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第十二話



 ……これは、今から一か月ほど前の会話である。


「あの、ショータ様……私と少し、話をしてくださいますか?」


「将軍さんも一緒にですか?」


「いいえ……今日は、今から……私と貴方の……二人だけで、です」


「……わかりました!」


 私は部屋にショータ様お一人だけを招いた。


 ……第三者を一切交えず、完全に一対一でここまで距離を詰めるのは……そういえば初めてか。

 なんだか一世一代の真剣勝負にでも挑む気分だわ。


「ショータ様、今更の話で大変恐縮なのですが、私の……その……本音を、お聞きください。今日こそこの場で全て白状させていただきます」


「はい」


「……貴方が仲間たちと共に戦いを終わらせて、約1年間の長い旅からこのウオデッカ王国にまでご帰還なさった時のことです。

 私は当初……少なくとも、それぐらい最初の頃は……アーネヒーメかイモトヒーメか、私の娘のどちらかと貴方が結婚してくだされば、などと考えておりました」


「はい」


「いっそ貴方と共に戦ったセキーシでも構わないとすら考えたこともありました。こんな言い方ではセキーシに失礼だとは思いますが」


「はい」


「そこから続けて、貴方に求婚するためにトコナッツ王国からやってきたクロギャール王女の姿を見て、もうこうなったら彼女でも……と考えたことすらあります」


「はい」


「そして最後にやって来たのがユキマミレ帝国のオコッサマミコ殿です。ええ……この際はっきりと言いましょう。私は彼女には本気で期待しておりました。

 彼女が貴方のことをどうにか口説き落としてくれないものかと、本当に思っていました」


「はい」


「気がつけばアーネもイモトもクロ王女も次々ショータ様への想いに見切りをつけてしまって、最後まで貴方に挑み続けたのはオコッサ殿だけになっていました。

 しかし結局は、彼女も同じ結果に終わってしまいました。もうショータ様の道を阻む女性は一人も残っていないのかと、私は……愕然と……いや……何と、言いますか……」


「……はい」


「…………つまり、何にせよ、とでも言いましょうか……私は……ずっと、貴方が……私と結婚したい、だなんて……。

 そんな、無茶な夢から目を覚ましていただけないものかと……焦っていましたし、ずっと逃げ続けていました。貴方と本気で向き合う、ということから」


「そうですか」


「…………貴方は最初から最後まで、今この現在に至るまで、本当にずっと……一切、迷ってなどおられませんでしたね。

 貴方の想いは……私に対する、貴方の想いは、本当に……本っ……当に……徹頭徹尾、まごうことなく、本物だったのですね……」


「はい」


「それに対して、貴方が愛した女は、こうやって今までずっと、迷いに迷って、貴方と正面から目を合わせることを避け、

 他の女性たちまで盾にして、貴方から逃げ惑ってばかりいたような……ただの、臆病者、小心者、卑怯者です。

 ええ、そうです……私は、今この瞬間だって……貴方のお顔をきちんと見て、目を合わせて会話をすることを、心の底で恐れています」


「はい」


「私はもう46歳のただのおばさん……いや、孫が三人もいるおばあちゃんです。

 それに対して、貴方はもうすぐ18歳になるばかりの若人です。28歳もの差があります。改めて考えても、やはり……どうにも……と言いますか。

 ……ほら、こうやってまた、お互いの年齢なんか引き合いに出して、まだ言い訳をして貴方から逃げようとしているんですよ、私は」


「はい」


「ですから……ショータ様、どうかお聞かせください」


「はい」


「私で、本当によろしいのでしょうか?」


「勿論です。僕は女王様が大好きです。誰よりも愛してます。僕と結婚してください」


「……っ!」


「女王様には既にヨイダンナー将軍さんがいますから、僕は将軍さんのこともひっくるめて二人とも愛します」


「……あ……」


「かつて僕が魔王を倒して帰ってきたのは世界を救うためなんかじゃありません。その手柄で女王様に求婚するためです。

 世界か女王様ご夫婦のどちらか片方だけを選べと言われれば、僕は絶対に迷わず世界を捨てて、女王様たちの側にいることを選びます」


「ちょっ!? 何もそこまで仰らなくても!?」


「僕は本気です。あの戦いで得た世界平和なんて物のついでです。本当にそう思ってます。

 どうせなら世の中も平和な方が女王様たちと一緒に過ごしやすいでしょうし、そこは頑張って良かったかなと思いますけど」


「い、いやいやいや!」


「アーネ王女様とイモト王女様が他の男の人と結婚してくれた時だって、僕は本当は心の底ですごく安心してました。クロ王女様も大体同じです。

 セキーシさんも……まぁ、セキーシさんは何と言うか、そもそもあんまり本気で好きな男の人なんて探す気が無いように見えますけど。


 それに引き替え、オコッサさんは本当に手強かったです。今にして思えば、魔王ソウダ=イーショなんかよりオコッサさんの方がよっぽど強敵でした。

 魔王軍を倒すための旅は1年で終わりましたが、オコッサさんとは4年か5年ぐらい戦ってましたから。

 マッティー君のおかげでどうにか切り抜けられました。持つべきものは友達ですね」


「わかりました! わかりましたからもうその辺にしましょう! ええ!」


「ところで女王様」


「……あ、はい、何でしょうか?」


「女王様はお気づきですか? 僕が旅から帰ってきて最初に『結婚してください』と言った時から、女王様は今まで一度たりとも『そんなのは無理です』とは言っていなかったことを」


「……ああー……それは、確かに……」


「ですからここで僕の方からも質問です。どうかお聞かせください女王様」


「……はい、ショータ様」


「この6年間、学校で勉強して、二つの国に留学もして、卒業後にやりたい仕事も決めて、

 そうしてもうすぐ18歳になる僕は、女王様の隣に立つのに相応しいような、立派な大人に……ちゃんとなれましたか?」


「………………はい」


「本当ですか?」


「はい……ショータ様、貴方は……今の貴方はもう、誰もが認める立派な……」


「女王様、そうじゃないです」


「あ……っと……」


「誰もが、じゃないです。女王様ご自身の目から見て、です」


「…………そうですね、失礼しました。貴方は……最高の男性です。私なんかには勿体ないほどの……」


「それも違います、女王様」


「ぉふ……っ!?」


「私なんか、じゃありません。女王様は僕にとって世界最高の女性です。そこを女王様がご自分で否定するのは僕も認められません。

 もう何というか、もっと単純にいきましょうか。それではもう一度言いますのでお返事をお願いします」


「は……はい……」




「女王様、僕と結婚してください!!」


「…………喜んで!!」




 この一連の話を、ショータ様は終始一貫して笑顔で受け答えなさっていた。途中のどこを切り取っても、その笑顔が崩れる時は一瞬たりとも無かった。


「ありがとうございます、女王様」


 ……ああ、もう……本当に、本当に可愛らしい。

 とうとう彼の求婚を明確に受け入れる返事をしてしまった私は、心の中のしがらみも一気に外れたのか、ようやく彼の笑顔を直視できるようになった。


 なんとも、まぁ……貴方はこんなにも輝かしい笑顔をなさっていたんですね。

 未だに私よりも身長が低いことすら、何だか無性に可愛らしく思えてきて……今までずっと逃げてばかりいたことが本当に馬鹿馬鹿しくなってくる。


 こんなに……こんなにも美しい少年から、6年もかけて、ずっと求愛され続けていたのか……私は……。

 そう考えた途端、私はもう彼のことが愛おしくてたまらなくなってきた。


 よくよく思い返してみればショータ様のことを可愛いと思う瞬間なんて以前から度々あったはずだし、

 私は本来、とっくの昔っから彼が愛を叫ぶ姿に魅了されきっていたのかもしれない。子持ちの既婚者としてそこを馬鹿正直に認めてしまうのが怖かっただけで。


「……あの、ショータ様」


「はい、女王様」


 ……もう、いっそのこと……とばかりに、私は……。


「貴方のお気持ちを受け入れた証として……かつて貴方の旅立ちを見送った時のように、今ここで、ショータ様を……抱きしめさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 こんなことまでのたまってしまった。


「…………えっと…………」


 ……しかし、この一言によってとうとうショータ様の笑顔が崩れ、急激に恥ずかしがってしまわれた。


「ショータ様?」


 いや恥ずかしがってくださる所もそれはそれでたまらなく可愛いのだが。


「……ご、ごめんなさい、女王様」


「あら……」


 さっきまで私の顔をまっすぐ見つめていたはずの彼は、目線を少しだけ逸らしながら答えた。


「それは……僕の誕生日の、一番の楽しみに取っておきたいんです。だから、今はまだ……駄目です……また今度にしてください……」


「…………わかりました。では私も来月のショータ様の誕生日を楽しみに待っておきましょう」


「お願いします……」


 ……危ない危ない、恥ずかしがるショータ様が本気で可愛すぎて、これ以上直視してると私の我慢がきかなくなるわ。

 彼が一番とまで仰った楽しみを、今ここで奪ってしまうわけにはいかないわね。


「……そういえばショータ様、また別の話なのですが」


 というわけで話題を変えてみることにした。


「私はそろそろ髪を短く切ろうかと思うのですが、いかがでしょうか?」


 肩にかかった毛を右手で払いながら告げる。気分転換と言うか、決意表明と言うか。


「えーっと、どれぐらい短くするんですか?」


「そうですね、それこそ首元ぐらいで切りそろえて、頭を軽くしてみようかと」


 まぁ何と言うか、色々とスッキリさせてしまいたくなってきたし。

 ショータ様もさっきまでの恥ずかしそうな表情を改めて、また落ち着かれた様子に戻ってきた。


「いいですね、きっとすごく可愛いですよ」


 ……可愛いのは貴方よ、もう。


「……ショータ様は、私に可愛いという言葉を平気で多用なさいますよね。もう立派なおばあちゃんですよ、私」


「僕が以前、女王様がご自分でご自分のことをおばさんと言ってしまうところにグッとくる、と言っていたのを覚えていますか?」


「ああ、そういえばそんなこともありましたねぇ……」


「僕にとって女王様はずっと前から世界一可愛い女性です。世界一可愛いおばあちゃんです!」


「プッ……!」


 私は思わず噴き出した。いや本当、そういう発言を何の迷いも無く平気で連発なさいますよね貴方。


 そういえばよくよく振り返ってみると、ショータ様って「女王様はまだまだお若くて綺麗です!」みたいなお世辞丸出しの言い方はなさらないわよね……。

 案外そういう所も私の心を掴むのに一役買っているのかもしれない。


 どんだけ真剣な熟女趣味なんですか、という雑念が頭に降って湧いたのは即刻払っておくとして。


 ……というわけでそろそろ、話の総括に入っておく。


「……ショータ様、この度は私の本音を全て聞き入れてくださり、その上で尚、私を夫共々愛すると力強く宣言してくださって……本当にありがとうございます」


「僕の方こそ本当にありがとうございます。結婚してくださいという僕のお願いに、遂に承諾のお返事をいただけました。とても嬉しいです。今日は興奮して寝られないかもしれないです!」


 いちいちそういうこと言っちゃうのが初々しくて本当に可愛らしいのよ、まったくもう……。


 ……いかんいかん、なんなら私と同じベッドで一緒に寝ませんか、とか言いそうになるわ。いくらなんでもそれはまだ早い。

 ショータ様を本気で抱きしめるのは、たった今約束した通りに来月よ、あくまでも。


「貴方のお誕生日までは、まだもう少し日にちがあります。それまではまた夫と一緒に、三人でお話をしながら食事をしましょう」


「はい! 是非お願いします!」


 ……6年前、戦いの旅から帰還なさったショータ様が「結婚してください!」と叫び出した途端、私は彼の笑顔と声に恐怖を感じてしまったことを思い出す。

 こんなに歳の離れたおばさんに一体何をお求めになっているのかと、理解がさっぱり追いつかなくて……ただただ衝撃的で、信じられなかった。


 しかし今ではその恐怖が全て裏返ってしまって、ショータ様の明朗快活な笑顔……お姿……立ち居振る舞い……溌剌とした声……それら全てを見て聞くこと、何もかもが心地良い。


 まったく、今までショータ様には本当に失礼なことばかりしてしまったわ。

 私が貴方の好みの女ではなかったら別の女性を選んでいたんですか、とか言い出して、そういう反実仮想は意味が無いと思いますなんて返されたりとか……。


 本当にもう……こんな素敵な美少年に愛していただけるなんて……私の人生、まだまだずっと輝けるじゃない。


 ……それにしても、抱きしめるのはまだ後回しにするとしても、せめて握手ぐらいはしておくべきかしら……。

 などと阿呆みたいなことを少々迷った末……結局、直接のお触りはあくまでも全て、ショータ様のお誕生日まで取っておくことにした。


 どうせなら私の気持ちも、溜めに溜めた最大威力で味わっていただきたいから。


 そういうことにしておきましょう。




「ところでショータ様。一つお願いしておきたいことがあるんです」


「はい、何でしょうか?」


「その……側室、という言葉はもう使わないでいただきたいのです。

 たとえ今の貴方にもうそんなおつもりは無くとも、貴方が世界的な英雄であることに変わりはありませんので……。

 私の側室などという、言うなれば『おまけ』のような存在として貴方のことを取り扱うわけにはいかないということを、どうかご理解ください」


「あ、はい、わかりました。では、どう言えばいいんでしょうか?」


「そうですね……ここはもう、ただ単純に……私の『二人目の夫』……それでお願いします」


「わかりました。僕は女王様の二人目の夫、ですね。こちらこそ、これからもどうかよろしくお願いします女王様」


「ええ……新しい旦那様……」




 この日の主だった話し合いはそこで一区切りとした。

 そして私はこの翌日から、ショータ様の「お誕生日会」を彼の人生でも最高の祭事として仕上げられるよう、本格的に準備し始めたのである。


 勿論、宣言通り自分の髪も短く切り落として……。




 * * * * * *




 そしてこれは今から二日ほど前の、私の夫との会話。


「……あなた、今夜ちょっと付き合えない?」


「私で予行演習か?」


「そうね。久しぶりすぎて彼の前で恥はかきたくないし、彼に恥もかかせたくないから」


「了解した」


 ……返事、早いわね。何の迷いも無い。それだけあなたも彼を信用している、と取るべきなのかしら。


「話が早くて助かるわ」


 快速すぎて変な笑いでも出そうになるぐらいよ。


「もう27年の付き合いだからな」


「……ああ、そういえばもう、そんなになるのね。最初に生まれたアーネも今じゃ26歳で二児の母、か……」


 なんなら末っ子のマッティーすらもうちょっとで20代に入るぐらいだし。


「お互い歳をとったものだな……もう立派なおじいちゃんとおばあちゃんだ」


「本当ね」


 おじいちゃんとは言いつつも、軍人として日々鍛え込んでいる夫の肉体は、そろそろ50歳に近づいてきた今でもまだまだ屈強なものだが。


 それに比べたら私なんて……長時間の机仕事から立ち上がる時の「どっこいせ」が結局やっぱり口癖になりつつある有様だし、

 孫の身体を持ち上げる時にまず自分の肩と腰への負荷を心配しているような始末よ。やっぱり老けてるわ、着実に。


 世界一可愛いおばあちゃん、なんて褒めていただいた以上、老いを忌避する気持ちなど微塵も無いが。


「……ヴィマ」


 ……その呼び方してくれるの、結構久しぶりね。いつ以来だっけ。


「なあに」


 こちらからも自然と、甘えるような声が出てしまう。第三者に見られたら気色悪がられるかも。




「愛している」


「私もよ」




 ……その晩、私は夫の大きく重たく分厚い身体の感触を味わいながら、

 7年ほど前に旅立つ直前のショータ様の小さな身体を抱きしめた時の感触はそういえばどんなものだったかと、比較するように思い返していた。


 まるで…………。


 ………………。


 やめとこ、こんな言い方。


 そんな後ろめたい話じゃないし。




 * * * * * *




 ……そして、遂にショータ様が「僕は今日女王様と結婚します」と大観衆の前で宣言なさった現在。




「僕はずっと前から女王様が大好きでした。本気で惚れていました。ずっとずっと結婚したいと願っていました。

 女王様はとっくにヨイダンナー将軍さんと結婚なさっていて、子供もいらっしゃいますが、その上で尚、僕は本当に本気で女王様が大好きなんです。


 今から6年ほど前、僕は仲間のセキーシさん、ブトゥーカさん、ケンジャーさんの三人と一緒に魔王軍との戦いに打ち勝って、

 このウオデッカ王国に帰ってきましたが、実はそうして帰ってきた当日から即座に、僕は女王様に求婚していたんです。


 かつて僕のことを勇者だ英雄だと讃えてくださった人達の前でこんなことを言ったら怒られるかもしれませんが、

 僕が魔王を倒してきたのは、世界の平和を取り戻すためなんかじゃなくて、その手柄で女王様に求婚するためだったと言っても過言ではありません。


 しかし当時の僕はまだ12歳であり、この国の法律では18歳にならなければ結婚ができないので、その時点では話は一旦保留になっていました。


 だから僕はそこから18歳に到達するまでの6年間に渡って、学校に通って勉強し、トコナッツ王国とユキマミレ帝国への留学も経験して、

 女王様の隣に立つのに相応しいような立派な大人の男性になれるよう、教養を身に着ける努力を続けてきました。


 騎士としてこの国を剣で守り続ける道もあると言っていただいたこともありますが、僕はもう剣を握ることには興味も未練も無いので、これはお断りしました。

 今の僕は主に回復魔法を研究して、人々の日常生活を支え続けることを目標として見定めました。この国の魔道研究所にもその部門で内定を貰えました。


 その甲斐あって、この度ついに女王様ご本人からも、その夫の将軍さんからも、僕のお願いを受け入れていただけました。

 僕は今、最高に幸せです。今日のこの18歳の誕生日は、僕の人生でも最高の一日となるでしょう。


 今日から僕は女王様の二人目の夫として迎え入れていただきます。勿論、僕は元から女王様と結婚なさっていた将軍さんのことも愛しています。

 将軍さんと一緒に女王様の左右に並んで立っても恥ずかしくないような男になれるよう、僕はこれからも精進を続けます。


 アーネ王女様、イモト王女様、マッティー君、僕は貴方達よりも年下ながら、続柄としては貴方達の新しい義父ということになってしまいますが、

 そのあたりはどうか、どちらかと言えば新しい弟が増えたとか、それぐらいの感覚で受け入れていただけると嬉しいです。


 そしてアーネ王女様の娘のマーゴキャワちゃんとマジテンシーちゃん、イモト王女様の息子のオレノマゴン君も、

 義理のおじいちゃんと言うにはいくらなんでも若すぎるとは思いますが、どうかよろしくお願いします。


 というわけで、僕の話は大体これぐらいで終わりです。こんなに沢山の人達の前で女王様との結婚をはっきり宣言することができて感無量です。

 皆さん、聞いてくださってありがとうございました! 今日という日を迎えるための準備をずっと続けてくださっていた全ての方々に感謝します!


 それでは、次にヨイダンナー将軍さんに交代します!」




 ショータ様が演壇を下りる。ちなみに「新しい弟が増えたぐらいの感覚で」「義理のおじいちゃん」のあたりで観衆の笑いが巻き起こっていた。


 そして次に夫が上がり、話し始めた。




「あー……こんにちは……でいいのか……」




 ……出だしはちょっとだけ冴えなかったが。




「……ヴィマージョ女王陛下の夫のヨイダンナーだ。

 我がウオデッカ王国はもとより、南のトコナッツ王国、そして北のユキマミレ帝国からも今日の集まりに参加してくださった全ての方々に感謝する。


 既にショータ殿が仰った通り、私はあくまでもショータ殿と二人で揃って肩を並べ、陛下の二人の夫としてこれからやっていくことになる。

 私にとっては子供達よりも更に年下で、実に29歳も離れてはいるが、私の方こそショータ殿と足並みを揃えられるように、これからも精進を重ねていきたい。


 当時12歳だったショータ殿が陛下に求婚する様を最初に目の当たりにした時は、それは確かに非常に驚いたし、

 その場にいた全員でどうにかショータ殿に冷静に考え直していただくように説得もしたが、今になって振り返ってみれば、ショータ殿には大層失礼なことをしてしまったものだ。


 ショータ殿の想いは最初から現在に至るまで、紛れもなくずっと本物だった。あの頃から既に、彼の中の陛下に対する愛は完成されていた。そこには何の迷いも無かった。

 彼自身も先程述べられた通り、この6年間、ショータ殿は本当に勤勉に努力を重ねられた。陛下の気を引くための点数稼ぎだなどと簡単な言葉で片付けて良いものではない。


 私はショータ殿という一人の男性を、その功績、生き様、器の広さ、全て合わせて真剣に尊敬している。

 今日から彼を新しい家族の一員として迎え入れられることを誇りに思う。


 以前私はショータ殿に対して、この先、私にもしものことがあった時には陛下のことを頼みたい、などと語ったことがあるのだが、

 それに対する彼の返答は、これだけ世の中が平和になった以上、そんな暗いもしもを想像する必要など無い、というものだった。


 彼が仲間たちと共に築いてくださった尊い平和だ。その行く末を不安視するような真似など二度としてはいけない、ということを気づかされた。

 重ね重ね、私もまたショータ殿から多くの物を授かった。彼にはいくら感謝してもしきれない。


 だからこそ、私も何の迷いも無く断言できる。私もまたショータ殿のことを愛している。心の底から。

 ショータ殿も宣言なさった通り、これからは私と彼の二人で共に陛下の左右に並び、各々が出来る限りのことを尽くして、陛下を、ひいてはこの国を支えていきたい。


 まさかこの歳にもなって、私は人生最大の友と言うべき男と巡り会えたのかもしれない。

 ショータ殿、同じ女性を愛した者同士として、どうか私とも仲良くして欲しい。


 無論、私と陛下の子供たち、更に孫たちとも一緒に。

 アーネヒーメ、イモトヒーメ、マッティー、そしてマーゴキャワ、マジテンシー、オレノマゴン、新しい家族をどうか優しく迎え入れてほしい。


 そして残念ながら今この場にはもういないのだが、アーニジャーとウォルトートの二人も、どうかあちら側で母とショータ殿を祝福してくれることを願っている。


 それから……これはまだ少々気の早い話だとは思うが、ショータ殿がこの先20歳を迎えた時には、まずは私と陛下との三人で祝杯をあげさせてほしい。

 まだまだこれから先も、ショータ殿と一緒にやらせていただきたい慶事はいくらでもある。末永く付き合っていただけると嬉しい。


 ……いや、途中から個人的な願望の話ばかりで失礼したが、私の話は概ねこんな所で区切りとしたい。

 皆さん、今日は本当にありがとうございます。今日という日を数えきれない程の沢山の喜びを持って迎え入れられたことに、改めて感謝したい。


 では、最後に女王陛下に交代させていただこう」




 ……私の番か。よし。


 夫と交代で演壇に上がる。




「……ごきげんよう、親愛なるウオデッカ王国国民諸君、並びに、南はトコナッツ王国、北はユキマミレ帝国からお越しの皆々様。

 女王ヴィマージョです。今日の集まりにこれ程沢山の人々が参加してくださったことに、私の方からも改めて感謝を申し上げます。本当にありがとうございます。


 話すべきことは既に先の二人がおおよそ話してくれたので、私から述べることはあまり多くはありませんが……。


 確かに、6年前に我が国にご帰還なさったショータ様からまさか私が求婚されてしまった件については、私自身も当時は本気で驚愕するしかありませんでしたし、

 率直に申し上げて、どうして娘二人のどちらかではなく私なのか、本当に本気で仰っているのか、こんなおばさんに一体何をご期待なさっているのかと戦慄しておりました。


 加えて、ショータ様たちはこのウオデッカ王国のみならず、トコナッツ王国とユキマミレ帝国を脅かしていた敵をも退け、世界をお救いになったものですから、

 そちらの両国からもショータ様を慕う女性たちが我が国までお越しになったこともありましたし、もうこの際彼女たちでも、などと大変失礼なことを考えていた時すらあります。


 しかしショータ様はどれ程多くの女性に言い寄られても、そのお心が揺らぐことは一切ありませんでした。最初から現在に至るまで、一瞬たりともです。

 それ程強い想いが彼の中には最初からずっと存在していたのです。それはもう、大人の女性に対する少年の憧れ、などといったような生易しい表現で片付けて良い問題ではありません。


 初めて彼の求婚を受けたあの日から今日に至るまでのこの6年間、ショータ様は私の隣に立てるような大人の男性になるための努力を続けてきたと仰いましたが、

 私の方もまた、この6年間は彼のご成長を眺める日々が、だんだん楽しくて仕方がなくなっていったことに、次第に気づかされました。


 つまり、私もまたショータ様の真っ直ぐでひたむきな想いにだんだん惹かれていったのです。

 私はとっくの昔に夫を持ち、子供にも恵まれ、今や孫すら三人もいる立派なおばあちゃんとなりましたが、そんなことを口実にして彼の想いから逃げることはもうやめにします。


 もう言い訳はしません。恥ずかしがって逃げ隠れするような真似は致しません。私はもう迷いません。今こそこの場ではっきりと言わせてください。

 私もショータ様を愛しています。心の底から愛しております。貴方の熱い想いはしかと受け止めさせていただきました。


 勿論、私はヨイダンナーのことも、27年前の結婚式当時から現在に至るまで一切変わらず愛しておりますし、これから先もその気持ちが変わることは決してありません。

 今後はそれと同じだけの愛をショータ様にも捧げるということを誓います。そこに優劣はありません。二人揃って等しく私の大事な大事な旦那様たちです。


 アーネヒーメ、イモトヒーメ、マッティー、母さんは人生二度目の結婚式を挙げます。新しい家族をどうか優しく迎え入れて頂戴ね。

 マーゴキャワちゃん、マジテンシーちゃん、オレノマゴン君、おばあちゃんに温かい拍手を頼むわね。


 そして先程夫も言っていた通り、残念ながらもうこの場には既にいないけれど、アーニジャーとウォルトートもどうかあちら側で笑って見届けてくれるよう祈っています。


 それでは改めまして、ショータ様と私とヨイダンナーの人生の新たなる門出となる今日この日に、これ程沢山の人が集まってくださったことに、深い深い感謝を申し上げます。

 私から言うことはあまり多くないと先に言っておきながら結局何だかんだと長話をしてしまいましたが、皆様、今日は本当に、本当にありがとうございます。


 これより、ショータ様と私の……結婚式を、始めさせていただきます」




 …………演壇で喋っている途中、最前列にいたオコッサ殿がマッティーの懐に顔を埋めてギュウギュウしがみつきながら震えていたことに気づいてしまったのだが、

 そこはあくまで見ないフリをして受け流すしかなかった。


 ごめんなさい……なんて、今更言う方が彼女に失礼だろうし……。




「愛してます、女王様」


「私も貴方を愛しております、ショータ様」




 …………ショータ様の体つき、身長は私より低いとは言っても、思ったより遥かに筋肉質ですっごい分厚いわ。

 マッティーなんて身長はあともうちょっとで父親に追いつきそうなぐらい伸びたけど、体つきはちょっと華奢だし。


 ショータ様ってもう剣の道は完全に捨ててから6年も経ったのよね?

 実はこっそり肉体鍛錬だけは継続なさっていたとかじゃないと説明がつかないと思うんだけど。いや、たくましいわね……。


 それでとうとうキスまでしちゃったけど……。


 大丈夫よね? 私の口、臭わないわよね? 加齢臭とかしないわよね? この日のためにずっと真剣に念入りに口腔のお手入れは頑張ってきたし……。

 最後まで内心でこんな心配ばっかりしていることが本当に情けなくてしょうがないけど……。


 まぁ……こんなに至近距離まで近づいてもショータ様の笑顔は本当にキラキラ輝いてらっしゃるから……良しとさせて頂戴……。


 …………ふぅ…………。



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