもつい厚い化粧をしてしまう。悪酔いしないとSNSでバズってた肝臓のサプリを飲んでから、支度をして今日も夜の街に向かった。

 

 ネオンきらめく街を歩きながら、頭にちらついてしまう。いつまで私は、こんな毎日を繰り返さなきゃいけないのかな、と。そんな嫌な想像をしていると、いつもの如く路上で待ち伏せしているスカウトが声をかけてきた。いつもなら鬱陶しいと思うのに、今日はタイミングが良かった。さっきの余計な妄想を忘れさせてくれたから、帳消しになった。適当に人混みをすり抜け、やり過ごして店に到着した。薄汚れた人間から私を守るための、心の仮面は既に被り終えていた。


 無心で接客し続けて、気づけば営業が終わった。帰りの支度をして、送迎待ちをしていた。今日も沢山飲む羽目になった。というより、使えない黒服へのイライラとコミュ障すぎる客の対応するためには、酒をかち込まないとやってられなかったのだ。はぁ疲れた、気持ち悪い、早く帰って寝たい、そんな呟きだけが頭を巡り続けた。流石に連勤続きなので、抜けきらない酒と蓄積した疲労で、心身ともに限界に近かった。そして無事、送迎の車がやってきた。車内では、大して仲良くもない他のキャストと薄っぺらい会話を交わしながら、家に着いた。荷物を置いて、束ねていたヘアセットを解いた。髪は二組目の赤マルばかり吸うヘビースモーカーの客のせいでタバコ臭かったが、もうお風呂に入る気力なんて残ってなかったのでお風呂キャンセル界隈に無事加盟した。せめて肌に悪いからと、振り絞った力でメイクだけは落とし、服を着替えてベッドでスマホを眺めながら、あっという間に寝落ちした。何度も繰り返してきた普段通りの一日を、今日もまた終えた。


 ウウウウウウ……。

 外を流れる物騒な警報音と共に目が覚めた。

「うるさ……。何これ、何なの?何の音?」

 疲労と眠りを害されたイライラと共に、薄目をあけながらスマホを見てみた。意味不明な通知がたくさん出ていた。


《速報:日本全国の上空に、正体不明の巨大な物体が出現中。防衛省が確認を急ぐ。》

〔自衛隊が警戒監視中。専門家は『自然現象ではない可能性』〕

【目撃者『空から巨大な目のようなものがこちらを見ていた』】

『やばすぎ、マジで空に何かヤバいのいるんだが笑』


 夢だと思い、何度も太ももをつねってみた。だが、何度試しても目は覚めなかった。今起きていることは、全て紛れもない現実だった。空に一体何があるというのか。私は恐る恐るカーテンを開けて、窓の外を見上げた。そして、ずっと流れているこのアラートが何故鳴り続けているのか、すぐに理解した。

 

 金と白の美しい装束に身を包んだ、翼の生えた大きな人の形のような巨大な物体が、私たちの世界を覗き込んでいた。その人智を超えた不気味で畏怖すら感じる物体に対して、私は当然驚愕や恐怖心を強く抱いたが、何故だか美しさや、雄大さのようなものも薄らと感じてしまった。憂鬱なルーティンをこなすだけだった毎日を、この美しい何かは変えてくれるのではないか、という淡い小さな期待が無意識に脳裏に煙のように漂った。しばらくその神秘的な物体に見惚れていた。すると突然自分のスマホの画面が切り替わりはじめた。ザーっという砂嵐の後、さっきまで窓の外に見えていたあの美しい無機質な尊顔が、黄金色の輝きと共に画面に出現した。そしてニッコリと笑い、人の言葉を発しはじめた。

 

「すべての人間の皆様。どうか、私の言葉に少しだけ耳を傾けていただけますでしょうか。私は、大天使ミカエル。天の秩序を、僭越ながらお預かりしております。これまで、皆様が不幸や苦悩の中にあるのを知りながら、助けに参れなかったこと……心よりお詫び申し上げます。お待たせいたしました。今この場をもちまして、謹んで宣言させていただきます。本日より、すべての人間の皆様を、幸福へと導かせていただきます。どうか、ご遠慮なさらずに、望んでください。あなた様のどんな願いも、どのような欲望も、すべて……私が叶えさせていただきます。」

 

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