第56話 混戦必至
左舷側の第二主砲塔の陰で、シーナはふうっと大きく息を吐き、物陰から飛び出していった。
そして素早く甲板を駆けていく。
気付いてくれるな──シーナはその思いで姿勢を低くして、なるべく目立たないように移動する。
しかし、第二主砲塔の反対側に出たところで、チュン、と甲板に銃弾が跳ねた。
──くそっ!
狙われている。そう感じたシーナは、カウルから借りた小銃を銃弾が飛んできた方向に向けた。
ダダッ!ダダッ!
シーナが敵に牽制の射撃をしかける。
しかし、小銃を撃ちながらもその足は止めない。
(ほっとけよクソが──)
敵は掲げている盾の後ろに隠れながらこちらに向けて射撃しているが、その敵をピンポイントで狙うことは難しい。
シーナはそこまで狙うことはせず、敵の盾に命中させる気持ちで射撃する。盾に命中させて敵を警戒させることで攻撃を緩めさせれば十分だからだ。
ダダダッ!
それでも敵からの攻撃は続く。
ビッ!銃弾がシーナを掠めた。
「くそ──」
もういい──シーナは敵への反撃をやめて、先を急いだ。
甲板をジグザグに走り、なるべく敵に狙いをつけさせないようにする。
「はっ──はっ」
一心不乱に走るシーナ。
(もう少し……)
シーナの視界の先に第二分隊の掩体が見えてきた。
──ダダダッ!
セトの射撃が、空中のベルニカを捉えた。
(よし!)
セトの銃撃が命中したのを認めたセーグネルは、その瞬間力を十字槍に込めて、ベルニカをそのまま突き飛ばす。
その拍子にベルニカの手から細剣が手放される。
ベルニカは天を仰ぎ、後ろへ倒れた姿勢のまま、舷側の柵を越して『アマネ』から下へ落ちていった。
やった──
放心したように、張りつめていた二人の気が抜けた。
しかし、二人が安堵しかけたその時──
「!!」
ばっ、と『アマネ』の舷側の下から黒い影が飛び上がってきた。
それは、すぐにセトの銃撃から復帰してきたベルニカであった。
──こいつ、まだ!!
びくっとセーグネルとセトが反応し、二人は再びそれぞれの武器を構え直した。
ドン、と甲板に着地したベルニカ。
前屈みの姿勢でだらんと両腕を垂らし、二人に向けて顔を上げた。
顔の表情に動きはないが、見開かれた瞳が恨めしそうに二人を睨んでいる。
そしてベルニカの手が、光り輝くの粒子を放出して、再びその手に細剣がにぎられた。
「セトっ!」
セーグネルがセトに後ろ退がるよう警告を発する。
だが、再び攻めてくる、と二人が思ったその時、ベルニカは突然セーグネルたちから視線を外して斜め上を見上げた。
(なんだ──!?)
敵兵が見上げた方向に、何か別の存在感を感じたセーグネルも、とっさにそちらに顔を向けた。
「!」
見ると、右舷後部の方向からやってきたもう一人新たな敵兵が、思念動力で空中に高く飛び上がった。
──なにやってんだよ。
右舷前部にやってきたグレンが──なにやら苦戦していたベルニカを視界の端に──セーグネルらを見下ろしながら、左手をセーグネルら第二分隊に向けて突きだした。
(──この程度の人数、まとめて焼いてやる!)
(新手かっ……)
セーグネルは、現れた新たな敵が右手に小銃を持っているのに、空の左手をまっすぐこちらに向けていることに違和感を感じた。
──なにか来る!
敵兵の手が『心』の粒子の光で光った。
(『律動』か!)
敵が『何か』をこちらに放出しようとしているのを感じ取ったセーグネルは、十字槍を手放し両手をその敵兵に向けて真っ直ぐ伸ばした。
──水の律動。
セーグネルが水の律動を想起した。
「っ!」
セーグネルの両手が光の粒子を纏ったその瞬間、空中の敵兵の手から何か透明な液体が吹き出た。
直後、その液体が赤く煌めき、そして燃え上がった。
敵兵──グレンが放った『液体燃料』の律動による火炎放射──二式紅炎である。
燃え盛る炎がセーグネルに迫る。
(──二式水流!!)
『心』の粒子の光を帯びたセーグネルの両手の手から、大量の水が噴出した。
『二式水流』──『水』の律動によって創り出した大量の水を、思念動力に乗せて線状に放出する戦闘技能である。
ジァアアアアッ!!
火炎と水、二つの奔流が激突し、大きく蒸気が沸き上がる。
「くっ!」
火炎の熱波がセーグネルの髪を巻き上げた。
火炎の直撃は避けることができたが、それを消火するには至らない。燃える液体燃料は周囲に飛び散り、燃える水溜まりとなって無数の炎をあげた。
しかし、敵の火炎はまだ止まない。火炎放射はまだ放出され続けていた。
「くっ……う……」
セーグネルが歯を食いしばり、敵の火炎放射に競り負けないように、『水の律動』を想起し続けながら水を放出する。
敵の火炎は、隙あらば一気呵成にこちらを飲み込まんとする勢いだ。セーグネルは敵に押し込まれないよう、全力の出力で水流を放射する。
──空中でぶつかり拮抗する炎と水。
しかし、そのためにセーグネルは、両手がふさがり、その場から動けなくなった。
バッ!
その隙に、舷側から少女の敵兵──ベルニカがセトに向かっていく。
「セトっ!」
それを視界の端に捉えたセーグネルはセトに向かって叫ぶ。──彼ひとりではこの敵に敵わない。
しかし、セトは動けなかった。
彼には、そばで敵の火流を受け止めているセーグネルを残してひとり退くことができなかったのである。
セトとセーグネルめがけて迫るベルニカ。
──ドッ。
しかし、そのとき、両者の間に何者かが降り立った。
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