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おや……? 王子様の様子が……

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 今から2年前、イシュタリア王国第二王子、ジークリード・ライゼ・イシュタールが誘拐されるという事件が起こった。

 犯人の名前はアーネスト・ゼイン。かつては護法騎士の一人、【魔竜の召喚士】として名を馳せた人物だったが、自己研鑽の怠慢と加齢による実力低下が理由で護法騎士の引退を迫られたことを逆恨みし、復権を狙ってジークリードを誘拐。

 この事態に王子の命のみならず、護法騎士及び王家の求心力と権威が損なわれることを恐れたが、偶然にも事件の現場に居合わせていた当時13歳のアルテナが人知れず事件を最速で解決することとなり、それが切っ掛けでアルテナは護法騎士に就任することとなったのだ。


「元とは言え、護法騎士が起こした事件を公表する訳にはいかなかった。故にこの事件は厳しい緘口令の元、闇に葬られることになったのだが……どういう訳が襲撃犯はその事件の事を知っておった」


【天翼の召喚士】に敗れた襲撃犯は、破れかぶれになって言ったそうだ……「本当なら王子を誘拐した【魔竜の召喚士】で腕試しするつもりだったのに、誰かが先に事件を解決しててできなかった! 原作シナリオがバグった!」と。


「男の身元を調べてみたが、出身地、住所、経歴……どれも事件の真相に辿り着く要素はなかった。【魔竜の召喚士】が起こした事件とは全く無関係の遠い地方で生まれ育ち、血縁関係を辿ってみても関係者に一切繋がらない。一体どのようにしてあの事件の真相を知ったのか、全くの謎なのだ」

「そ、それでその……その人は今どこに……」

「モンスターとの契約を強制解除させて牢に入れたのだが……突然、発狂したかと思えば舌を噛み切って自害したそうだ。看守が言うには、「ゲームオーバー」だの「リセットしなければ」だのブツブツと呟いてそのままな……まったく、落ち着いた状態で洗いざらい情報を吐かせようとしたところだったというのに」


 それを聞いたアルテナも背筋に寒いものが走った。最後の最後まで不可解で、話を聞くだけでも不気味な男だ。


「そして3つ目の気になる事だが……男は一度だけミストラル学院の事を口にしたというのだ」


 ミストラル学院……正式には、国際立ミストラル召喚士養成学院。

 イシュタリア王国や近隣諸国、海を隔てた向こう側にある大陸の国々に挟まれるように存在する島に、エイジア自治州という都市がある。

 ミストラル学院はそのエイジア自治州に建てられた、世界中の権力者の子供や、優秀な召喚士の卵が入学する、世界最大規模の召喚士養成機関だ。


「……単刀直入に言おう、【臥龍の召喚士】よ。其方には、ミストラル学院に入学してもらう」

「へ?」


 そう言われたアルテナの脳裏に、走馬灯のように子供の頃の記憶が蘇る。

 イシュタリア王国では読み書き計算と歴史を学ぶため、7歳から10歳の子供は学校に通うように義務付けられている。アルテナもそれに漏れず3年間学校に通っていたのだが、正直思い出したくもない思い出ばかりだった。


 何せ体質的な問題でダボダボのローブを常用してお化け呼ばわりされていたのだ。いくら事情があったとしてもそれを全ての子供が理解する訳もなく……元々気弱でチビと苛められる素質があったアルテナは、同学年の悪ガキたちにローブを剥ぎ取られたり、囲まれて悪口を言われたり、「アクリョー退散!」とか言われながら頭の上で黒板消しをバフバフされたり、それはもう盛大に苛められた。

 アルテナのコミュ障の原因は学校時代にあると言って過言ではない。そんな学校時代の記憶が一気に蘇り、そして再び学校に……それも家族から離れて知らない人間ばかりいる国外の学院に通うように言われたアルテナは……。


「…………うぷ」

「むぅ、これはいかん! 誰か! オートレイン卿をトイレに!」

「も、もう……無理ぃ……」

「くっ……耐えきれんか……! やむを得ん!」


   =====


「落ち着いたか? オートレイン卿」

「うぅ……本当に、本当にごめんなさい……こんな見苦しいところを……」

「かまわぬ。其方の事情を知りながら配慮しきれなかった余に非がある」


 エーリッヒのファインプレーにより、調度品の壺(高級品)をエチケット袋代わりにしたアルテナは青ざめた顔で何度も何度も謝ると、口元を拭って問いかける。


「そ、それであの……ど、どうして私が学院に……?」

「襲撃犯の言葉は殆どが狂言だったとはいえ、秘匿した事件の詳細を知っていたのは確かだ。そんな男がミストラル学院に入学する予定だったと口にした……これに不安を覚えたのは余だけではない。ミストラル学院には、何かあるのではないかと……そこで其方には学院に居て不自然ではない、生徒として学院を監視してほしいのだ」


 世界各国から権力者の親族が入学するミストラル学院はただの養成機関ではない。国の次代を担う若い召喚士の実力を知らしめ、時には他国の内情に探りを入れる、言わば国交の縮図なのだ。そんなところで問題が起これば、イシュタリア王国にも飛び火する可能性が高い。


「で、でも……私、その……」

「其方の言わんとしていることは理解している。また苛められやしないかと不安なのだろうが、安心せよ。ミストラル学院は成績だけでなく素行や経歴も入学基準となっておるから平民の子供のように程度の低い悪戯などする生徒はまずおらぬし、何よりも其方は我が国が誇る最強の召喚士たる護法騎士だ。その肩書と実績は、其方を守る盾となるであろう」


 エーリッヒはアルテナを安心させるように微笑みながら言う。


「ご、護法騎士は簡単に国外に出れないんじゃ……?」

「確かに国防の要である護法騎士を国外に出すことは各方面から反対が上がったが、条約上、護法騎士がミストラル学院に入学してはならないという決まりはない。条件付きではあるが、其方が入学できるよう、各方面には既に話を通してあるから問題ないぞ」


 何とか断れないかなーと細やかな抵抗をしたが、逃げ道を封じられた。


「【臥龍の召喚士】よ。これは其方にしか頼めない事なのだ。【天翼の召喚士】ほどの男が苦戦を強いられた者が関わっている何かが学院になるならば、対応するのは同じ護法騎士が行うのが妥当。事情が事情なだけに公表できないこの一件を任せられるのは、丁度学院に入学する年齢の其方だけだ。義理堅い其方であれば、これまで厚く遇してきた分、働きで返してくれるものと信じておるぞ」

「あ、あばばばばばばばばば……!」


 もはや引き受けるしかない雰囲気に、アルテナは変な鳴き声を上げて震えるしかなかった。

 温和で人見知りのアルテナでも話しやすい相手とは言え、エーリッヒは国王だ。アルテナを掌で転がすように誘導するなど造作もないし、必要とあれば断行する。というか王命である以上、アルテナに断るという選択肢もないのだが。

 

(でも……私が行かなくて本当に何かが起こったら、色んな人が困るんですよね……?)


 それは嫌だと、アルテナは率直にそう思った。

 普通に正義心を持ち、普通に善人で、普通にお人好しのアルテナにとって、自分さえ良ければそれで良いという生き方は出来ない。そもそも王家には普段から厚遇されている身だ。ここで断るなんて不義理な真似はしたくない。

 アルテナは二度三度深呼吸をし、両手をギュッと握り締めながら頷いた。


「わ、分かりました……! お仕事、お引き受けます……!」

「よくぞ言ってくれた、オートレイン卿。では早速だが、今回其方のサポートをする者を呼ぶ」


 エーリッヒは手元に置いてあった、精緻な細工が施されたハンドベルを鳴らす。遠くにいる使用人を呼ぶ時などに使われる魔道具だ。

 すぐに応接室に現れた執事に「ジークリードを呼んでくれ」とエーリッヒが命じると、ほどなくして国王の面影がある銀髪の貴公子が従者を一人従えてやって来た。

 イシュタリア王国第二王子であり、【魔竜の召喚士】が起こした事件から交流があるジークリードだ。彼はアルテナと同じ歳なので、ミストラル学院には同時に入学することになる。


「お呼びでしょうか、父上」

「よくぞ来た、ジークリード。今先ほどオートレイン卿に例の一件の説明をしたところだ。ミストラル学院に入学後は其方が彼女の働きを補助するように差配せよ」

「かしこまりました」

「オートレイン卿も、ジークリードとは顔を合わせることも多いと聞くので安心できる相手であろう?」

「は、はいっ。第二王子殿下なら、大丈夫ですっ」


 これは別に「王族に対して嫌だなんて言えない」という事ではなく、本当の事だ。

 ジークリードは2年前の事件に恩義を感じているのか、王都を視察する時や式典がある時など、必ずと言っていいほどアルテナに挨拶をしに来る。時には菓子折りなどを持ってくるので「そこまでしなくても……」とも思うが、割と頻繁に会っていた甲斐もあって、ジークリードともあまり緊張せずに話せるのだ。


「そういう訳だ、オートレイン卿。学院に居る間は俺が貴女の任務をサポートすることになった。よろしく頼む」

「い、いえこちらこそ! よよ、よろしくお願いしますっ!」


 ペコペコと何度も頭を下げるアルテナの前にジークリードは跪き、片手を胸に添えながら真剣な面持ちで言う。


「オートレイン卿……俺は貴女と比べればまだまだ未熟者だ。悔しいが、どれだけ貴女の助けになれるか分からない。だが俺に出来る全てを以て、貴女の助けになることを誓おう」


 その言葉を聞いたアルテナは、ふとジークリードと出会ったばかりの時……何時もしかめっ面で怒鳴り散らしてばかりだった、13歳のジークリードの姿を思い出した。


(会ったばかりの時は、怒ったり無茶ぶりされてばかりで、本当に怖い人だと思ったのに……)


 何はともあれ、ジークリードもやる気に溢れている。ならば自分も任された仕事を頑張らなければと、アルテナはやる気と共にフンスと鼻息を吐いた。

 

「…………」


 ちなみにアルテナは気付かなかった。真剣な表情を浮かべたジークリードの瞳の奥に、使命感とは違う意味で熱く燃える感情が宿っていたことに。





ちなみに壺の値段は、日本円換算だと500万円くらい

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、洗えば大丈夫だから…(震え) アルテナさんはヒロインになれるのでしょうか? 性格的には無理っぽいというか、全く気付かなそうなんだけど
[良い点] 1話ずつが短すぎなくてちょうどいいし、毎話おもしろい!
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