エピローグ
いつもと同じ朝の月曜日。
一週間の始まりという物はどうも憂鬱だ。まあ、今週は土曜日も休みというのがせめてもの救いだが。
朝食を済ませ、制服に着替えた後、いつも通り部屋のドアを開け学校に向かう。
その前に。
「・・・・・・・・・よし!」
私は気合を入れた。
机の上の貝殻に向かって。
学校までの坂に着くと途中で香苗に会った。
「七海~、おはよ~」
少し眠そうだが、いつもの様に笑顔で挨拶をしてくる。
私は香苗と一緒に学校へ向かった。
学校に着くと私達は自分の席に着いた。隣には香苗が頬杖をついてうつらうつらしている。これもいつもと変わらない風景だ。
朝のホームルームも終わり、授業が始まる。
もう授業にも慣れ、一時間目、二時間目と難なくこなして時間が進む。他の生徒も慣れてきたのか時折寝ている生徒もちらほら現れ、教師に注意されている光景も伺えた。
時間が進み、昼休憩になる。
「七海―、お昼外で食べない?」
「外?」
「うん、だいぶ暖かくなってきたしね」
仕方ないなと思いながら、私は香苗と一緒に外で食べることにした。
外のベンチに腰掛けながら昼食を楽しむ。ちなみに今日の弁当は私が自分で作ってみた。流石に見栄えはあまり良くない。味はというと・・・・・・自分で言うのも何だが、悪くは無かった。卵焼きに関しては香苗から高評価を貰うことが出来た。
食事を終えた後、お茶をすすりながら二人でくつろぐ。
少しの間、無言の時間が続いた。お互い頭の中にある言葉は同じだろう。そこで、香苗が重い口を開いた。
「七海・・・・・・・・・その・・・・・・」
「うん・・・・・・」
「何て言えばいいかな・・・・・・」
「うん、大丈夫。分かってるよ・・・・・・。香苗こそ大丈夫?」
「うん、大丈夫。元気だよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「出席番号・・・・・・一つ前になっちゃったね・・・・・・」
「そうだね・・・」
今では雪乃のことは元々この学校には居なかったことになっている。
担任も、他の生徒も雪乃が居たことは知らず、同じ学校だった者には死んだことと認識されていた。
この間までの雪乃のことを今でも覚えているのは、私と香苗だけだった。私の斜め前に座っていた香苗は、今では私の横の席に座っている。
「でも何かスッキリしたよ。そりゃやっぱり寂しいけど。でも・・・何かスッキリした」
「うん、今では良かったと思ってる」
私はそう答えた。
今はもう雪乃は居ないが、私達はお互い本当の最後のさよならが出来た。それだけで満足だった。雪乃は自分のわがままに付き合わせて辛い想いをさせた、と気遣っていたが、私や香苗にとって雪乃が知らない間に居なくなって最後のさよならが出来ないのは絶対に避けたい。最後のさよならが出来ただけでも幸せだった。
「あー、お腹いっぱいだよ!眠くなってきた~」
「香苗、食べてすぐ寝たら太るよ」
「う・・・それだけは・・・・・・」
「じゃあさ、食後の運動でもしようよ」
「運動?」
私は食事をしている時から、グラウンドにある物が転がっているのに気付いていた。私はそのある物を取りに立ち上がり、グラウンドに掛けていった。
「じゃーん、これでキャッチボールしようよ!」
「おっ!ソフトボール!」
ソフトボール部が朝練の時にしまい忘れた物だろう。
私達は食後の運動に、そのソフトボールを使ってキャッチボールをした。
本当に久しぶりのキャッチボールだ。近い場所で軽く投げ合っているがポロポロ溢してしまう。
「あははー、私達腕落ちたねぇ」
「もう、手が痛くなってきたよ~」
私も手が痛くなってきたが、それでも何故か嬉しかった。
「香苗!私達ずっと仲間だよー!!!」
「当然だよ!ずっとずっとね!!!」
素手でソフトボールを掴む音。それはパシンパシンという音ではなくペチペチといった音だ。そんな音も懐かしく感じる。
その懐かしい音と私達の笑い声は昼休みが終わるまでグラウンドに響いた。
そして、この青い空にも届いていることだろう。