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第一話




「女王様! 僕と結婚してください!!」

挿絵(By みてみん)



 ……状況を整理しよう。


 ここは大陸東方のウオデッカ王国。

 この度、地上を脅かしていた魔族の軍勢は、人類の中から決起した勇者ショータ様と、その三人の仲間達の活躍によって見事打ち倒され、世界には平和がもたらされた。

 私達はショータ様たちの凱旋を、国を挙げて迎え入れた。


 次に今このウオデッカ王城の広間にいる主要な人物たち。


 若い、を通り越してまだ幼いとしか言えない年齢ながら紛れもなく人類最強の力を持ち、その力を以て魔王を討ち滅ぼした勇者、ショータ様(12)。

 

 そして彼の旅に同行し、共に最後まで戦い抜いた三人の仲間達。

 我が王国の騎士団から出向した若手女性騎士のセキーシ(19)。

 国内の一大流派となっている格闘術道場、その総帥の跡取り息子であるブトゥーカ殿(20)。

 国営の魔法研究所に所属していた凄腕の魔道士であり、一行の参謀役を務めたという男性、ケンジャー殿(22)。


 次に私の家族たち。

 長女にして次期女王の立場にある第一王女、アーネヒーメ(20)。

 次女である第二王女、イモトヒーメ(16)。

 そして末の息子の第三王子、マッティー(13)。

 

 ……本来なら長女と次女の間に更に二人の息子、アーニジャーとウォルトートがいたのだが、彼らは先の魔族との戦争で死亡しているため、泣く泣く割愛させていただく。


 隣に立つのはウオデッカ王国軍の総指揮権を預けた大将軍であり、私の夫でもあるヨイダンナー(41)。


 それから最後にこの私……ウオデッカ王国の元首、女王ヴィマージョ(40)。


 以上九人。


 長き戦いの旅から全員無事に帰還したショータ様たちを城の広間へと招き入れ、感謝と称賛に沸き上がっていた中でのことである。

 ショータ様は突如として「この国に無事に帰ってこられたら女王様にお願いしたいことがあったんです」と切り出した。


 私は「我が国はおろか、世界の英雄となった貴方のお願いとあらば是非、どんなことでもなんなりと」と返した。あまりに気安く。


 しかしそこで返ってきた彼の願いは、完全に……ショータ様ご本人以外、その場にいた全員、誰一人例外無く……まったく予想もできない言葉だった。




「ずっと夢見てました! 魔王を倒して世界を平和にしたら絶対にお願いするんだって、ずっと思ってたんです!

 むしろこの瞬間のために僕は今までずっと戦ってきたと言ってもいいです! 僕の一生のお願いです! 今こそお伝えします!


 女王様! 僕と結婚してください!!」

 



「…………えっ?」




 ショータ様以外の八人全員の間抜けな声が重なった。なんなら広間の隅に並んでいる兵士や使用人たちすら言っていた。




「……ショータ殿、今、なんと?」


 最初に口を開いたのは、隣に立つ私の夫だった。


「僕は女王様と結婚したいんです!」


 ……聞き間違いじゃなかったらしい。王女と女王の言い間違いというわけでもない。確かに言った。はっきりと言った。私と結婚したいと。


「待って、ショータ君ちょっと待って。女王陛下は……とっくにご結婚なさっている身よ? ヨイダンナー将軍と」


 次に声をかけたのはショータ様の旅にずっと同行していたセキーシ。


「はい、だから僕は側室を希望します!」


 ……今度はなんて言った? え、何? 今、側室って言ったわよね?


「いやいや待て待てショータ……側室って言葉の意味、ちゃんとわかってんのか?」


 お次はもう一人の仲間のブトゥーカ殿。


「国王のような偉い人の二人目以降の結婚相手ですよね!」


 ……大分ざっくりとした理解のようだが、完全に間違っているとまでは言えない。


「あの、ショータ君。側室だなんて言葉、誰に教わったんですか?」


 今度は最後の仲間であるケンジャー殿。


「南方のトコナッツ王国の王様ですね!」


 ……ああ~……あいつかぁ。めちゃくちゃ心当たりがあるわ……うん。


「トコナッツ王国の王様って……」


「チャラウォッジさん……だっけ?」


「あの時の……」


 あちら三人が向かい合って確認をしている。そうそうそいつよ、チャラウォッジよ。

 ショータ様はこちらに向き直って、私達に説明を始めた。


「トコナッツ王国は、かつて僕達がこのウオデッカ王国を旅立ったその次に向かって、お助けした国です。

 あそこの国の王様には、国を攻めていた魔族を僕達が倒したお礼として、大宴会を開いてもらえるほど親身にしていただきました」


 ああそうね、あの男は宴会とかそういうの大好きよね。


「あの王様には本妻さんの他に側室さんが五人もいましたが、王様は六人全員をちゃんと愛してたし、奥さんたちもみんな仲良しでした。


 王様はもし僕が本当に魔王を倒して世界を平和にしたら、世界中の女性が僕に求愛してくるかもしれない、

 やろうと思えば王様よりも更にもっと沢山の女性と結婚することだってできるかもしれないと言っていました。


 でも僕はそんなことをしたいわけじゃありません! 僕が結婚したいほど好きな女性は、ウオデッカ王国の女王様ただ一人だけです!

 そして女王様は既に将軍さんと結婚しています! だから僕は考えました!


 僕を女王様の側室にしてもらえれば全部丸く収まります!」


 ……待って、それ全部計算ずくでしっかり計画立てての発言だったの?


「目ェ覚ませショータァッ! オレァお前をそんな子に育てた覚えはねェーッ!!」


 ブトゥーカ殿の魂の叫びが響き渡る。


「僕は本気です!! 女王様が大好きなんです!! 一目惚れしたんです!! 愛してます!!」


 ショータ様の両目はさっきからずっとキラキラと輝いている。一点の曇りも無い。あの幼く可愛らしいお顔がだんだん恐ろしくなってきた。


「ねぇ! いつからそんなに惚れてたの!? 女王陛下に!」


 セキーシ、よくぞ聞いてくれたわ。


「それは勿論あの時です!

 最初にウオデッカ王国を攻め込んでいた魔族を倒して、僕が女王様に勇者と認定された時です!

 あの時、女王様は旅立つ僕を見送る前にとっても優しく抱きしめてくださいました! あの瞬間から僕はもうずっと女王様にベタ惚れです! 首ったけです!」


 ……そういえば抱きしめたな。確かにあの時、彼を。


 もう今から一年近く前のことになるか。


 魔王軍四天王が一人、セン=ポウ率いる魔物の軍勢によって城下町が攻め込まれ、我が国の騎士団は窮地に陥っていた。

 この戦いで私の二人の息子はあえなく命を落とした。

 

 しかし鮮血乱れ散る混迷の中、孤児院から逃げ遅れた一人の少年が、すぐ近くにたまたま落ちていた騎士の剣を握りしめた瞬間、状況が一変したのだ。

 彼はその小柄な身体からは想像もつかない戦闘能力を発揮し、瞬く間に魔物共を薙ぎ払っていった。


 既に所属部隊が壊滅していた状況下でも、たった一人で抗戦を続けていたセキーシ。

 たまたま街に滞在していた所を不運にも巻き込まれただけだったというのに、たまたま近くにいた人々を守るために死に物狂いで拳を振るっていたブトゥーカ殿。

 軍人でもなければ魔法を実戦に用いた経験すら無かったそうなのに、初めてまともに使った攻撃魔法で魔物を必死に抑え込んでいたケンジャー殿。


 以上三人と出会ったその場の勢いで共闘を始めた少年は、そのまま魔物共を一気に殲滅し、敵指揮官のセン=ポウをも一刀両断した。


 ……これが、ショータ様の初陣だった。

 当時の私自身は情けなくも王城内に閉じこもっていたので、あくまで街の住民たちの目撃情報とセキーシたちの説明を繋ぎ合わせると、概ねこういう流れになるという話だが。


 かつて千年前と四百年前の二度に渡り、魔王軍の侵攻を退け人類を守ったという勇者の伝説。私はその復活を垣間見た。

 ショータ様を現代に降臨した新たな勇者と認定し、このウオデッカ王国のみならず世界全体をお救いくださいと託した。

 そこにセキーシたち三名が彼への同行を願い出てくれた。


 旅支度が整うまでの数日間、束の間ながらショータ様は私の三人の子供達と交流を深め、必ず生きて帰ると固く約束してくださった。

 そうして私達は彼ら四人の旅立ちを見送った。


 その時のことだ。

 私はよもや、こんな年端もいかぬ幼い少年を戦場に送り込むしかないのかという現実に打ち震え、彼を一度、全身で抱きしめてしまった。床に両膝までついて。


 丁度私も二人の息子を一度に失った所だったから……結果として、ショータ様が即座に二人の仇を討ってくださったということにもなるから……。

 セキーシが「私の力が及ばぬばかりにアーニジャー様とウォルトート様を……」と号泣していたのを「貴女が悪いわけではない」と慰めたことも思い起こされる……。

 

 ……という話、だったのだが。


 いや、まさか。


「あの時の女王様がくださった優しさと温かさは僕の一生の宝です! あの感触をずっと心に抱いたまま、僕はこの一年間を最後まで戦い抜いたんです!」


 こんなことになろうとは。人生何が起こるかわからない……にも限度がある。


 なんだっけ、こういうの……今時の若者の言葉にあったな。

 衝撃的な体験が頭にこびりついて離れなくなり、人生の行動指針すら決定づけてしまう程に凝り固まる現象。

 確か……「脳を焼かれる」、と言ったか。


 私はかつての無意識の行動一つでショータ様の脳を焼いてしまっていたらしい。たった一回の抱擁で。


 ……どうしよう。


「あの、お母様……普通に考えたら私がショータ様と結ばれる流れでは?」


 私の長女アーネヒーメはさっきからずっと呆気にとられていたようだが、ようやく意識を回復させた。


「万が一姉上が駄目だとしてもまだ私がいますよね?」


 次女イモトヒーメがそれに続く。見るからに焦っている。


「ショータが母様と結婚したら……ショータは僕の義父になる、ってことですか? 義兄じゃなくて……」


 末っ子のマッティーまで顔面が青くなりつつある。そうね、貴方はショータ様より一歳年上なのにね……。


「……あなたは、どう考えてるの?」


 やむなく隣の夫に話を振る。無茶を振っているのは重々承知しているが。


「……ここでショータ殿の要求を突っぱねて、最悪、彼がこの国を出ていってしまったら……。

 もし、その後の彼がまた別の国に好待遇で迎え入れられて、傭兵だか騎士だかにでも取り立てられてしまったら……。


 それでこの先、ショータ殿が我が国に対する脅威となって立ちはだかってきてしまったら……それは、非常に困る……。

 彼がこのままウオデッカ王国に居着いてくださるのならそれが一番いいのは間違いないんだが……形はどうあれ……」


 ……なるほど、国防を預かる軍人らしい見解だ。

 しかし、だ……。


「本音は?」


「なんでアーネでもイモトでもなくて君なんだろうな……」


 ……ですよね。全くの同意見だ。

 私も帰還したショータ様のお姿を最初に見た時、ゆくゆくは娘のどちらかとでも結婚してくだされば、ぐらいのことは考えていた。


 側室なんて言葉を吹き込んだのが「あの」チャラウォッジだと言うのなら、私が17ぐらいの頃に言い寄ってきたあの時、きっちりシメておくべきだったかしら……。

 計算するともう23年前か……まったく、あのナンパ王子が……。


「女王様! 僕を側室にしてくださいますよね! 女王様っ!!」


 変声期前の少年らしい、やたらめったら朗らかで溌剌とした高音が耳によく通る。声まで怖くなってきたんだけど。


「お……お、お待ちくださいショータ様!」


「ショータ様!」


 娘二人が声を張り上げる。


「わ、私と結婚してくだされば続柄としてはショータ様もお母様の義理の息子という扱いになりますから、お母様とずっと一緒にいられることに変わりはありませんよ! ホラ!」


「そうです! なんなら別に私でも構わないんですよ! もういっそのこと姉上と私を二人まとめて娶ってくださっても!

 世界をお救いくださったショータ様ほどのお方なら妻を二人持つ程度のこと、誰も咎めはしませんわ! ああそうです、それこそ私が側室でも!」


 ……うん、その調子でなんとかしてちょうだい、私の愛しい娘たち。今ほど貴女たちを頼りに思ったことはないかもしれないわ。いやそこまで言うのは二人に失礼か。


「って言うかショータ君は今までずっと一緒に戦ってきた大事な仲間のお姉さんのことを忘れちゃったのかな!? こっちも向いて! ね!?」


 ショータ様の斜め後ろからセキーシまで連携攻撃に参加する。もうこの際だから貴女でもいいわ。


「駄目です!!」


「へっ……!?」


 ……だがショータ様ご本人は無慈悲だった。


「僕は王女様たちとセキーシさんのことも好きですが、結婚したいほど愛しているのは女王様お一人だけなんです! 結婚は愛してる人としかできません!!」


「ゴハァッ」


 女子三人があっという間に撃沈した。


「セキーシィィィィィィッ!」


「姉さァァァァァァんッ!」


 ブトゥーカ殿とマッティーがそれぞれを支えに向かう。ひどい瞬殺劇を見せられたものである。

 私の隣にいる夫の方を見やると冷や汗ダラダラだ。どうやって収集をつけろというんだ、この状況。


「あのー……少しよろしいですか?」


「ケンジャーさん?」


 と思いきや、ここに来てケンジャー殿が割って入った。ショータ様が後ろに振り返る。


「ええ、いいですかショータ君、一旦落ち着いて私の話をよく聞いてください。皆様もご一緒にお願いします」


「はい、何でしょうか?」


 何か会心の秘策でも思いついたのだろうか?


「二つほどショータ君に言わなくてはならないことがあります。まずは一つ目。そもそもの話として、この国の法律では結婚は最低でも18歳にならなければできません」


「あっ……そうですか」


 ……ごもっともである。めちゃくちゃ今更な話ではあるのだが。

 ショータ様の最初の切り出しがあまりにも突飛すぎて、そんな常識的なツッコミを入れることすら完全に忘れていた。冷静な常識人がいてくれて助かった。


「まだショータ君は12歳でしたね? 18歳になるまであと6年もあります。そんなに焦ってはいけません」


「それもそうでした!」


「ええ……しかし、だからと言って単純に6年待って年をとれば良いというだけの話ではありません。

 次に二つ目です。結婚というものは愛し合う二人がちゃんとお互いの意思を確かめ合い、納得し、二人同時に合意をした上でしか出来ないことです」


「はい!」


「だからショータ君、今一度確認します。君は本当に女王陛下のことを愛しているんですね?」


「はい!! 勿論です!!」


 ここの返事が特に際立って力強かった。


「ならば尚のこと、相手の気持ちもきちんと考えなくてはなりません。

 いくらショータ君が女王陛下のことを愛していても、肝心の女王陛下はショータ君のことをどう思っていらっしゃるのでしょうか?」


「あっ……」


「わかりましたか? 今のショータ君は自分の方から好きだ好きだ愛してると一方的にまくし立てるばかりで、相手のお返事を聞こうとしていません。

 これでは会話が成り立ちません。愛しているはずの相手の納得も得られません。相手の都合を考えずに愛してると叫ぶだけでは、相手の心に対する侵略行為にしかならないんです。


 第一、先程ショータ君は、結婚は愛してる人としかできないと自分で言いきりましたね? それは女王陛下の方からしても同じことです。そう思いませんか?」


「うぅん……本当ですね……」


 ……本当に冷静な常識人がいてくれて助かった。ありがとうございますケンジャー殿。


「でも……それじゃあ僕はどうすればいいですか? 僕は女王様とどうしても結婚したいんです」


 ショータ様の声から少々気力が抜けているが、そこだけは譲るつもりはないらしい。


「これもさっき言いましたが、まだあと6年は絶対に無理です。

 だから今から6年間、ショータ君はもっと色々なことを学び、人生経験を積み、視野を広げるべきです。


 そうして君が大人になった上で、まだ本当に女王陛下と結婚したいと思い続けていられるかどうか、それを確かめなくてはなりません」


 遠回しに6年以内になんとかショータ様の気を逸らす方法を皆で探しましょうと我々に促している。重ね重ね本当に助かりますケンジャー殿。


「女王様と結婚したいという気持ちが揺らぐことだけは絶対にありません!」


 まぁご本人はこの有様だったが。


「……ええ、わかりました。ではこれもまたさっき言いましたが、本当に女王陛下のことが好きなら、あの方のお気持ちも確かめましょう……女王陛下、よろしいでしょうか?」


「あっ……ああ、そうですね」


 ここまできてこっちに振ってくるのね……まぁ話の流れとして仕方ないが。


「女王様!」


 再びショータ様がこちらに向き直る。

 相変わらずお綺麗で真っ直ぐすぎる目つきだが、さっきの愛してます結婚してください攻撃の猛連打の時よりは幾分落ち着かれた様子だ。


「僕は女王様のことを愛してますが、女王様は、僕のことは好きですか?」


 …………。


 うん……答えないと駄目よね、それ。

 あの目に嘘はつけない。彼を傷つけるような真似もできない。言葉は慎重に選ばなくてはならない。


「女王様……?」


 ショータ様を騙さず、自分自身も騙さず、出来る限り、優しい言葉を……。


「……私も、ショータ様のことを、深く、深く、敬愛しております。貴方はこの地上に生きる全ての人々のために精一杯戦い、勝ち抜き、世界をお救いくださった英雄です。

 この場にいる誰もが、世界中の人々が、貴方の成した偉業に、心から尊敬し、感謝しています。貴方は世界の恩人です。


 そんな貴方に愛していただけるなんて、単なる一国の主でしかない私には身に余る光栄です」


「……女王様……」


 ちょっと納得しきれていない顔をされてしまった。うん、まぁ……聞き心地だけ良い言葉で遠回しに長々と屁理屈を並べ立ててごまかしているだけなのは承知の上だし……。


「……ごめんなさいねショータ様。まさか私が求婚されるなんて本当に予想外すぎて、答えに詰まってしまったんです。どうかお気を悪くなさらないで」


 かと言って屁理屈だけで押し通し続けるのも限界なので、そろそろ素の言葉も交える。


「ショータ様のことは……少なくとも、嫌いになんてなれるわけはありません。


 しかし見ての通り、私はとっくに夫を持つ身ですし、子供も五……いや……既にこんなに大きな子供がここに三人もおります。

 今更、新たな夫として迎え入れてほしいなどと言われましても……ただでさえショータ様と私では親子ほども歳が離れているんですし……」


「僕は……それでも女王様のことが好きなんです……」


 あ、やばい、泣きそうになっておられる。ちょっと可愛いけどまずい。


「で、ですからっ……! そのですね!」


 彼を傷つけたくはない。それだけはいけない。


「お……」


 ……いやどう言おう。どうしよう。とにかく考えろ、考えろ……。


「お?」


 ショータ様はずっとこちらを凝視している。

 考えろ女王ヴィマージョ。何でもいいから捻り出せ。いや何でもは良くない。くっ……!


「おっ…………お友達から、始めましょう!」


 苦し紛れにやっと出た言葉がこれか……!


「お友達……?」


 ……ショータ様の表情の曇り模様が幾分か晴れた。あ、そこそこ効いてる?


「そう! お友達です! ほら、ショータ様が結婚ができるお歳になるまでまだ6年もあるのですよ! 時間はたっぷりあります!

 今から6年間でゆっくりとお互いの将来を考えていきましょう! ですから、まず最初はお友達から始めるんです!

 こんなおばさんでよろしければ、どうかお友達になってくださいませんか、ショータ様!」


「……女王様……!」


 表情がますます晴れてきた。よし、このまま押し切れる。


 ……とかなんとか思っていたら。


「女王様がご自分でご自分のことをおばさんって言っちゃうところ、すごくグッときますね!」


「おいィィィィィィィィィィィッッッッ!!」


 ブトゥーカ殿の二度目の魂の叫びが城内に反響した。


 セキーシは「いい流れだったのに……」と頭を抱えている。

 ケンジャー殿は「一先ずは『お友達から』でまとまったんですかね……」と苦笑している。

 アーネヒーメは「もうこうなったら6年以内に決着をつけるわよイモト」と決意を固めている。

 イモトヒーメも「わかってるわ姉上」と同様に意気込んでいる。

 マッティーは「本当になんとかしてよ姉さんたち……」とげっそりしている。

 ヨイダンナーも「頼んだぞアーネ、イモト……いや本当に……」と同じくげんなりしている。


「ではお友達からということでよろしくお願いします女王様!」


 ショータ様の表情は完全に覇気を取り戻した。やっぱり笑顔の方が可愛らしい。その分だけ同時に恐ろしい。


 つまる所、今この場で出来た対処はただの「一時しのぎ」「先延ばし」だ。

 有効期限は6年間。長いととるべきか短いととるべきか……。


「僕の方も、女王様からも結婚したいと思っていただけるような立派な男を目指します! 期待していてください女王様!」


「え、ええ……よろしくお願いします、ショータ様……」


 私は……魔王すら倒した世界最強の英雄、つまり魔王をも超える世界最強の強敵と、これから戦っていかなければならないようだ……。

 



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