第四話
「お久しぶりですゥ~ヴィマージョ様ぁ~」
「あらお久しぶり。久しぶりすぎて見違えたわよ」
こちらの彼女に会うのも五年ぶりだったか。
……肩もヘソも太腿もそんなに気前良く露出させちゃって、おばさんには眩しすぎて目の毒だわ。
服装の好みなんてあっちのお国柄というのもあるからゴチャゴチャ言っても仕方ないんだけど……それでもまぁ、胸の谷間までは攻めてないのは最後の良心かしら……。
どっちにしろ自分の娘には真似して欲しくない格好ね……。
「イモトとマッティー君は学校の時間らしいんでアーネさんにお相手してもらってたんですケド、いやァ~相変わらずキレーなお城ですよねェ~」
さておき、彼女は確かチャラウォッジの……四番目か五番目ぐらいの娘だったかしら。いや三番目だっけ? ウチの次女イモトヒーメと同年齢だったことは覚えてるんだけど。
ついでに後ろの方でチャラウォッジ自身はアーネにも久しぶりと挨拶していた。例によって娘の容姿をいちいち褒めちぎる声も聞こえてきたのが癪だが。
「セキーシさんブトゥーカさんケンジャーさんも半年ぶりぐらいでしたっけ~」
「王女様もいらしてたんですね」
「おう、久しぶり!」
「お久しぶりです」
……ここまで言った、次の瞬間。
「皆さんホントお久しぶりでェ……そ・し・て……ッ!」
彼女は明らかに目の色を変えた。
「ショータサマァッ!! アナタの心のイイナズケッ!! トコナッツ王国第一王女クロギャールが参りましたよォ~!!」
そうそうクロギャールだったわこの子の名前。チャラウォッジの子供、人数多すぎて完全に名前忘れてたわ。
どの妻がどの子を産んだかなんて言い出したら尚更複雑すぎて、父親本人すらちゃんと把握してるかどうか怪しい気も……ちゃんと出来てるの? そこの所。
「お久しぶりです王女様!」
「あんッ、そんな他人行儀な言い方じゃなくてクロってお呼びになってッ! ショータサマッ!」
……で、心の許嫁って何のことよ。
「やーやーショータ君! クロの奴がどうしてもショータ君に一日でも早く会いたいって言うからさァ、折角だから連れてきちゃったんだわ!」
チャラウォッジが説明し、娘はその隣でクネクネと身体をうねらせながら「だってだってェ~」とか何とか照れている。ただのフリじゃないのかとは思うが。
なんか、うるさいのが更に増えたわね……あと心の許嫁って本当に何?
「王様、王女様! 失礼ですが許嫁になった覚えはありませんよ!」
とか思ってたら横からショータ様がスパッと叩き斬った。ご容赦無く。
「あァん嫌ですわショータサマったら! あの大宴会での熱ゥ~いヒトトキをもうお忘れになったんですかァ!?」
……何やったのよこの子。
「ちょっと……あんなこと言ってるけど、宴会の時に何かやったの……?」
セキーシたちにそれとなく近寄ってこっそりと聞く。
「……スイカ割りとか?」
「姫さんたちがプールでダンスするとこは見せてもらったけどなぁ……」
「妹王女二人と一緒に三人で統一的な動きをするやつでしたよね」
え、何そのダンス。プールに入りながらやるの? 全然想像つかないんだけど……。
「まぁクロはちょっと思い込みが激しいトコがあるから勘弁してやって欲しいんだけどさ! とりあえずそんな感じでショータ君!」
……ちょっとかしら? とりあえずと言うならまず、チャラウォッジはその子を今までどう育ててきたのよ。
少なくとも心の許嫁は彼女が勝手に自称してるだけってことでいいの?
「さっきヴィマージョと話してる時に思い出したんだけど、俺って前にショータ君に『魔王倒したら世界中の女性から求愛されるの間違い無しで結婚し放題』とか言ったんだっけ!?」
「はい! 言いましたね!」
……もしやこの流れは。
「どうだい! ウチのクロギャールとも結婚するのは!?」
「お断りします!!!!!」
「やだもぉパパったらその話はウチまで帰ってか、ら…………えっ?」
…………結局そういう用件かい、などとツッコミを入れる暇も無く。ショータ様の大変力強い「お断りします」が部屋中の空気を一瞬で凍てつかせた。
「ごめんなさい王様! 宴会には行きたいですけど王女様と結婚はできません! それじゃ駄目ですか!?」
わざわざ念押しまでしていく。
セキーシたちは「あ、やっちゃった」って顔してるし、チャラウォッジとクロギャール王女は目を見開いてるし。
しれっとアーネだけは笑顔のまま……あ、よく見たら目が笑ってないわあの子。
「……えーっと……ショータサマ?」
クロ王女がすっかり引きつった顔でじりじり歩み寄る。ショータ様は……両手を背中側で組んでいた。もしかして、これが女性に対する握手拒否の構えなのか。
「いや……その……アタシ、ショータサマにお見せするためにダンスの練習もいっぱいいっぱい積み重ねてきたんですよ?
妹たちとも一緒に、ショータサマなら絶対世界を救って帰ってきてくださるって信じて……」
「でも結婚はどうしても出来ないんです! ごめんなさい!」
「ふぉぉッ!?」
こんなに元気良くごめんなさいを大声で言う子、多分初めて見たわ……。
「……ッあー、はいはい! ショータ君、ちょっといいかな!」
見かねた父親が加勢に入ってきた。ああ、うん……その焦りを隠しきれてない作り笑顔、ちょっとばかり溜飲が下がりそうよチャラウォッジ。
「せめて理由ぐらいは聞かせてもらってもいいかな? うん」
「僕が結婚したい女性はこの世で女王様ただ一人だけだからです!!」
「ナァルホドォショータ君が結婚したいのは女王様だけ…………んェッ!?」
…………セキーシたちがますます「ああもう駄目だ」という顔になる。アーネは変わらず笑っている。
「……女王様と? 結婚したいのは女王様? 王女様の間違いじゃなくて?」
「はい! だから他の女性とは結婚できません! 結婚は愛してる人としかできませんから!」
昨日も叫びまくってらっしゃったわね、それ。
「…………ヴィマージョ?」
まぁ……この流れだと私に振ってくるわよね。
「……悪いけどこういうことよ、チャラウォッジ」
ところでクロ王女の両目から涙がこぼれつつある。そりゃそうもなるわ。
「これ本当にショータ君自身の意志? 君が頼んで言わせてるとかじゃないよね?」
「念のため言わせてもらうけど、私だってまだ承諾はしてないわよ当然ながら。第一、ウチの国じゃ結婚できるのは最低18歳からなんだから、まだ6年は絶対保留にするしかないし。
そもそも、もし新しい求婚者が現れても体裁良く断ってほしいって頼むんなら、もうちょっとマシな言い方でも教えるわ……」
「……ヨイダンナーさんは?」
「ショータ様がウオデッカに定住なさること自体は歓迎したいけど、そっちは流石に、いくらなんでも、どうしよう……って所よ」
尚、私の夫は現在自分の部署の仕事に勤しんでいるのでこの場にはいない……ところで、何で夫に対してだけはヨイダンナー「さん」なのかしら。
「……あのさァショータ君、ヴィマージョはとっくに結婚してるってことに関してはどうお考えかな?」
「だから僕を女王様の側室にしてもらいます!」
「そッ……!」
「王様も側室さんが沢山いましたよね! それと同じです!」
「ほぇぁ!?!?」
さっき私と二人で会話していた時の「貴方の吹き込みのせいでショータ様が大変なことになった」という件の実態を、これでしっかりと思い知ったことだろう。
ショータ様の熱いご要望が昨日だけの幻覚じゃなかったということに関してはやっぱり頭が痛くなるけど、あのチャラウォッジが本気で慌てふためく顔は一つの収穫かもしれない。
「……そくしつ……」
クロ王女がボロボロ泣きながら声を絞り出す。
「ショータサマァ! そーゆーのがアリならもうアタシが側室でもいいじゃないですかァッ! ショータサマは世界の英雄なんだから何人と結婚したってェッ!」
……ウチの次女も完全に同じこと言ってたな、と思い出すと余計にせつなくなる。
「駄目です!! 僕は女王様しか愛せません!! それに僕が女王様の側室になるんです!!」
つくづく思うんだけど、ショータ様もそんなに情け容赦無く追撃をかけていかなくても……。
「ッ……もォォォッショータサマッッ!」
我慢できなくなったクロ王女が体当たりじみた勢いで無理矢理抱きつこうとするが、ショータ様はすげなく回避する。
「くッッ……! ショータサマってば!」
もう一回やる、が。
「えッ!? あれ!? ショータサ……ッは!?」
途中過程が消し飛んだかのような速さで、ショータ様は既に彼女の背後に回り込んでいた。
「今のはショータ君お得意の神速背面取りッ……!」
「あれで何も気づかないまま後ろから真っ二つにされた魔物は数知れねぇ!」
「相変わらず冴え渡ってますねぇ」
セキーシとブトゥーカ殿とケンジャー殿が何やら感心している。あの動きは得意技らしい。
……つまりショータ様はそのような技すら駆使するほどの鋼鉄の意志を以て、女性の接触を拒絶しているということになる。
「どうして逃げるんですかショータサマッ!」
「……クロ王女」
「アーネさんッ……!?」
ここに来て突然アーネがそろそろとクロ王女の方に近寄っていく。目だけ笑ってない作り笑顔のままで。
「昨日、私とイモトもね……そうやって、ショータ様に……フられたのよ。全力でね」
「えッ……!?」
……ところでアーネ、その顔ちょっと怖いからやめてくれない?
「一緒に紅茶を飲む程度のことは受け入れてくださった……沢山お話もさせていただいたわ……でもね、そこから先には一歩も踏み込ませてくださらなかったの。
手を繋ぐことは断られるし、手作りケーキも要らないって仰るし、もう何を申し込んでも駄目駄目駄目で全部一刀両断よ」
「ほえ!?」
風呂に誘ったら本気で怒られたという部分だけは言わなかった。そりゃ、いくらなんでもそこは流石にね。
「全部、イモトと二人がかりの挟み撃ちで挑んで尚、その有様よ。
つまりショータ様はねぇ……本当に……本っ当、に……お母様しか見えていらっしゃらないのよッ!!」
「いやァァァァァァァッ!!」
……クロ王女の悲痛な叫びがこだまする。私だって逆の立場ならそれぐらい絶叫するわこんなの。
セキーシたちも三人揃って「またこうなってしまったか……」とばかりに目を背けている。昨日とほとんど同じ状況が繰り返されている……。
「……ぃよしッ!! わかった!!」
「ッパパ!?」
突如チャラウォッジが大声を上げる。
「ショータ君! 悪いけどもう一回だけ聞かせてくれるかい! 君は本当に……ヴィマージョが好きなんだね!?」
「はい!!」
「本当に結婚したいぐらい好きなんだね! それこそ彼女にはもう既に夫がいるから自分は側室でも構わないってぐらいに!」
「はい!! 僕は女王様が世界一大好きです!!」
「男に二言は無いね!」
「ありません!! 僕は将来絶対に女王様の二人目のお婿さんになるんです!!」
「ッ……よっしゃ!!!!」
いやちょっと待ちなさい、何がよっしゃなのよ貴方。
「クロ、この勝負はもう俺達に勝ち目は無い。潔く諦めなさい」
ここまで来ていきなりの敗北宣言。それはそれで一体どういうつもりなのか。
「ンェェェェッ!? なんでよパパ!? どうしてそうなっちゃうのよ!!」
「まァまァまァ安心しなさい、世界人口の半分は男なんだ。クロに相応しい男なんてパパが他にいくらでも見つけてきてやるからさ」
……こいつ自身も世界人口の半分は女だからの精神で嫁を増やしてきたのかしらねぇ……。
「やーよ!! ショータサマじゃなきゃヤダヤダヤダァッ!!」
「落ち着きなさいクロ。世の中、往生際ってやつを弁えない人間は後で余計に痛い目を見るもんさ。
お前だって仮にも王族なんだから、そんな負け戦にいつまでもしがみつくようなみっともない所なんて、国民に見せられないだろ?」
急にちょっと理性的な喋り方で王族の責任どうこうを説かれても困るんだけど。そんな大げさな話だった?
「何で! どうしてよ! いくらヴィマージョ様がおキレイだからって言ってもあの人もうただのオバサ」
「クロォッ! それ以上はもうパパ怒るぞォッッ!!」
「ンぐッッ……!! ……うぅー……」
……いやそこは流石にクロ王女の言う通り、私なんて紛れもなく、もうただの40のおばさんなんだけど。長女なんか成人してるぐらいだし。
「いやぁすまんねショータ君! ウチの娘が迷惑かけて悪かったよ! 宴会はきっちりやるからそっちは是非来てほしい! もう準備なんかほとんど終わってるし!」
「ありがとうございます王様! 楽しみにしてます!」
あれだけ熱心に求愛してきた女性を徹底的にフっておいて、その切り替えの早さのショータ様にも恐れ入るけど……。
「あ、宴会はやってくださるんだ……」
「怒られるかと思ったわ……」
「だからと言ってショータ君にクロギャール王女のお望み通り結婚して差し上げろなんて言うわけにもいきませんしね……」
セキーシ、ブトゥーカ殿、ケンジャー殿も揃って心配してんのそこかい。
「……で、どういう風の吹き回しよ。よくもウチの娘に恥をかかせたな、とか思ってたりはしないわけ?」
一応、チャラウォッジの真意は問いただしておく。
「まぁ……俺だってこれぐらいこっぴどい失恋経験ぐらいあるさ」
……こいつにもそんなのあるんだ? 正直ちょっと気になる、と思わないでもないが、そんなことを深掘りするのも失礼か。
「……なぁヴィマージョ」
「何?」
急にそんな遠い目をして一体どうしたのか。
「例えば俺が今のショータ君ぐらいの歳の頃って、どんなガキだったと思う?」
「勉強をサボって城を抜け出して遊び呆けてばかりいたせいで親に怒られてたんじゃないの?」
「ォうぐッ……! いや……まぁ、実際それでほぼ正解なんだが……ッッ!」
当たりかよ。いかにも想像がつく気もするけど。
「そう、俺はまさにそんな絵に描いたようなクソガキだったさ……」
「何が言いたいわけ?」
よく王位なんか継げたなこいつ。トコナッツ王家に権力争いとかなかったの?
「けど、な……そんな俺でもさ、本気になった男の目を茶化すような無粋な真似だけはしたくない。ショータ君の気持ちは間違いなく本物だよ」
「……だから悩んでるのよ、私達も……どうやってショータ様の目を覚まして差し上げようかって……」
現にあんな大声で私一筋を叫びまくられる光景を二日連続で見せられて、また頭が痛くなってきてるし。
「いやいやいや、そうじゃないんだよ。所詮は子供の言う事だとか、そんな気安い目で見ていい問題じゃないよ、これは」
「……はぁ?」
急に随分と入れ込むじゃないのよ。
「そりゃあ、まぁ、最後の最後でショータ君の思いにどういう返事を出すのか、それを決めるのは君自身だ。
でも彼はマジのマジで本気だ。どう答えるにしても覚悟はきっちり決めなきゃいけない。ショータ君だけじゃなくて、君自身のためにも、ね」
「……さっきから何言ってるのよ貴方。まさかショータ様を応援する側にでも回るつもり?」
「…………ハハッ!」
いや、急に笑われても。
「そうだねェ、ここの皆は君も含めて、ショータ君は冷静に考え直すべき、って姿勢なのかい……へぇ……」
「そりゃあそうでしょ、普通に考えて」
「だったら俺がショータ君の恋を応援する側の第一号ってワケだな!」
「は?」
……本気かこいつ。
「ショータ君! 絶対成し遂げてくれよ! 君の夢を!」
「勿論です!! 6年後には僕は女王様の隣に立つのに相応しい立派な大人になって結婚式をするんです!!」
本気っぽいわこいつ。いやいや勘弁してよ。
「式には是非とも呼んでくれよヴィマージョ!」
「まだやるなんて言ってないから。大体呼ばなくても来るクチでしょ貴方は」
そもそも側室ってそんなに大体的に挙式するものかしら……チャラウォッジの場合はやってそうだけど。
あと、そういえばよくよく考えてみたら、女王の場合でも側室って言うのかしら……側室じゃなければ愛人?
ショータ様が愛人愛人連呼するのは余計に酷くない? やっぱり側室の方がマシかも……。
……何を考えているんだ私は。
「そんじゃ、パパはもう一仕事あるからクロは城下町でお買い物でもしてきなさい。ウチへのお土産とか」
「ぅ……っく……!」
床にうずくまって泣いていたクロ王女がようやく立ち上がる。しかし彼女にも大分申し訳ないことをしたわね……。
「もう一仕事?」
「いやさっきの商談の方だよヴィマージョ。とりあえず机の上の会議なんてさっさと終わらせちゃおうぜ。俺も久々にウオデッカ観光したいし」
「……ああ、そうね。すっかり忘れてたわ」
ショータ様が絡むとつくづく頭の中身を色々ブッ飛ばされるから……本当に……。
「……ねッ、ショータサマ、せめてアタシと一緒にお買い物デートぐらい……!」
「デートはできません!!」
「ショータサマのアホォォォォォォォオッ!!!!」
クロ王女は泣きながら部屋を飛び出して行ってしまった。
「……うふふっ……!」
アーネはアーネで隅の方でまたその微妙な笑顔を浮かべるのを頼むからやめて頂戴。それは何の笑いなの? 同情なのか嘲笑なのか……。
「……ショータ君、いくら女王陛下一筋を貫くにしてもせめてもうちょっとぐらい他の女の子にも優しくしてあげよう? 同じ女として見てられないし……」
「そうだぞショータ、女を泣かせるなんて男として最低だぞ」
「クロギャール王女だってショータ君のことがお好きなんですから……」
セキーシたちが説得にかかるが。
「そんな中途半端に優しくしても結局最後にはお断りして泣かれるぐらいなら、僕は今はっきり断って今泣いてもらうことを選びます!!」
この有様である。いや信念が強すぎでしょ。一体どこで何を学ばれてそんな結論をお導きになったの?
三人も「もうどうすりゃいいんだこれ……」みたいな顔で頭を抱えてるし。本当に三人ともショータ様と一緒に旅をしてきた中で、この熱情をずっと知らなかったの……?。
「ハハハ、こりゃますますクロには勝ち目が無いな。流石に君はモテモテだねェ」
「……あのね、チャラウォッジ。これはきっちり言っておくべきだと思うんだけど」
「何だい?」
「帰国後にショータ様が私との結婚をご希望なさってるなんて話をそっちの国で広めるんじゃないわよ」
「…………それはしないよォ~! まだねェ!」
「まだとは何よ、まだとは。そもそも返事するまでのその『間』は何?」
こいつ……本っ当に……毎回毎回……って感じね。いつ会っても大体そんな感想になるけど。それこそ二十年以上前から。
まぁ一応、昨日私の夫が危惧していた「ショータ様が他国に好待遇を約束されて引き抜かれる」という事態にはならずに済んだ、と見て……良いのか、悪いのか……。
正直言って、ちょっとだけ「いっそそちらの王女様に引き取ってもらっても」なんて考えが湧いた……瞬間が、僅かばかりにでも、無いでも無かった、って言うか……。
いや、でもやっぱり、我がウオデッカ王国に居着いてくださるならそれが一番よ。ショータ様は世界の英雄なんだから。
………………こんなおばさんなんかより彼にもっと相応しい女性なんて、ちょっと探せば他にいくらでも見つかるでしょうに。世界人口の半分は女なんだし。嫌な言い方だが。
だから、とにかく……何とかして、早く目を覚ましていただきたいんだけど……ねぇ……。
* * * * * *
トコナッツ王国との商業条約の強化案を取りまとめ、宴会のためにショータ様たち四人も引き連れてチャラウォッジ親子がトコナッツ王国へ帰っていく所を見送り。
後日、件の大宴会を終わらせて帰ってきた四人が、お土産を山のように持たされてきた様に苦笑し。
セキーシが「クロ王女はショータ君のことを諦めるつもりは無さそうだけど、妹の第二王女は恐らくブトゥーカに気がありそうです」などと茶化していたことに更にもう一つ笑い。
今度こそ本格的にショータ様と向き合う日々を始めていかなければならないか、と身構えていた所……。
一か月ほど経った頃。
クロギャール王女が本当に「アタシは一回だけじゃ諦めませんよ!」などと熱く意気込みながら、父親の目を盗み、
無理矢理付き添わされたという従者一人だけを伴って、再びショータ様に会うためだけに我が国を訪問してきた……というのは、また別の話。
あの父親にしてこの娘あり、か……。