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第六話



 広間には関係者を全員揃えている。

 ショータ様を始め、セキーシとブトゥーカ殿とケンジャー殿、そして私の夫のヨイダンナー将軍と、末っ子のマッティーも。


 いよいよここからが一番の問題か、と身構えながらオコッサ殿を連れてくると。


「おおっ、おおうショータよ! ひっさしいのう! 元気にしておったか!? わらわがおらん場所で寂しゅうはなかったか!?」


「お久しぶりですオコッサさん!」


「まったく貴様という奴は! 聖剣を返却するためだけにちょいとばかし立ち寄っただけで、すぅーぐに我が国を出てゆきおって! この半年、何故にわらわの下に遊びにすら来ぬのだ!」


「それはごめんなさい! でも久しぶりに貴女と会えて嬉しいです!」


「っ……ふんっ! 然様な口先だけでは誤魔化されんぞ!」


 ……ショータ様の姿を一目見た瞬間から、彼としか全然喋ってくれない。本当にそれ以外は全員どうでもいいらしい。

 それはそうとして「然様な口先だけ」でめちゃくちゃ嬉しそうに顔を赤らめてるのが確認できるんですが。可愛いけど。


「わらわが一体如何なる思いでこの半年を退屈に過ごしたと思うておる! なんせ半年じゃぞ!

 来る日も来る日も神殿でなぁぁぁぁーんも起こらん未来を確かめては神官共に伝えて! ただそれだけを一生のように繰り返し! あんなつまらん日々はもう今日で終わりじゃ!」


 ……これやっぱり彼女もショータ様に迫りに来た案件では?


「一日千秋というじゃろうが! ほぼ六か月間、約180日こんな調子じゃぞ! さしずめ十八万秋か!? 阿呆か!? 帝国臣民総出でわらわの人生っちゅうもんを何じゃと思うとる!」


 護衛の重騎士さんたちがちょっと可哀想になってきた。


「そもそも最初に見た予知では貴様に文を送りつけて帝国まで呼びつける手筈じゃったが、貴様は一体何を考えて邪魔なお供三人まで連れてきよるんじゃ!

 挙句にわらわがいくら引き止める算段を思案して整えても貴様は精々五日程度で帝国を出てしもうとった! なんでじゃ! なにゆえに貴様はそのまま我が国に住み着かん!?


 ショータはわらわの傍らから逃げようと言うのか!? 斯様な未来は断じて認めぬぞ! 仕方がないからわらわの方からこんな所まで出向いてやったのじゃ!

 貴様はその意味がわかっとるんか!? ええ、オイ!?」


 私の陣地はこんな所ですか。あと邪魔なお供三人って……セキーシたちのことなんだろうなぁ……。


「ショータよ! 今すぐわらわと共に来い! 帝国にて契りを交わすぞ! まさか拒否なんぞするまいな!?」


「お断りします!!」


「…………貴様ァァァァァァァァァアッ!!!!」


 いやショータ様も「何があっても出来る限り穏便に対応してくれ」って何回もお願いしたのにもう早速破ってらっしゃるじゃないですか。私との約束は?

 また必殺の空間凍結魔法「お断りします」ですか? いやいやいや。ド真ん中直球が飛んできたら脊髄反射で全力で打ち返さずにはいられないってことですか?


「待てェェェェェッショータァァァァァァァァッ!!」


 ほらブトゥーカ殿もカッ飛んでいったし。続けてセキーシとケンジャー殿も。


「ご、ごごごごめんなさい導師様!! って言うかお久しぶりですね導師様! 今日も相変わらず大変お綺麗でとでも言いますかオホホホ! ほらショータ君も謝って!!」


「ショータ君、約束が違うじゃないですか! 断るにしても最低限否定だけの言葉選びは慎んでくださいとあれほど!」


 もう早速地獄の幕開けですか? まだ開始から数分なんですが?


「ごめんなさいオコッサさん! ユキマミレ帝国に遊びに行くだけならまだしも、僕はこのウオデッカ王国から引っ越すことまではできません!」


「ショータ君ンンンンンンッ! そうじゃなくってェェェェェッ!」


「もうちょい言い方をだなァァァァァァッ!」


「ショータ君一旦落ち着きましょうか! とりあえず!」


 ところでショータ様、今ブトゥーカ殿に羽交い締めにされてますけど、セキーシの手だけは着実に回避なさってませんでした? 相変わらず信念がお強すぎる。


「すいません! やっぱり僕はどうしても嘘だけはつけません! 人にも自分にも!」


 ああもう何回目なのよこの状況。

 私の斜め後ろ側に控える家族たちの方をチラっと見やると、全員が案の定「またこうなったの……どうすんのこれ……」という顔である。私自身も今そういう顔だろうし。


「貴様どういう了見じゃァ! わらわを誰だと心得ておるゥッ!

 ユキマミレ帝国が誇る最大の名花ッッ! この絶世の美少女導師オコッサマミコの誘いを秒で蹴り飛ばすとは正気か貴様ァッッッ!?」


 あ、自分で美少女とか言っちゃうんだこの子。いや確かに綺麗だけどさ。そんなに顔をゆがめて大声で喚き散らしてさえいなければ。


「オコッサさんのことは好きですが契りまでは交わせません!」


 それ私の娘たちとセキーシの連携攻撃を神速で叩き落とした時と同じやつね……。


「なんでじゃァァァァァッ!! 最低限好きなら今から極限まで高めおうてくれようかァァァァァァッ!!?」


 オコッサ殿がツカツカと接近していく。


「ええいそこをどかぬかッ! ショータから離れよ添え物共ッ!」


「えっ……」


 セキーシたち三人は添え物扱いですか。

 多分ショータ様以外のことは名前も覚えてないんだろうな……チャラウォッジ親子は全員きっちり覚えていて積極的に相手の名前を呼んでいたのに……。


「どけと言うにッ!!」


「あ、はい……」


「二十歩は下がれッ!! いいやいっそのことショータとわらわだけにこの部屋を使わせい!! 全員早々に退出せよ!!!」


 いや、流石にそこまではちょっと。

 とりあえず私の近くまでそそくさと戻ってきたセキーシたちに対して、一つ問いかける。


「いやどうなってるのよ、あの方もショータ様に向ける感情が重すぎるじゃないの……前に会った時はあそこまでの兆候は無かったの?」


「ま、前は……いくらなんでももうちょっとお淑やかなお嬢さんだったような……?」


「半年会えなかった寂しさが爆発したのか……?」


「もしかしてショータ君が女王陛下への想いを胸の内で一年間育て続けていたのと同じような状況なんでしょうか……」


 近頃の若い子はいちいち愛が重いのが基本なの……? おばさんはもうついて行けなさ過ぎて白髪でも増えそうよ。


「何度も言わすなァッ!! これよりショータとわらわだけの蜜月の幕開けとするんじゃァァァァァッ!!」


 これ流石にクロギャール王女より強敵じゃない? ……とか思っていたら。


「……導師様」


 突如、護衛の重騎士四人の中の隊長らしき人が、前に踏み出てきた。


「邪魔立てするでないわ! 貴様らもとっとと下がらぬか!」


「導師様!」


「ッぬゥッ……!?」


 命令を無視して、オコッサ殿のすぐ目の前で片膝をつき、視線を合わせる重騎士。

 ……ところで顔全体を覆う兜のせいで気づいていなかったのだが、今の声の高さからして、もしかして中身は女性なんだろうか。


「分を弁えぬ非礼をお許しください導師様。しかしこれは一体どういうことなのでしょうか? 我々が事前に聞かされていた話とは何やら状況が異なるようにしか見えません」


「……なんのことを言うておる?」


「そもそも導師様が最初に予知した未来像は、ショータ殿が我らのユキマミレ帝国まで来訪して、何かしらの大事を為すというものであったと聞いています。

 故に導師様は先手を打って、導師様自らがこのウオデッカ王国まで赴き、ショータ殿を説得してみせると仰いました。

 これは実際に未来に何が起こるかを垣間見た導師様ご自身のお言葉で対処するのが、最も効果的で確実であるからだと、我々は聞かされております」


「そっ……それがどうしたッ……!」


 ……あ、もしかしてちょっと流れが変わってきてる?


「かと言って導師様の御身を確実にお守りするために我が国の軍隊を丸ごと引き連れていくようでは、ウオデッカ王国に対して武力行使にでも出るようにしか見えないからと、

 導師様は当初たった一人だけで向かうおつもりだったそうですね。いくらなんでもそれは帝国首脳部が許容できないとして、結局は最低限の護衛として我々四人が選ばれたのですが」


「何が言いたいのじゃ……!」


 さっきまでショータ様すら上回りそうな大声でギャーギャー喚き散らしていたオコッサ殿が明らかに委縮している。

 あんな厳つい全身鎧にグイグイ迫られたら、そりゃあそうもなるか。


「……導師様」


「ぅぐっ……!」


「大変な無礼を承知で質問させていただきます。あれだけ仰々しいお題目を並べ立てておいて、本当の目的はショータ殿とお会いして遊びたいだけだった、ということですか?」


「……………………」


「それこそ導師の役目もほったらかして」


「…………ぅ…………っく…………!」


 よく見たらオコッサ殿が半泣きになっている。


「…………導師様」


「……んぬ?」


「失礼します」


「どわっっ!?」


 重騎士はオコッサ殿の小さな身体をひょいっと持ち上げて左肩に担いでしまった。


「帰りますよ」


「うおああァァァァァァ!! 降ろせェェェェェェェ降ろさんか馬鹿者ォォォォォォォォォォッ!!!」


 オコッサ殿は今度こそ涙をこらえきれなくなって、ひたすら手足をバタつかせていた。

 あんないかにも筋力の無さそうな華奢な手で重騎士の全身鎧をポカスカ叩いても、全くビクともしない。


 ……それにしてもこの護衛隊長殿、予想外に意思が強い。


「もう嫌じゃァァァァァァッ!! この半年いくら未来予知なんぞ繰り返しても全然ロクに何も無かったじゃろうがァァァァァァァッ!!

 そんだけ世界が平和っちゅーことじゃろォォォォォォォォッ!! わらわを自由にせんかァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!」


 耳元であんなに騒がれて鼓膜は大丈夫かしら……。


「ショォォータァァァァァァァァァァッ!!!! はよう助けんかァァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!」


 この状況でも上から目線なのはいっそ笑えてきた。


「ッッ……ハァー……ハァー……ッ!」


 息切れしてるし。そりゃ、あれだけ叫べばね……。


「……いやまさか本当にこのまま帝国まで担いで帰るつもりか? オイ貴様」


「そんなに可愛らしい服を一着買ったんだからもう十分ではありませんか? ジュースも飲みましたし」


「ドゥォァアアアアアァァァァァアッッッッッ!!!!!」


 もう何と叫んでいるのかすらよくわからない。と言うかその服、本当にウチの国で買ったやつだったの?


 ……いやしかし、あの護衛隊長殿、敬語があからさまに雑になってきたな……こんな醜態を見せられたらそうなるのも無理はないだろうが。醜態とか表現して申し訳ないけど。

 導師って事実上の帝国の最高位じゃなかったの?


「……っぐ……うぅ……何じゃァ……貴様もわらわに一生神殿に閉じこもって占いだけやっとれと言うんかァ……!」


 ……ちょっと可哀想になってきた気がしないでもない。さっきは護衛の人たちの方を可哀想だと思っていたような気もするが。

 そもそもあんな幼い子供に国一つの未来を背負わせているというのは、責任が重すぎて当たり前か。ショータ様にも同じことが言えるが。


「あの、護衛の皆様、少しよろしいでしょうか?」


「……いかがなさいましたか女王陛下」


 本当にこのまま直帰させるのはこちらとしても忍びないので、一応声をかけておく。


「せめて昼食ぐらいはここで召し上がってくださいませんか? 折角、帝国の導師様が我が国にまでいらっしゃると聞いたものですから、相応の準備を整えてお待ちしておりましたので」


 今回はちゃんと「国賓をもてなす用意」は出来ている。あの男の時とは違って。当然パン粥でもない。

 ……それにしても「初めて見る帝国のお偉いさん相手に対応をしくじって国同士が丸ごと敵対関係にでもなったらどうしよう」はいくらなんでも心配し過ぎだったんだろうか。


「オイ聞いたか! あちらさんがああ言うてくれとるんじゃ! とりあえず降ろせ!」


「……かしこまりました」


 降ろしてもらえるなり、オコッサ殿は再びショータ様の方に駆け寄って行った。挫けないのねこの子。


「良いかショータ! 昼餉は当然わらわの隣の席で『あーん』とかやってくれるんじゃろうな! さすれば……まぁ……先の失言もかろうじて不問にしてやらんことも……」


「それは駄目です」


 貴方もブレなさすぎますショータ様。


「…………ぬおりゃァァッッッ!!」


 突如、オコッサ殿が怒号と共に床に平手を叩きつける。

 すると彼女自身とショータ様の二人だけを取り囲むように半球状の光の壁が張られてしまった。


「ッ……あれは!?」


 最初に反応したのはケンジャー殿。あれは……恐らく防御用の障壁魔法だろうか?


「ッ導師様! 何をなさっているんですか!!」


 護衛隊長殿も流石に慌てている。


「くくっ……くふふっ…………くぁーっはっはっはっはっはっっっ!!!」


 なんか本人めちゃくちゃ笑ってるし。


「見ィたァかァァァァァ!! ショータよ!! もう逃れられはせぬぞ!! 物理的に!!」


 セキーシとブトゥーカ殿が再度カッ飛んで行って光の壁をゴンゴン叩き始める。


「ちょッ……かッッッッた!! 何このバリア!?」


「ケンジャー!! オレとセキーシに強化盛れ!! これちょっと無理だわ!!」


 つられてケンジャー殿も駆け寄るが。


「待ってください! 力で無理矢理叩き割ったら中にいる二人が危ないですよ! 私が魔法の構成を調べて解除します!」


 ブトゥーカ殿は「クソッ!」と悪態をつくが、確かにあれだけ強く輝く魔力光は、素人目に見ても尋常ではない。

 内側ではオコッサ殿がショータ様に対してじりじりと距離を詰め始めている。


「たとえ貴様の力でもそうそう割れるものではないぞショータ!! もうこのまま丸一日張りっぱなしで貴様を好き放題お楽しみ放題にしてくれるゥッ!!

 覚悟せぇよショータッッ!! 今こそ貴様から既成事実を貰い受けようぞォォォォォォァァアアアアアアァッッッッッッッ!!!!!」


 いやなんかめちゃくちゃ危ない言葉が飛び出しましたけど。今なんて言いました? 頼むからおばさんの空耳ってことにしてくれない?


「そんなすっとぼけた顔しとらんでとっととわらわを優しく愛しく温かく甘く切なく激しく情熱的に抱きしめんかァァァァァァァァァァアアアッッッッッッッッ!!!!!」


 注文多っ。


「そんな無理しちゃ駄目ですオコッサさん」


 ……あれ、今喋ったのってショータ様?


「…………ふぇ?」


「もう汗だらけですよ。こんな高密度の魔法を丸一日張りっぱなしなんて無茶を言っちゃいけません。一時間でも厳しいんじゃないですか?」


 ショータ様は光の壁をコンコンと軽く叩きながら説く。


「この防御魔法は見覚えがあります。ユキマミレ帝国の首都が魔物に襲撃されていた時に、子犬を抱いた小さな女の子を、オコッサさんがこの魔法で必死に守っていましたね。

 僕がそこに間一髪間に合って魔物を倒すと、貴女は魔法を解いた途端に疲れ切って地面にへたり込んでしまいました。これだけ強力な魔法なら消耗が激しくて当然です」


 ……よく考えたらこんなに落ち着いた喋り方をなさるショータ様って今まで見たことあったっけ?


「あの時の僕はまだ、まさか貴女が帝国の導師様だなんてことを知りませんでした。

 しかし子供を守るためにためらい無く自分の身体を張る様は、間違いなくユキマミレ帝国の主導者のお姿だったと言えるでしょう」


 …………そんなに理性的にお話できるのなら私にもそれぐらいの感じで来ていただけませんかねショータ様、などと大変失礼な雑念が脳裏をよぎる。


「それが今はこんな、合意の無い相手を無理矢理押さえつけるような使い方をして。どうしてこんなことをするんですか?

 僕だって本当はもうちょっと落ち着いてお話がしたいのに、オコッサさんは何を言うにも上から目線で無理矢理押し付けるばっかりです。少しは僕の言い分も聞いてほしいです」


「…………ぅ…………っ!」


「本当はあんな、いきなりお断りしますなんて大声で返してしまって、僕も悪かったと思うんです。ごめんなさい。だから僕の話ももうちょっと聞いてください。お願いします」


「くっ……ううぅー……っ!!」


 ……光の壁は緩やかに消滅していった。それと同時にオコッサ殿も床に両膝をついてしまい、護衛隊長殿が駆け寄ってきた。


「導師様!」


「うるさい! ほんのちょいとばかり疲れただけじゃ! 支えなんぞ要らぬ!」


 オコッサ殿は護衛隊長殿の手を振り払ってしまう……あんな金属の篭手を叩いて弾くのはちょっと痛いんじゃないかという気はするが。


「……はぁ……っ……覚えておったか、わらわが貴様と初めて出会った時のことを……。


 魔物に占拠された神殿から逃げる途中に、取り残された子供の姿に気づいてな……神官共にはよう助けよと叫んだら、

 奴ら、導師様の命が最優先で逃げ遅れの子供なんぞに構っている暇は無いなどと抜かしおって……仕方がないのでわらわ一人で抜け出して駆けつけた結果があのザマじゃった……」


 それにしてもさっきから叫び散らしては静かにさせられ叫び散らしては静かにさせられ、忙しないにも程があるわねこの子、などと失礼なことばかり考えてしまう。


「……ショータよ、貴様の言い分とやらを聞かせよ。なにゆえわらわの頼みをことごとく退けおるんじゃ。あんな態度ではわらわとて傷つくぞ」


 いやまぁ、それは全くもってその通りなんですが、この状況、もしかして流れとして……。


「僕には既に心に決めた人がいるからです。だから僕は、その人以外の女性の気持ちには応えられません」


 ……言わないといけないやつ?


「……どうしてもか?」


「どうしてもです。僕はその人のことだけを愛しています。オコッサさんのことは好きですけど愛することまではできません。結婚は愛する人としか出来ないんです。本当にごめんなさい」


 ショータ様のその台詞、もう何回聞いたっけ……。


「…………くははっ!」


 オコッサ殿ももう笑うしかないとばかりに、再度立ち上がる。それにしても狂戦士みたいな笑い方するわねこの子。狂戦士みたいなという比喩で合ってるのかどうかはさておき。


「一体何奴じゃ? ショータほどの男が唯一人だけ愛すると誓ったその女は? 教えてみい。このわらわを差し置いてでも心に決めたという、その幸せ者の名を」


「それは秘密です」


 あ、黙っといてくださるんだ……と言いたいところだが。


「阿呆か、今更そこを教えてもらえもせずに引き下がれるわけが無かろうが。ショータよ、答えよ! はっきりとな!」


 ここまで来て彼女がそれで素直に納得するわけも無いか……案の定である。


「まさか後ろの王女か? 二人おるがそのどちらか一方か? そこの旅仲間じゃった女騎士は多分なんか違う気はするが」


 セキーシが「やっぱり名前覚えられてなかった上に最初っから除外されてる……」とガックリ肩を落としている。ブトゥーカ殿とケンジャー殿もすっごい微妙な表情で彼女を見ている。

 そして反対側を振り向くと……アーネとイモトが二人揃って、目が一切笑ってない虚無の笑顔だったわ……。


「……何をまごついておるショータよ、はよう答えぬか。答えねばもう一回防御障壁の刑ぞ」


 あれ刑罰なんだ……。


「だから無茶は駄目だって言ったじゃないですか」


「やかましい! いいから答えよ! 答えを得るまでこの国に泊まり続けてくれるぞ!」


「導師様、それは普通に無理です。ちゃんと帝国に帰ってください」


「貴様は黙っとれェェェェェッ!」


 真横で片膝をついていた護衛隊長殿の兜が殴られる。どう見てもオコッサ殿の拳の方がよっぽど痛そうだけど。


「さぁ何をまごついておるんじゃショータ!」



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