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3.すれ違い

 僕は、藪蛇になるかもしれないと思いながらも、エミナさんの顔を見て聞かずにはいられなかった。


「ねえ、どうしてエミナさんはいかないの?」


「……」


 彼女は口を開かない。


 嫌なことを聞いてしまったと僕が焦りだした時、やっと言葉を漏らしてくれた。


「昨日、コモンスペルとアビリティのことを説明しましたね」


「うん」


 誰でも使えるコモンスペル。


 選ばれた者にしか使えないアビリティ。  


「単純な話です……怪獣退治には、コモンスペルでは火力が足りないんですよ」


「あ……」


「分かったみたいですね。そう、剣奏隊で私だけが、アビリティを持っていないんです」


 カナエさんたちが3人で戦っている姿を見るエミナさんの眼差しは、今にも泣きだしそうだ。


「剣奏隊は4人で立ち上げたハンタークランなんです。でも、いつの間にか私だけ置いていかれてしまいました。最初は4人で戦っていたのに、気付けば私は守られる立場になっていたんです」


 僕は何も言えない。


 だってエミナさんは昨日、僕にこう言っていた。『いいアビリティを持っているのですね』と。


 僕も彼女と違って、アビリティを持っている側なのだ。慰めの言葉をかけても、きっと意味が無い。


 その時、ガシャンと瓦礫の崩れる音が僕たちの背後からした。


「何!?」


「こちらにも怪獣が……」


 3人の方を見る。残念なことに、こちらには気付いていないようだ。


「早く逃げ──」


「エミナさん、僕らで倒そう!」


「し、しかし私では……」


 少し。烏滸がましいことだけど、少しエミナさんのことが少し分かった気がした。


 きっと彼女は、守られるうちに怪獣に立ち向かう心を失ってしまっている。


 それを取り戻してあげられたら、もしかして……


「エミナさん!」


 僕は逃げ出そうとしているエミナさんの手を掴んだ。


「僕は怪獣と戦ったのはたった1回だけだよ。素面ではこれが初めてだ。僕にはエミナさんが必要だ!」


「あ……」


「手伝ってほしい。一緒に戦おうよ!」


 エミナさんが目を大きく見開く。


 そんなことをしている間に、怪獣はすぐ後ろまで迫っていた。


「くっ」


 僕は咄嗟に近くにあった鉄の棒を拾い、掴みかかろうとしてきた手を打ち払う。


 まただ。


 また、僕の中で何かが輝いている。


 母さんを食ったやつは巨大だったのでその腕を足場にすることができたが、目の前のこいつのサイズでは不可能だ。


 なんとかして頭を下げさせないと、脳核を攻撃できない。


「はあああああっ!」


 ズブリと鉄の棒を怪獣の足に突き刺す。


「ギャオオオオオオオッ!!」


 怪獣は悲鳴を上げて体をよろめかせたが、腕で体を支えている。この四足歩行の状態ではまだ頭に届かない。


「ほ、焔よ、槍と化して飛べ! 〈フレアハスタ〉!」


 エミナさんが言葉を呟くと、前に伸ばした手の先に鮮やかな光が円形の模様を描く。


 その中心から赤い火の槍が飛び、僕がつけた怪獣の後ろ脚の傷に追撃した。


「ギャオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 怪獣が痛みに悲鳴を上げ、体を仰け反らせた。


「今だ!」


 怪獣が体を支えている前足に向けて、鉄の棒を思いきり振りかぶる。


 僕の中の輝きが、一層激しく発光し、僕の体に力が漲っていった。


「はあああああっ!」


 思い切り殴りつけた怪獣の腕が、肩からちぎれ飛びそうな勢いで弾かれ、怪獣の頭が地面に落ちる。


「エミナさん!」


「雷よ、瞬き駆け、敵を貫け! 〈サンダークレール〉!」


 エミナさんの放った雷が宙を駆け、怪獣の頭を穿つ。物理的な穴は空いていないが、焦げた痕が残った。


 しかし、怪獣は動き出す。


「やっぱり、私じゃ……」


「エミナさん!」


 絶望して立ち尽くすエミナさんの腕を掴んで、怪獣の攻撃から間一髪で逃がす。


「エミナさんの魔法は無意味じゃないよ! ちゃんと効いてる!」


 僕の言葉通り、怪獣はふらついていた。振り回す腕にも力が入っていないようだ。


「もう一度だ! エミナさんならできるよ!」


「……は、はい!」


 瞳の中に光を取り戻したエミナさんが、力強く頷く。


 僕はエミナさんから離れて、怪獣へ迫る。


 先程鉄棒で突き刺しエミナさんの魔法で焼かれた足を狙って殴りつけた。


「グギャアアアアアアアアアッ!」


 絶叫して、怪獣が倒れる。


「今だ!」


「荒ぶる雷よ、我が手中に集い、敵へ降り注げ! 〈サンダーサチュラティオ〉!」


 エミナさんの魔法陣から、いくつもの太い雷が束となって放たれた。


 ズドーン! と激しい音を立てて魔法が倒れている怪獣に魔法が命中する。


 怪獣の体にはパリパリと青い電気が走り、そしてもう動かなかった。


「やった! すごいよエミナさん!」


「は、はい。ありがとうございます」


 僕が手を取って喜ぶと、エミナさんはあまり嬉しくなさそうにしていた。


 人に触られることがあまり好きではないのかもしれない。


「エミナ、ナオくん!」


 向こうの怪獣をやっつけたカナエさんたちが走って戻ってくる。


「わ、もうやられてる。ナオくんが倒したの?」


 咄嗟にエミナさんが倒した可能性が除外されたところを見て、僕はエミナさんの哀しみを実感した気がした。


「僕じゃなくてエミナさんだよ」


「えっ、エミナが!?」


 僕は心臓をドキドキと鳴らしながら次の言葉を待った。


 例えば『信じられない!』とか、エミナさんの功績を疑うようなことを言われてしまったら、僕は怒ってしまうかもしれない。


 そんな懸念をしていたのだけど、


「すごいね!」


 カナエさんは、とても善人だった。


「さすがエミナ! 最近は怪獣が怖くなっちゃったのかなって思ってたんだけど、そんなことなかったんだ! よかった~!」


 ああ、すれ違いが起きていたんだ。


 エミナさんは、仲間外れにされているように感じていた。


 でもカナエさんたちも、エミナさんが怪獣に怯えてしまっていると思っていたんだ。だから積極的に前線へ誘わなくなった。


「べ、別にそんな、大したことでは……」


 照れて赤面したエミナさんが、顔を隠すように俯く。


 その時、突然ゴゴゴゴと地面が揺れ始めた。


「なっ、なんだこれ!?」


 暫くして揺れが収まっても、剣奏隊の皆は警戒を解かない。


「上っ!」


 ハイミーさんの声で、全員が上を見る。


 ちょうど、僕たちを大きな影が覆った。


「な、なんですか、あれ……」


 声を震わせるマイさんが、誰にも答えられない疑問を呟く。


 廃墟となっているビルの上に、そのビルよりさらに大きな怪獣が出現していた。


「さっきはこんなのいなかったのに……」


 僕とエミナさんが合流する前から、他の3人はこの廃墟にいた。この巨体に気付かない筈はない。


「まさか、さっきの地震……地面の中にいたのか!?」


 僕の言った推測に反応したかのように、怪獣が口を開く。


 巨大な口の中から、何体もの小さな怪獣が落ちてきた。

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