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日常篇「オフの一日〜魔法と休日と女性たち〜」

週に一度の休日。ラヴィルは久しぶりにゆっくりと朝を迎えた。フェルド師匠の工房の一室で目を覚ますと、窓から差し込む朝日が部屋を明るく照らしていた。


「前世では休日も仕事してたな...」


ベッドから起き上がり、窓を開けると市場からの活気ある声が聞こえてくる。階下からフェルド師匠が朝食と手紙の到着を告げる声がした。


食堂に降りると、テーブルの上に温かい朝食と二通の手紙が置かれていた。一通はアイリスからの淡いブルーの封筒。もう一通は王立魔法院の公式紋章が押された正式な書状だった。


「人気者だな」フェルドが茶目っ気たっぷりに笑った。


アイリスの手紙には、午後に市場の花屋で会おうという誘いが書かれていた。リリアからの公式書状は、夕刻に市の中央広場の噴水前で会いたいという内容だった。


「今日は二人の美女との約束があるようだな」フェルドはにやりと笑った。


「そんな、単なる仕事の...」


「若いっていいな」師匠は懐かしむような表情で答えた。



午後、約束通り花屋に向かうと、アイリスが既に待っていた。普段のギルド秘書の制服ではなく、淡いブルーのワンピース姿だ。


「ラヴィル!来てくれたのね」彼女の笑顔は明るく、銀色の髪が陽光を受けて輝いていた。


「約束したからね」


「見て、これが噂の『氷華』よ」アイリスは特別なガラスケースを指さした。中には青白い結晶のような花が咲いている。


「氷のような見た目だけど、実は植物なんです」店主が説明した。「氷系魔力を持つ方が育てると、特別な効果があるとされています」


「私、あなたにぴったりだと思って」アイリスが小声で言った。


花を購入した後、二人は近くのカフェで魔法で冷やされた飲み物を楽しんだ。


「あの...王都からの誘い、考えた?」アイリスが少し緊張した様子で尋ねた。


「まだ決めていないよ。ここでの仕事も大切だし...」


「そう...個人的には...ここに残ってほしいな」


その言葉に、ラヴィルは少し照れた。前世では、自分を必要としてくれる人がいるという実感を持てなかった。



夕刻、中央広場の噴水前にはリリアが立っていた。王立魔法院の制服ではなく、深紅のドレスに身を包んだ姿は目を引いた。


「ラヴィル様、来てくださったのですね」彼女は優雅に微笑んだ。


「実は公務の合間に立ち寄っただけなんです。でも、あなたにどうしてもお会いしたくて」


「私、あなたの魔法理論に深く興味を持っています。特に螺旋魔力の応用は革命的です」


リリアの瞳は熱意に満ちていた。前世では、純粋に学問的情熱を持った同僚と出会うことはなかった。


「王都での職務はどんな感じなんですか?」


「忙しいですが充実しています。あなたなら改革もできるはずです。今の魔法院にも、働き方の見直しが必要なんです」


それは意外な言葉だった。官僚的な組織にも変化の兆しがあるのかもしれない。


「これ、私からのプレゼントです」リリアは小さな黒水晶のペンダントを差し出した。「魔力を注ぐと、私に連絡できます。何かあれば...いつでも」



夜、工房に戻ったラヴィルは、今日の出来事を振り返っていた。アイリスとの穏やかな時間、そしてリリアとの意外な会話。


「氷華」の鉢植えをそっと手に取り、少し魔力を注ぐと、花が淡く光りだした。アイリスからの贈り物。そして首からはリリアのペンダントが下がっている。


「不思議だな...」


前世では想像もできなかった生活。才能を活かしながらも、人間らしく生きられる世界。


窓の外に広がる星空を見上げながら、ラヴィルは思った。


「今度は、違う人生を歩めるかもしれない」


その夜、彼は穏やかな眠りについた。王都からの誘いについての決断は、また明日考えればいい。今は、この日常の幸せを噛みしめていたかった。

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