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4. 巨獣

 不意に自覚した。


 僕は、巨大な怪獣相手にはより強い敵意を覚えるらしいと。


「逃げるよ!」


 リーダーのカナエさんが叫ぶ。


 その言葉と、僕が駆け出したのは同時だった。


 僕の中の光が滾る。


 その増大に比例して、僕の力も増していく。


 怪獣のいる廃墟ビルに入った僕は、壁を使って跳躍し、1つの階を2歩で走破していった。


「これは、怪獣の手か」


 屋上への道を塞いでいた怪獣の体へ、鉄棒をブスリと突き刺す。


 けれど巨大過ぎて、身動ぎすらしない。


「くそっ」


 僕は代わりに、別の場所の天井を破壊して屋上へ出た。


「なんて大きいんだ」


 怪獣の、僕の体より大きな目が僕を真っ直ぐ捉えている。


 この怪獣は、母さんを食った奴よりもかなり大きい。


 僕の持っている鉄棒はそれなりに長いけれど、脳核まで届かないかもしれない。


 その時、怪獣が僕に向かって口を開く。


 また別の怪獣を吐き出すのかと思ったが、放たれたのは不気味な光を放つ光線だった。


「ぐああっ!」


 肌が焼けて、そのまま貫かれそうな痛みに襲われる。


 吹き飛ばされた僕は、ビルの屋上から落下した。


「ナオさん!」


 そのまま地面に叩きつけられるかと思いきや、ふわりと落下が収まった。


 エミナさんが風を起こす魔法で受け止めてくれたのだ。


「ありが──」


 お礼を言おうとした瞬間、嫌な予感がして上を見る。


 大怪獣が、またさっきの光線を放とうとしていた。今は近くに剣奏隊の皆がいる。


「逃げて!」


 僕の叫びに怪獣たちと戦っていた全員が頭上を見上げ、咄嗟に離れようとしたが、間に合わない。


「くっ! うおおおおおおおおおおっ!」


 なんとかしなければいけないと、何も考えずに光線へ立ち向かう。


「ナオさん!? 貴方も……」


 後ろからエミナさんが呼びかけてくる。他の3人も足を止めてしまったようだ。


 あの怪獣は僕を狙っている。


 僕が4人のことを守らなければ。


 そのためには、僕の中で輝く光の力が必要だ。


 そう思って意識してみると、煌きが少し変質していることに気付いた。


 いや、違う。より鮮明に捉えられるようになったんだ。


 桃色みのある柔らかな印象の光と、暗く粘性を帯びたような光が混じり合っている。


(闇……)


 大怪獣の体が作り出している、大きな影。


 その闇がより黒さを増して、僕の足元に集まってくる。


(これは影を……闇を操る力だ)


 影がぐるぐると渦を巻いて、僕の持っている鉄の棒を覆っていく。


「おおおおおおおっ!」


 光線が放たれるのと同時に、影の棒を振りぬいた。


 影の奔流が固まり闇の刃となって、光線を迎え撃つように飛んでいく。


 バシィン! と激しい音がして、怪獣の光線と影の刃が打ち消し合った。


「わ……すごい」


 カナエさんの感嘆する声が聞こえてくる。


 けれど、それに対して無邪気に喜ぶことはできなかった。


「くっ……」


 体に痛みが走り、力が抜ける。


 きっと、この輝く光の力を使うには、僕の体はまだ脆弱なのだ。


「ナオさん、大丈夫ですか!?」


 エミナさんが駆け寄ってきて、体を支えてくれる。


 その時、僕はふと気付いた。


 僕の中の輝きを、より鮮明に観測できるようになった影響。


 僕とエミナさんを糸が繋いでいる。糸に繋がっているのは、輝きそのものではなく、そのそばにある門のような形状をした暖炉だった。


 その門のような暖炉──門炉を通って、光の力がエミナさんの中へ流れ込んでいる。


「あ、これは、さっきと同じ……」


 そう呟いたのは、エミナさん。


 彼女も、僕から力が流れ込んでいるのを自覚しているらしい。


「ちょっとナオくん! すごかったけど、ここは逃げるよ!」


「す、少し待ってください、皆さん! 一度ナオさんに触れてみてくれませんか?」


「触れる? こう?」


 カナエさんが僕の肩に手を置く。


 すると、門炉から2本目の糸が伸び、カナエさんと繋がった。


 けれど、エミナさんの糸と比べると、随分弱々しい様子だ。


「わ、これは……!」


 糸の細さに比例して量も少ないけれど、エミナさんと同じようにカナエさんにも光の力が流れ込んでいった。


「すごい! 力が溢れてくる!」


 エミナさんとカナエさんに力を譲渡した代わりに、僕の中の輝きは小さくなっている。


「私たちで、あの巨獣を倒しましょう」


「倒すって、いや、無理でしょ」


 ハイミーさんが嫌そうに眉根を寄せて否定する。


「いや、やろう!」


 けれど、カナエさんは逆にやる気になっていた。


 マイさんは意見を言えずにオロオロしているが、立ち位置から見るに、ハイミーさんよりのようだ。


「いや、巨獣を知らないの!? 源獣の他で唯一確認された、クローン以外の方法で怪獣を生む災害! あたしらより前線で戦ってるハンタークランが敗走したんだよ!」


「ハイミー。怪獣退治に1番必要なのは、脳核を貫く火力だよ。そして剣奏隊にはあたしがいる!」


 言い合っている2人の邪魔をしないように、エミナさんが耳元に口を寄せてきた。


「カナエのアビリティは<オーバーマイト>といって、凄まじい威力の攻撃を放てるんです」


「へえ、すごいね」


 僕の放った影の斬撃も、あの巨獣と呼ばれた大怪獣の光線と打ち消し合えるほどの威力があったけど、恐らく僕のアビリティは威力を突き詰めたものじゃない。


 きっとあれよりもすごい攻撃なんだろう。


「ハイミー、逃げてちゃ成長しないよ! それじゃああたしたちの目的から逸れることになっちゃう!」


「むむ……」


「目的って、源獣の討伐じゃないの?」


 そばにいるエミナさんに聞く。


「私たちがすぐに源獣の下へ赴かないのは、3人のアビリティを成長させるためです。アビリティは使用して経験を積むほど強力に育っていくんですよ」


「へえー、そうなんだ」


 ということは、僕が影の力を使えるようになったのも、その成長ということなんだろうか。


「よーし、やるぞー!」


 僕がエミナさんから説明を受けている間に、カナエさんがハイミーさんを説得したようだ。


 マイさんも後ろでがっくりと肩を落としている。


「カナエさん、手を貸して」


「え? うん、いいよ」


 僕は足を震わせながら立ち上がり、カナエさんの手に触れた。


 やはり、触れると糸で相手と繋がることができる。


 さっきは、微量が少しずつ勝手に流れていったが、それでは時間的な効率があまりに悪い。きっと、自分でいくらか調節できる筈だ。


「お、おお! 力が流れてくる!」


 よかった、上手くいったみたいだ。


 光の方を操ることはできなかった。


 けれど、糸の方はある程度思い通りになったので、光とより深く接続させることで、供給量を増やせたのだ。


「これなら、あの巨獣だって簡単に倒せるよ!」


 カナエさんは自分の身長ほどもある大剣を持ち上げて、僕たちの方へ迫ってきていた、巨獣の吐き出した怪獣たちへ向かって振るう。


「刃の威よ、風の斬撃となって空を切れ! 〈フライセカーレ〉!」


 彼女が呪文を唱えると、振るった斬撃が風となって真っ直ぐに飛び、怪獣たちを纏めて上下に切断した。


「わあ、すごい!」


 自信ありげな笑みを浮かべるカナエさんは、まさに英雄のようだった。


「さあ、あたしたち剣奏隊であの巨獣を倒すよ!」

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