裏の畑
三月最後の日曜日。
私は早朝から車を運転して、母が一人で暮らす実家へと向かっていた。
そこは車で三時間ほどの北国にあり、さらに山間の奥地なので、冬の間はけっこうな量の雪が降り積もる。そして雪解けの季節、家の裏にある畑で毎年、私はある奇妙なものを見て育った。
その奇妙なものは、雪が解けて畑に黒い土が見え始めると、このときを待っていたかのようにいっせいに地面から生え出てきた。
見た目を一言で言い表せば、それはツクシの巨大なものに似ている。またそれは成長がかなり早く、さらに筍のように次から次に地表に頭を出した。
そのたびに冬が終わる頃、父がクワで掘り上げて焼却していたのを覚えている。
その作業はかなりの重労働であり、父の死後、老いた母が一人でそれをやるのはとうてい無理である。だからといって放っておくというわけにもいかない。
それで今年もまた、私は母を助けるため、こうして実家へと向かっているのである。
実家に着いた私を、腰の曲がった母が変わらぬ笑顔で出迎えてくれた。
親子でお茶を飲みながら、いっとき互いの近況などを話し合ったあと、私はさっそく作業に取りかかるため、長靴を履き、クワを手に裏の畑に向かった。
今年は暖かくなるのが早かったので、例年より数が多いと母は話していたが、畑を目の前にしてなるほどと納得した。それは畑のいたるところに生えていて、ざっと数えただけで三十ほどはある。
私はさっそく作業に取りかかった。
まずそれらの一つ一つを掘り起こし、それから雪の残る畑の隅にそれらを積み重ねていく。
根は掘ると同時にクワの刃でしっかり切ってあるので、しばらくすれば徐々に枯れていく。そして干からびて燃えやすくなったところで、母が畑で焼却する。
焼く際に出る煙の臭い。
私はこれだけには慣れなかった。
幸いなことに燐家はずいぶん離れてあり、その作業は一カ月ほど先のことになるのだが……。
私は取り残しのないよう慎重に、それらすべてを一つずつ掘り上げていった。
今年は雪が少なかったこともあり、作業は順調に進んで三時間ほどで終了した。
その結果。
畑の隅に男や女、年老いた者や赤子やら、いろんな首が積み重なった。
母がそれを見て苦笑いしながら言う。
「あんなあとに畑なんて作るから……」
母が祖父から聞いた話では、ここには昔、無縁仏の粗末な墓石がたくさん転がっていたのだという。
ただ幸いにもこれまで、ここを畑にしたことで誰かが祟られて病気になったとか、何かの災いがあって不幸になったとか、そういった類いの話は聞いたことがない。
私は積み重なった首たちに手を合わせ、それから今年も裏の畑をあとにした。