花邑杏子は頭脳明晰だけど怖くてちょっとドジで馴れ馴れしいがマジ傾国の美女【第46話】
結局翌日は、二人で出勤した。
受付では星深雪が憤慨していた。
彼女はふたりに向かって
「おはようございます」と極めて事務口調で挨拶した。
「あ、おはようございます」と義範が返すと、目をくわっと見開いて、
「二次会、来られなかったんですねーー」
と、語気を荒げる寸前の口調で言った。
「ああ、ごめん」
義範はそう言うと、何事もなかったかのように通り過ぎようとした。するとーー星深雪は号泣してしまった。
「ふえ~ん!あのあとスティーブって外人に付きまとわれて大変だったんだから!あなたもし私に何かあったら、責任取ってくれるの?」
「俺が!?何で?」
「ほら、こんな風にーー」
星深雪は、義範にキスした。
「はい、これでもう私、この会社にいられな~い。義範君、責任取ってよね」
周りは大層驚いていた。そこで出てくるのが、瀧川美春だ。
「何あんた!私の婚約者に何すんのよ!」
その言葉を遮るように、義範は言った。
「分かった。俺、責任取る・・・」
「ちょっと待ったあ!」
やってきたのは花邑杏子だ。
また、面倒な話になりそうだ。と義範は思った。
「こいつ、結婚詐欺師!」
誰が?という顔を皆している。
「星深雪ーーあんた、派遣先を転々としながら、純情な男に目をつけて、結婚せざるを得ないシチュエーションを作って、後にお父さんが病気になったと嘘ついて、多額の金を騙し取ったって、数人の男性が被害を訴えているよーーさあ、観念しな!」
「は?あなた誰?」
「私は開発部の花邑杏子。赤坂義範さんの婚約者ーー」
一部始終を見ていたある受付嬢は義範に言った。
「私にはあなたが詐欺師に見えるわ。どんな色目使ったか知らないけれど、一挙に3人の女を囲ってーー」
星深雪が大声を出した。
「私は彼の誠実なところに惚れたの!詐欺師なんて言われる筋合いはない!」
花邑杏子がドスの効いた声で言った。
「なんなら、被害者連れてきてもいいんだぜ?」
「なんなのよ!一体、なんなのよ!あんた!」
そこへやって来たのが・・・
「よっ、義範。何だか賑やかじゃん」
綾姉だ!
最悪だ・・・
橘綾乃ーー義範の一個年上。彼女も某外語大卒。
それだけなら、義範はこんなに怯えないーー
彼女は・・・3度の飯より修羅場が大好きな最低女。
彼女の恐ろしいのは、その場の状況を瞬時に理解して、導かれる最悪な答えを出すところ。
「へえ~」
そう言うと、橘綾乃はーー義範にディープキスをした!
「あんたねえ!」
義範は当然怒ったが、橘綾乃は全く意に介さない。
「別にいいじゃん、知らない仲じゃないんだしーー」
「そうじゃなくてーー」
「私、ひょんなとこから東雲うみと知り合いになったんだよね」
義範は・・・これまでにないほどにテンションが上がった!
「マジか!?」
「マジよ」
「もちろん、紹介してくれるよな?な」
「私はこう紹介したいの。『私の婚約者の赤坂義範さん』てね」
「それは困る」
「なら、紹介しない」
「そこをなんとか!」
「あんたに東雲うみ紹介したら、怒涛のアタック掛けまくりの巻が始まっちゃうでしょう?」
「当たり前だ」
「私、嫌よ。前彼が東雲うみのストーカーになるなんて」
「やるのは、部屋を引っ越すくらいかな。うみを誘える部屋に」
「確か、あんた結婚するまであのボロアパート引っ越さないって言ったわよね・・・私がもうちょっといい部屋に引っ越したら?って言っても、決して首を縦に降らなかったわよね。それがなに?東雲うみは例外なの?」
「例外。文句は言わせない」
「バカぁー!」
橘綾乃は、彼の左頬に鋭いビンタをかました。
「何あんた。この私よりもあのクソメガネガチムチオタク女のほうがいいんだな!もー頭に来た!絶対に紹介しない!だってストーカーに紹介した責任を負わなきゃならないの、嫌だし!」
「だったら、最初から言うなよな」