花邑杏子は頭脳明晰だけど怖くてちょっとドジで馴れ馴れしいがマジ傾国の美女【第41話】
「完全に遅刻だ・・・」
その朝は絶望的だった。何せ起きたのは始業時間の30分後。しかも今日は、JAXAからの来賓が来る講演が予定されており、絶対に外せない。幸い、講演は午後からなのだが、その前に「おらが雨乞い3号」の開発メンバーとのディスカッションが。何としてでもそれに間に合わないとならないのだ。
「準備資料はーーある。ICレコーダーの充電もやったーーあとは・・・着替えだぁ!いかん、パジャマで会社に行くとこだったぞ」
義範は混乱していた。靴下を履くことも忘れていたのだから。それを部屋を出て鍵をかけた時点で気がつくとは・・・
会社についたのは11時前。なんとか会議には間に合いそうだ。
ふと聞こえてきたのは、業務連絡。
「本社広報の赤坂様、第13会議室へお越しください」
第13会議室ってところに行けばいいんだな。よし分かった。で、第13会議室って何処?
分からないので、受付で聞くことに。
「弊社中央にありますメインエレベーターで4階に上がったら、西ゲートへ出てーー」
義範は、受付の女の子に見とれていた。
(あ~あ、合コンしたいなあーー)
彼は仕事を完全に舐めていた。
「聞いてますか!?」
受付嬢から喝を食らってしまった。
「は、はいぃ!」
直立不動に姿勢をただし、大声で返事をしたら、笑われてしまった。
「ふふふ、面白い人」
どうやら、悪い印象を持たれたわけではないらしい。
受付を後にした義範は、メインエレベーターに乗り4階へ。西ゲートへ出てーー
ここで彼は止まった。要は、やっぱり受付嬢に見とれてて、その先を聞いていなかったのだ。受付嬢は花邑杏子の6割ほどの美人だった(それでもかなりの美人!)。そんなことはどうでもよろしい。兎に角今は、会議室を目指さなくては。
幸い、地図があったので、それを頼りにしたら、意外と目立った場所に第13会議室はあった。
中に入るとーー
「ようこそいらっしゃいました。ささ、こちらへーー」
薦められた椅子に座り、周りを見渡すと、皆、ペットボトルのお茶を飲んでいた。まだ、会議は始まっていないようだ。
「皆さん、揃いましたね。それでは始めます」
予想通り、会議は英語で展開されていた。
これならキーボードを打ちながら、話を聞いていればいい。幸い、難解な専門用語が出てくることはなく、義範もタイピングの手を休めることはなかった。と、思われたーーだが、その後、会議は熱を帯び、それぞれの担当の失敗箇所の指摘合戦に突入。それらは記録には適さない代物だった。と言っておく。米国人の開発者はマザーファッカーと叫ぶと会議室を出ていく始末。こうしてーー収拾のつかないまま、会議は終わった。一応、ICレコーダーには余すとこなく収録したのだが、この会議の内容はボツになるだろう。
義範は、ふうっと深く息を吐いた。
「熟睡してた俺も悪いけど、あんな思いをしてまで出勤して、あんなに深く会議のことを考えて考えてーーで、その結果がこれか?いやんなっちゃうよな、全く」
そこに、12時のチャイムが鳴った。本社にはないことだ。
後片付けをしていた義範を呼ぶ声が。さっきの受付嬢だった。
「お昼、これからでしょ。一緒に食べない?」
先ほどの険悪ムードは何処に吹き飛んだのか。皆、義範を
「ひゅーひゅー」と囃し立てた。
「これも記録に載っけちゃうかぁ!」と義範は調子に乗る。するとーー
「載っけちゃってえ~!」
「こりゃ、今夜は飲み会だなーー」
と盛り上がりを見せた。本当にこの人たちエリート?
「おい、スティーブはどうする?一応、誘い入れとくか」あのマザーファッカーのおじさんも来るのか。波乱が起きないのかな。「で、お二人さんも当然、くるよね?」その問いには
「僕は仕事・・・んぐぐ」
受付嬢は義範の口を抑えながら言った。
「もちろんですわ。楽しみにしてます♪」