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第五章「十三歳の試練〜魔力測定で王都から来た役人に目をつけられる〜」

「王都からの巡回魔力測定官が今日来るぞ!」


村の広場に張り出された告知を見て、村人たちの間で緊張が走った。ラヴィルは十三歳になり、身長も伸び、少年から青年への過渡期にあった。


「測定官か...」


ラヴィルは複雑な表情で告知を見つめていた。五年前から学び舎での魔法教育を受け、今では村で一番の魔法使いと言われるまでに成長していた。毎年の収穫は彼が考案した効率的な魔法技術のおかげで豊かになり、冬の間の保存食も彼の氷魔法で劣化せず、村全体の生活は向上していた。


「ラヴィル、聞いたか?」


学び舎の同級生トムが駆け寄ってきた。彼も少しずつ魔法を身につけてきたが、ラヴィルの才能には遠く及ばなかった。


「ああ、聞いたよ」


「緊張するな。魔力測定で高い数値が出ると、王都の魔法院に連れていかれるって噂だぞ」


その言葉に、ラヴィルは眉をひそめた。生まれた時から、「魔法院」という言葉は彼の中で暗い影を落としていた。優秀な魔法使いを集めて働かせる場所——前世の会社とどれほど違うというのだろう。



「皆さん、集まってください」


村の広場には、王都から来た測定官と思われる男性が立っていた。華やかな紫の制服に、胸には「王立魔法院」の紋章が輝いている。周囲には村の子供たちや若者たちが集まり、好奇心と不安が入り混じった表情で測定官を見つめていた。


「私はヘクター・バーンハート、王立魔法院魔力測定部の役人です」


鷹のような鋭い目つきで、測定官は集まった村人たちを見渡した。


「今日は年に一度の巡回魔力測定を行います。十歳から十八歳までの若者は全員、測定を受けてください」


測定官の隣には奇妙な装置が置かれていた。クリスタルのような球体が中央にあり、周囲を金属の輪が回っている。


「これが魔力測定器です。手をこの球体に当て、自分の魔力を注ぎ込んでください。数値は背後の表示板に現れます」


一人ずつ測定が始まった。村の若者たちは緊張した面持ちで順番を待っている。


「ラヴィル、大丈夫?」


アイラが心配そうに息子の肩に手を置いた。


「うん...」


ラヴィルは曖昧に答えた。本当は大丈夫ではなかった。彼の魔力が目立てば、村を離れることになるかもしれない。でも、偽ることもできない。測定器は正確に魔力を測るはずだ。


トムの番になった。彼は緊張した様子で球体に手を置き、集中した。表示板に数字が浮かび上がる。


「42点。平均的な魔力です」


測定官は淡々と記録した。トムはほっとした表情で戻ってきた。


「次、ラヴィル・ガレス」


名前を呼ばれ、ラヴィルは一歩前に出た。


「頑張れ」


ガレスが小声で励ました。ラヴィルは測定器に向かって歩いた。


球体は冷たく、触れた瞬間から何かがラヴィルの体内から引き出されていくような感覚があった。


「自然に魔力を流してください」


測定官の指示に従い、ラヴィルはリラックスして自分の魔力を球体へと流した。前世では自分の能力を隠すこともあったが、この世界では誠実に生きると決めていた。


突然、球体が明るく輝き始め、金属の輪が猛スピードで回転し始めた。表示板の数字が急上昇する。


「50...100...150...」


測定官の表情が変わり、周囲からどよめきが起こった。


「止まりません!装置が壊れるかも...」


助手が慌てて叫ぶ。ラヴィルは手を引っ込めようとしたが、測定官が彼の手首をつかんだ。


「続けなさい。これは...」


「200...250...」


やがて数字は「287」で止まった。測定器の球体は眩いばかりに輝き、やがてゆっくりと消えていった。


広場は静まり返った。


「287点...」


測定官は震える手で記録を取った。


「これまでの村での最高記録は150点だった。君は...」


ラヴィルは黙って立っていた。予想はしていたが、やはり目立ってしまった。


「これは驚きだ。村出身でこんな魔力を持つ子は珍しい」


測定官は急に態度を改め、にこやかな笑顔を浮かべた。


「ラヴィル君、王立魔法院について聞いたことがあるかい?」



「絶対に行かせません!」


村長の家での話し合いは、アイラの強い反対から始まった。ヘクター測定官、村長、そしてラヴィルの家族が集まっていた。


「奥さん、冷静になってください。これはお子さんの将来のためです」


ヘクターは説得するように言った。


「魔法院では、才能ある若者に最高の教育を提供します。ラヴィル君のような才能は、村では育て切れません」


「でも、まだ子供です」


「十三歳は、魔法を学ぶのに最適な年齢です。院生として迎え入れれば、学費も寮費も全て無料。将来は王国の高官として活躍できるでしょう」


ヘクターの言葉は前世の会社の採用面接を思い出させた。「将来性がある」「優秀な人材」—そんな言葉で若者を取り込み、使い潰す構図。


「ラヴィル、お前はどう思う?」


ガレスが静かに尋ねた。皆の視線がラヴィルに集まる。


彼は深く考えていた。村を離れたくはなかった。でも、自分の魔法の才能をもっと伸ばしたいという気持ちもある。そして何より、魔法院がどんな場所なのか、自分の目で確かめたかった。


「王立魔法院で、どんな勉強をするんですか?」


ラヴィルが尋ねると、ヘクターは嬉しそうに説明し始めた。


「基礎魔法学から応用魔術、魔力操作技術、そして専門分野へと進みます。君のような氷系統の才能なら、気象操作や建築魔術などの道が開けるでしょう」


「授業時間は?休みは?」


「朝から夕方まで授業があり、夜は自主研究の時間です。休みは月に三日」


ラヴィルは眉をひそめた。休みが少ない。


「卒業後はどうなりますか?」


「王国の役人として働くことになります。魔法を使って国を支える重要な仕事です」


「勤務時間は?」


「そうですね...朝から業務があり、必要に応じて夜まで。魔法使いは常に国のために働くものです」


その言葉に、ラヴィルは前世のフラッシュバックを感じた。「会社のために」と言われ、深夜まで働いた日々。


「報酬はどうなっていますか?」


ヘクターは少し戸惑ったように見えた。


「院生の間は学びが報酬です。卒業後は地位に応じた俸給が出ます。ただ、魔法使いの仕事は報酬のためではなく、使命感からするものですよ」


使命感—それも前世でよく聞いた言葉だった。「会社への忠誠」「チームのため」—そんな言葉で無償労働を美化していた。


ラヴィルは決心した。


「申し訳ありませんが、今は村に残りたいと思います」


ヘクターは驚いた表情を隠せなかった。


「考え直してほしい。君のような才能は王国の宝だ。村にいては埋もれてしまう」


「私は村で学んだことがたくさんあります。ここにも、私にできることがあると思います」


アイラとガレスは安堵の表情を浮かべた。


「...残念だ」


ヘクターは渋々と言った。


「だが、来年また測定に来た時、考えを変えているかもしれないね。才能がある者は、いずれ大きな世界へ出るものだ」



測定官が去った後、村は再び平穏を取り戻した。しかし、ラヴィルの心の中では新たな疑問が芽生えていた。


村の夕暮れの中、丘の上に座るラヴィル。トムが隣に座った。


「王都に行かなくて良かった。でも...本当にいいのか?」


「うん、今はここにいたい」


「でも、あんなに才能があるのに...」


ラヴィルは空を見上げた。


「才能があるからこそ、使い方を選びたいんだ」


前世では、才能は会社に搾取された。今世では、自分で選びたい。


「でも、いつかは村を出ることになるかもしれないな」


「え?どうして?」


「もっと学びたいことがある。魔法の可能性をもっと知りたい。でも、魔法院のように縛られるのではなく、自分のペースで」


トムは少し寂しそうに頷いた。


「独立した魔法職人になるとか?」


「そうかもしれない。前世...じゃなくて、昔から考えていたんだ。自分の力で生きていくってことを」


「前世?」


「あ、何でもない」


ラヴィルは笑ってごまかした。


二人は夕日が沈むまで、未来の夢について語り合った。前世では叶わなかった、自分らしい生き方。今度こそ、自分のペースで歩んでいきたい。


しかし、高い魔力を持つ彼が平穏に暮らせる日々は、もう長くはないかもしれなかった。王国の目は、すでに彼に向けられていたのだから。

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