第6話 対空迎撃射撃
『艦上歩兵科』に属する兵士は、優劣はあれど皆、『鼓動』の能力を持っている。
その『鼓動』の能力を活用して行われるのが『艦上白兵戦闘』──とくにそのなかの『対空迎撃射撃』である。
大型弾倉に心を込めたカウルはそれをシーナのほうに差し出した。
「ちっ」
何か気に入らないことがあるのか、シーナが大型弾倉をカウルの手から乱暴に奪う。
そしてシーナは対装甲狙撃銃に弾倉をガコンと差し込み、銃のボルトを引いた。
「……」
悪態をつくシーナに責められている気持ちになりながら、カウルはシーナのそばに控える。
そして間もなく行われるシーナの射撃の衝撃に備えた。
艦周辺を旋回していた水上偵察機はその機動を変え、艦から一旦離れたのち、機首を返して、艦の進行方向と垂直の進路を取った。
カウルたちのいる右舷に真っ直ぐ突っ込んでくるかたちである。
──ブウン。
飛来した水上偵察機は手前で機首を上げ、艦の上を通過していく。
その後に遅れて曳航されている標的が、右舷に向けて接近してきた。
シーナが対装甲狙撃銃を構え、その銃口を接近する曳航標的に向ける。
──ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
大きな銃声が立て続けに五発鳴り、銃口から吹き出る発射炎と衝撃波があたりの空気を揺らす。
対装甲狙撃銃は半自動式の発射機構を持つ。通常の狙撃銃はボルトを動かし弾丸を一発ずつ手動で装填するが、この銃は初弾をボルト操作で装填してしまえば、次弾からは発射するたびに自動で装填されるので引き金を引くだけでよく、それにより速射が可能となっている。
──ブッ。
放たれた弾丸のうち、数発は曳航標的に命中し、いくつかの穴が開けられた。
曳航標的がカウルたちの上を通過していく。
この訓練が想定するのは、飛来する敵艦砲射撃の迎撃である。
──つまり、敵艦から発射された砲弾を、火器の射撃によって撃ち落とすのである。
本来──『鼓動』の能力がなかった時代は、このような戦闘形態はあり得なった。
水上の砲撃戦では、戦艦など主砲を擁する戦闘艦が互いに砲弾を撃ち合うが、放たれた砲弾に対して艦船は防御手段を持たず、それを避けるしかなかったからである。
しかし、『鼓動』を扱える兵士が出現したことによって、敵艦船からの砲撃に対抗することが可能になった。
対空射撃による迎撃──『鼓動』により存在を優位させた銃火器の射撃により、飛来する砲弾を撃ち落とすのである。
もちろん本来なら、仮に銃弾が飛来する砲弾に命中したとしても、ちっぽけな銃弾で分厚い鋼鉄で覆われた巨大な砲弾を破壊することなどできない。
しかし、『鼓動』の能力は、本来の物理的な強弱の関係──普通、砲弾のほうが銃弾に勝る──を覆しうる。
つまり、発射する銃弾に『心』を込めれば、銃火器の射撃でも、砲弾を破壊することができるのである。
ただし、この『対空迎撃射撃』と呼ばれる戦闘技能は、全ての兵士ができるわけではない。
というのは、例え『鼓動』を扱えても、そもそも高速で飛来する敵の砲弾に、銃器の射撃を命中させること自体、かなり困難だからである。
そのため、敵艦砲の迎撃ができるのは、特殊な資質や技術を持った『対空迎撃要員』と呼ばれる一部の兵士──重巡『アマネ』ではシーナほか数名の兵士──だけであった。