プロローグ
白き加護の光の下で
人は、生まれた時に神の印を授かる。
それが“加護”と呼ばれるもの。
この国ではそれが、すべての価値を決める。
身分も、未来も、愛される資格でさえ。
ここはセリオノス王国(Kingdom of Serionos)
──神々の祝福により統治される“加護制社会”を持つ宗教国家。
神殿都市:オルフェウスは神官たちの聖地。「白の神」と「黒の神」を祀る2つの神殿が対峙している。
セリオノス神話──二柱の神の伝承
かつて、世界はただひとつの光によって満ちていた。それは、与えられることを喜びとする無垢な光だった。
人々はその光のもとに生まれ、育ち、ただ祝福だけを享受して生きていた。だがやがて、人々は気づいてしまったのだ。「与えられるだけでは、幸福には届かぬ」と。
その日、光の中から**“影”**が生まれた。光と影、白と黒。二つに分かたれた神は、それぞれに別の道を選んだという。
「白の神様はえらいえらい神様。いい子には光をくれて、わるい子には見向きもしません。でも、夜に泣いてる子の耳には、黒の神様がそっとささやくの。『泣かなくていい。やりなおせばいい』って」
そして加護をもたない私は──異端の力と弾弓された。
首に巻かれた縄の感触は、思ったより柔らかく、そして冷たかった。
見上げた空は高く、どこまでも澄んでいて、まるで祝福の色のようだった。
この処刑場に立つ者が見上げるには、あまりにも清らかすぎる空だった。
「……君が最後の希望だった」
その声は優しかった。
誰よりも誠実で、誰よりも純粋だった人。
その人が、最後の瞬間まで私の隣に立ってくれていた。
レオン=ディアス。
王国の第二王子であり、かつて私に微笑みを向けてくれた唯一の人。
「どうして、来てしまったのですか。王子のあなたが、こんな場所に……」
「君がここにいる理由が、正しくないからだ」
誰の声も届かないこの場所で、彼の言葉だけが、私の心に深く染み渡る。
私はそっと目を閉じて、最後の呼吸を整えた。
人は、こんなにも静かに死を受け入れられるのだろうか。
恐れも、悔いも、もうとうに擦り切れていた。
ただ、私が本当に望んでいたのは——