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悪役令嬢からのお誘い

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(あり得ない……こんなのあり得ないわ……! ジークがヒロインである私にあんな冷たい目を向けるなんて……!)


 王子との再会……もとい、出会いイベントを完膚なきまでに潰された挙句、明らかにジークリードの好感度が下がってしまい、ギリギリと軋むくらい歯を食いしばるミリア。その血走った視線の先には、イケメン王子に優しくエスコートされるアルテナが、未だに困惑した様子で歩いていた。


(アルテナ・オートレイン……! どこまでも私の邪魔をしようって訳ね……!? いいわ、そっちがその気なら私にだって考えがある……ジークはなんかバグってておかしくなってるけど、私はこのゲームの事を知り尽くしてる! あんたの事なんてどうとでも出来るのよ!)


 何せ何週もクリアして隠しイベントから何からまで記憶しているのだ。その原作知識があればどうとでもなる……ミリアはそんな自信を持ってアルテナの排除を誓う中、それを遠巻きからこっそり見ていたベルベット・シュタインローゼはドン引きしていた。


(えぇえー……げ、原作ヒロインが……えぇえー……)


 自国の王子に対する突撃に、その後の言いがかりの数々。この世界の人間の観点から見て見てもあり得ない事のオンパレードだったし、何よりもベルベットが知っているヒロインのミリアとは違い過ぎるのだ。


(原作ヒロインのミリアってあんなんじゃなかったわよね……? 確かに貴族としてはまだ完璧と言えるほど作法を身に付けてなかったけど、それでも見られないほどじゃなかったはずだし、そもそも入学式での再会イベントだって、あんな全力疾走でぶつかりに行くようなものじゃ……)


 周りと同じく呆気を取られていたベルベットだったが、ふと我に返ってこの不可解な状況の心当たりに思い至る。


(もしかして、ミリアも転生者なの!? 悪役令嬢物でよく見る、原作ヒロインに転生した性格の悪い元日本人だったみたいな!?)


 アルテナの時とは違い、今回ばかりは予想が的中しているベルベット。勿論彼女からすればまだ確証がない事実なのだが、「原作ヒロインのミリアは性格の悪い転生者である」ということを前提として今後の方針を練るのには十分過ぎる光景だった。


(何てこと……もしもミリアまで転生者なら……これはもう、私が知っている原作シナリオなんて当てにならないかもしれないわね)


 なにせここまでイレギュラーなことが多発しているのだ。物や召喚術といった原作知識を活用することはまだ出来るだろうが、人と人のやり取りであるシナリオを過信して動くのは危険すぎる。

 そういう時にこそ、情報を集めて対処したいところなのだが。正直に言って、ミリアと関わりを持つのは色んな意味で怖い。


(なんかあの子、私が転生者だって知ると、敵として認定してきそうな感じがするのよね……)


「なんでアンタまで原作壊してんのよ! 悪役令嬢なら悪役令嬢らしく、私の踏み台になりなさいよ!」……そう言って逆上するミリアの姿が、嫌になるくらい簡単に想像できてしまった。転生悪役令嬢物ではお決まりのパターンである。

 実際、ベルベットも原作シナリオを壊してきた自覚があるので言い逃れも出来ない。


(ここは当初の予定通り、アルテナとの接触を図る。そしてあわよくば……)


   =====


 ミストラル学院に入学を果たして、一週間。最初の方はどうなるのかと思っていた学院生活だったが、アルテナにとって思っていた以上に平穏な日々が過ぎて行った。

 元々、護法騎士というイシュタリア王国の重鎮であるアルテナを苛めようとする者は勿論のこと、気軽に話しかけてくるような人間はまず存在しない。公爵相当の地位を持つ宮廷貴族が相手では、大抵のの人間は委縮するか気を配るなりするのだ。


 それでも、ある程度の地位なり身分なりを持つ人間はアルテナとのコネクションを持とうとして接触を図ってくる。そういった相手にどう対応すればいいのか分からず途方に暮れていたアルテナだったが、そんな自分を助けてくれたのがジークリードだった。

 ジークリードは自ら仲介役を名乗り出て、アルテナと接触してくる人間との間に入ってくれたおかげで、今ではアルテナに用事がある時はジークリードを通さなければならないという暗黙の了解がすでに出来上がっていた。


(殿下が色んな人との間に入ってくれて助かった……)


 勿論、召喚術以外の授業の時は大変だ。見知らぬ人間に囲まれながら勉強するのは、アルテナにとっては本当に慣れない事だ。

 しかしそれ以外の時間は安心して研究と仕事に専念できる。アルテナは同学年の生徒たちが召喚術の授業を受けている間の時間を使って、仕事の方をしていた。


(転生者っていう人は、ミストラル学院に入学しようとしていた。有用な何かが、この学院にあるという事でしょうか?)


 人の情報の洗い出しは王家から連れてきた諜報員の結果待ちの状態なので、アルテナは召喚士としての立場から、転生者の目的を洗い出しにかかる。

 その為に学院に貯蔵されている研究資料に加え、学院と何らかの関わりがある、召喚術由来の魔道具なり歴史なりを大図書室で調べて回っていたのだが……。  


(……やっぱり、分からない。何がしたかったのか、それを本人の口から聞けなかったのが痛すぎる……)


 腕試しという言動をしていたことから、転生者とやらの目的が実力の向上だとすれば、学院に来る理由は、大図書室に眠る資料の数々だろうというのが、現状一番納得できる推測だ。

 ミストラル学院は世界屈指の召喚士養成機関なだけあって、取り揃えられている研究資料は一般閲覧出来るものだけでも膨大な数である。中にはアルテナも感心するような目新しい術式も存在していた。

 しかし逆に言えば、数が多いだけに転生者の目的があるかどうかが絞り込めないし、生徒として閲覧できる資料の中に、護法騎士を苦戦させるほどの召喚士が、わざわざ学院に通ってまで求める術式があるとは、今のところ考えられない程度のものばかりだ。


(あるとすれば、一般公開されていない禁書室の中だと思うんですけど……)


 禁書室に眠っている召喚術の術式資料は、いずれも強大な物ばかりだという噂はよく聞いている。件の転生者に限らず、狙っている人間は山ほどいるだろうし、国外の人間であるジークリードやアルテナが申請したところで、恐らく通らないだろう。


(だったら凄い魔道具とかモンスターでも眠ってるのかなって思ったんですけど……そっちも無さそうなんですよね……)


 歴史を遡ってみたところ、エイジア自治州が魔道具産業で目立つくらい栄えたことはないようだし、契約者がいない強大なモンスターが野放し状態で生息しているという話も聞かないのだ。 勿論、実はそういった魔道具なりモンスターなりが存在していて、エイジア自治州の上層部が情報が漏れないようにしているのかもしれないが、それだと一般人でしかないはずの転生者が知っていたというのもおかしな話だ。

 故にこの憶測は論外。頭から追いやって、「これから何を調べよう……?」と途方に暮れていると、ふと今まで手を出していなかった本棚が目に映った。


「……寓話コーナー?」


 まず関係ないだろうと思って調査対象から除外していたコーナーだが、一応念のために見ておいた方が良いと思い直し、並べられた背表紙をざっと見て回る。

 どこの国の寓話なのかと分かりやすく区切られた本棚には、アルテナが聞いたこともない様な寓話が多く存在していて、その中には当然のようにエイジア自治州発祥の寓話も存在していた。

 アルテナはその中から一冊引き抜き、軽く中身を読んでみると、案の定、調査とは関係のなさそうなフィクションの塊だった。


(やっぱりおとぎ話はおとぎ話……現実は関係ないですよね。………それはそれとして、寓話というよりも冒険小説みたいな内容ですね)


 イシュタリア王国にもモンスターに関係する寓話はある。その多くはモンスターが人間を助ける美談だとか、人間がモンスターを怒らせて報復を受ける訓戒だったりとか、子供の情操教育の為の物語だが、エイジア自治州の寓話はどちらかというと冒険小説に近く、フィクションの英雄譚が子供でも分かりやすいようにダイジェスト形式で綴られていた。


(出てくるモンスターも凄い滅茶苦茶な設定……一体で世界を滅ぼせる邪神族の王を倒せるモンスターとか、心優しい聖女とだけ契約するどんな願いでも叶えるモンスターとか……)


 いずれにせよ、眉唾物の内容ばかりだ。転生者に関係する情報とは思えないし、召喚士としての観点から見ても現実で役立つ気がしない。

 アルテナは本をそっと棚に戻し、気を入れ直して調べ物の続きをしようと、静かな大図書室の扉が開く音が聞こえてきて、アルテナは思わず身を竦めた。しかも扉を開けたと思われる人物は、ゆっくりとこちらに近づいてきている。

 戦々恐々とするアルテナだが、現れた人物を見て安堵の息を吐く。やって来たのはジークリードだったからだ。


「で、殿下……? 召喚術の授業は……?」

「問題ない。今しがた終わって今は昼休憩の時間だ」


 そう言われて、アルテナは初めて時計に目を向ける。調べものに夢中になり過ぎて、もうそんなに時間が経っていたことに気が付かなかった。


「ご苦労だったな、オートレイン卿。調査の方はどうだ?」

「ご、ごめんなさい……実はまだ、何もわかってない、です……」

「そうか……いや、気にしなくていい。元々不可解な事案だし、何事も無ければそれに越したことはないのだからな」


 そう言われてホッとするアルテナ。しかしそれに対してジークリードは少し悩まし気に眉根を寄せている。


「それはそれとして……実はまた不可解なことがあってな」

「え……ま、また何か問題が……?」

「いや、問題というほどの事ではないのだが……」


 ジークリードは懐から一通の手紙を取り出し、送り主の名前がアルテナに見えるように持ち換えた。


「ベルベット・シュタインローゼ公爵令嬢から、貴女宛てに茶会への招待状を預かっている。どうやら貴女と親しくなりたいとのことだが、如何する?」




実はこの世界、魔道具文明が発達しているので結構近代的です。空調があったり水道が完備されていたり

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― 新着の感想 ―
[良い点] 寓話の中にあった「聖女と契約したモンスター」ってどこぞの転生キメラだったりしません?(笑)
[気になる点] ある程度の地位なり身分なりを持つ人間はアルテナとのコネクションを持とうとして接触を図ってくる。そういった相手にどう対応すればいいのか分からず途方に暮れていた ___  描写的にアルテ…
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