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二、俺と初恋幼馴染の過去





<第一王子の婚約者は、ミリアム・バラクロフ公爵令嬢と決定した>


 そう全国民に対し発表され、国中が祝福に満ちたその日。


 俺は、俺の初恋が散ったことを知った。






 侯爵家嫡男の俺と公爵令嬢であるミリアムが初めて会ったのは、生まれて間もない頃だった、と親から聞くくらい昔で、俺の思い出のなかには、いつでもミリアムが居た。


 ほんの小さな頃から、可愛いというより美しいという形容が似合ったミリアムは、そのきれいな見た目に反して活発で、木登りなど、誰よりもうまいくらいだった。


 そして統率力も抜群だったミリアムの周りには、いつもたくさんの子供たちが居て、秘密基地を作ったり、木の上に小屋を建てたりして、存分に遊び回っていた。


 なかでも一番凄いと思ったのは、国を悩ませていた窃盗犯を捕えたこと。


『みんながいたから、できたのよ』


 ミリアムはそう言って無邪気に笑ったけれど、子どもの指導で子ども達が窃盗犯を捕えたのだ。


 大人はこぞって度肝を抜かれ、ミリアムの有能さを讃えた。


 そんなミリアムはいつだって人気者だったけれど、俺のことは特別だと言って良く笑っていた。


 『私、ランディと一緒にいるのが一番好き』


 そう言われた時、俺は、とても誇らしく、嬉しかったのを覚えている。


 そんな俺は、当たり前のようにミリアムに求婚をした。


『みりあむ・ばらくろふこうしゃくれいじょう。ぼくと、けっこんしてください』


 その時は、未だ五歳という幼さだったけれど、丹念に作った花冠を手にして言った俺に、ミリアムは可愛く頷いてくれた。


 『おとなになったら、らんでぃのおよめさんにしてね』


 『おとなになったら、みりぃはぼくのおよめさんだよ』


 思えば、あの頃が俺の人生で一番幸福で、輝いている日々だった。


 爵位は違うけれど親同士はとても仲がいいうえ、事業提携をしていた事もあって、俺とミリアムの婚約は、直ぐに正式なものとなった。




 俺は、ミリアムに相応しい男になる。




 それからも賢さに磨きがかかったようなミリアムの隣に相応しく在るべく、努力を続けていた俺は、十歳で人生最大の絶望を味わうこととなった。


 ミリアムを見初めた愚王子クリフが、ミリアムとの婚約を望み、あろうことか王家は俺達の婚約を知りながら、それを解消させてまでも息子の望みを叶えたのだ。


『すまない、ランドルフ』


 愚王子クリフとミリアムとの婚約が公式に発表となる前、ミリアムとの婚約を、結局は王命で解消させられた俺に、父はそう言って憔悴した様子で頭を下げた。


 知っている。


 ミリアムの父、バラクロフ公爵と共に、父は最後まで国王に抗い、俺とミリアムの婚約が解消されないよう動いてくれた。


 公爵家と侯爵家。


 決して国内で蔑ろに出来ない筈の二家を相手にして尚、王家は愚王子クリフの願いを叶えた。


 理由は、簡単。




 国王も王妃も、ミリアムの才知に目を付けた。


 


 この一言に尽きる。


 俺はそう思っていたし、俺の家であるオーズリー侯爵家も、ミリアムの家であるバラクロフ公爵家もそのような認識を持った。


 俺やミリアムと同じ年の愚王子クリフは、当時既に王子としては有り得ないほどの愚かさを露呈しており、彼を王太子とするためには、賢いミリアムが傍にいることが絶対条件となっていたのだから。


 ともかくもミリアムは、愚王子クリフの婚約者となり、妃教育のために王城へ通うようになった。


 そして俺は、その後まもなく隣国へと留学した。


 逃げるようで女々しいとも思ったが、ミリアムとの想い出が詰まった場所は、呼吸もままならないほど苦しかったし、愚王子クリフとミリアムの、王城での遣り取りの噂など聞きたくも無かったから。


 両親に決められた期間は、この国の王族と貴族が卒業することを必須とする学院に入学する十五歳まで。


 その年齢になれば、貴族として生きていくために学院に入学しなければならない、つまりは愚王子クリフとミリアムの姿を間近に見なければならない。


 俺は、留学中により強い心身を手に入れることを決意し、隣国では日々鍛錬と勉強に明け暮れた。


 己を鍛え、知識を吸収することは楽しく、あっという間に五年の月日は流れた。




 俺も、この五年でかなり強くなった筈。


 多少のことでは折れない精神力と、騎士団に勧誘されるほどに、剣の実力も身に付けた。


 何があっても、何を見ても、俺の心が揺らぐことはない。


 もう、大丈夫だ。




 しかし、その自信は、いとも簡単に崩れ去った。




『おかえりなさい、ランディ。留学はどうだった?』


 俺の帰国を祝う席で、より美しさを増したミリアムにそう声を掛けられた時、その瞳の煌めきに俺はどうしようも無いほどに囚われた。




 ミリアム。


 


 俺を変わらずランディと呼び、留学中の話を楽しそうに聞くミリアムを見て、俺は、ミリアムを諦めることを諦めた。


 どうしたって俺は、ミリアムが好きだ。


 だが、絶対にミリアムに迷惑はかけない。


 そう決意した俺は、ミリアムの参謀の位置を狙うことに決めた。


 やがて妃となって王城で政に参画するミリアムの、懐刀のような存在になる。


 そして同時に、最強の護衛となると。


 その際には、ミリアムの夫となる愚王子クリフも漏れなく付いて来てしまうが、致し方ない。


 ミリアムの為に全力を尽くす。


 例え、愚王子クリフがミリアムを可愛がる様をつぶさに見せつけられることになっても。


 それほどの決意を込めて臨んだ学院入学。


 しかしそこで、愚王子クリフは、エイダ・ベーコン男爵令嬢と恋に落ちた。


 曰く。


『ミリアムは、賢過ぎる。政務などどうせ側近が行うのに、勉強などして何になる。もっと俺に構うことこそ重要で賢さなど要らぬのに』


 それを初めて聞いた時、俺は怒りで目の前が赤く染まるのを感じた。


 愚王子クリフは、王子教育が遅々として進まず、いつまでたっても立太子出来ない。


 対してミリアムの優秀さは、鳴り響いている。


 そんな事は貴族であれば、否、噂として平民にだってその情報は届いている。


 そのような愚王子が王太子となって次代の王となることが決まれば、どうなるのか。


 未来には、絶望しかないと人々は囁く。


『ミリアム。ひとりで苦労しているのではないか?』


 帰国して、変わらず家同士の付き合いがあるなか、そう聞いた俺に、けれどミリアムは、にっこりと笑った。


『大丈夫よ。王家や国家の機密については、未だ学ばない約束なの。でもその他の、外国の言葉や領主としての経営学、それに外交はとても面白いわ』


 王家や国家の機密には触れない。


 つまりそれは、ミリアムが愚王子クリフと必ずしも共に沈む危険はないということ。




 もしもの時は、必ず俺が力になろう。




 そう決意して、俺は学院での時を過ごした。





ありがとうございました。


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