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プロトコル「番人」

作者: 海山 里志

 錆びた鉄条網を車で突き破る。人智を超えるお宝が眠ると噂される廃研究所には、いとも簡単に侵入できた。


「チェーンカッターとバールも持ってこい! どうせいくら壊しても構やしないんだからな」

「へい!」


 俺は先輩に言われた通り工具を車から降ろす。俺たちは屑屋。まあ、文明崩壊後のこの世界じゃありきたりな職業だ。

 俺たち屑屋の間にはこんな噂が流れていた。旧帝国情報科学研究所には人智を超えるお宝が眠る。だが、その研究所に行って生きて戻ってきた者はいない、と。

 だが、命なんて屑同然のこの世界では、蛮勇を振るう奴は後を絶たなかった。まあ、俺もそんな命知らずの一人な訳だが。


 チェーンカッターで鎖を切り落とし、バールで扉をこじ開ける。するとやかましい警報が鳴ったが、それが今このご時世に通じているとは思えない。

 先輩は扉の側のスイッチに触れる。するとちかちかと照明が点いた。


「ほう、ここはまだ電気が生きてるのか。それだけで価値があるな」


 このご時世に電気が生きているということは、電気がなければ状態を保つことができない何かを保管しているということに他ならない。食品か、芸術作品か、それとも電磁記録か。まあ旧帝国情報科学研究所というからには十中八九電磁記録だろうが。そうでなかったとしても、売りつける先はもちろん異なるが、いずれも価値のあるものだ。

 それだけではない。ここを拠点として快適な生活を送ることも可能だろう。


 先輩は長い廊下を奥へ奥へと進む。俺はその後を、はぐれないようについていった。

 やがて突き当たりにクリーム色ののっぺりとした扉が現れた。鍵穴はない。先輩はドアノブを回し、押したり引いたりするが、開く気配はない。


「先輩、ひょっとして引き戸なんじゃ」

「まさか! ドアノブが見えるだろう?」


 そう言いながら先輩は半信半疑で引き戸を引く。はたして扉は開かれた。


 部屋の中は照明が落とされていた。これでは何があるのか分からない。


「とりあえず電気を点けよう。おい、スイッチを探せ」


 俺は先輩に続いて部屋の中に入り、壁沿いに手を這わせる。

 何かが指先に触れた。感触は何かのスイッチらしい。試しにスイッチを切り替えてみる。

 はたして明かりは灯された。と、同時に引き戸がひとりでに閉まり、カチャリと音がした。俺はスイッチに付箋が貼られていることに気がついた。書かれている文字は『節電』。


「どういう意味だろう」

「おい、これがお宝なんじゃないか!?」


 俺が付箋の意味を考えていると、先輩は興奮気味に叫ぶ。先輩の食らいついているもの、それは透明なケースに守られた小さな物体だった。プラスチックの小さな筐体から金属製の出っ張りが付き出ているような構造をしており、出っ張りの上に正方形の穴が二つ、正面に長方形の穴が一つ空いているような構造をしている。


「これはなんだ?」

「おそらくUSBメモリだ。これこそが人智を超えたお宝、オーパーツに違いない!」


 そう叫ぶや否や、先輩はバールを思い切りケースに叩きつけた。ケースにひびは入ったが、割れるには至っていない。その時である、白い煙が床から湧いてきたのは。

 俺たちはその煙をまともに吸ってしまった。直後頭痛と吐き気が俺を襲った。それは先輩も同じようで、床に這いつくばっている。次第に意識が朦朧として、俺は倒れ込んでしまった……。


※※※


ログ110010011


マルウェアの侵入を検知


プロトコル「番人」を実行


マルウェアを消去中…


消去に成功


ファイアウォールの脆弱性を確認


セキュリティソフトウェアのアップデートを要請


アップデートパッチファイルのダウンロードに成功


インストール中…


インストール成功


プロトコル「番人」をVer.5.3.1に更新

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