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未定  作者: 悠木サキ
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第5話 鼓動

 号令がかかったシーナとカウルが機関銃のある銃座とは別の、その近くに作られた土嚢の掩体のほう進む。

 シーナは対装甲狙撃銃を両腕で抱え、カウルは自身の小銃と、弾薬の入った背嚢(リュック)を手にしている。

 この背嚢のなかには、シーナの対装甲狙撃銃用の弾薬である大型弾倉が詰まっている。

 掩体に身を隠すように甲板に膝をついたカウルは、背嚢から大型弾倉を一つ取り出した。

 重機関銃に用いられる十二・三センチ弾が八発入っているこの大型弾倉は、小銃の弾倉よりはるかに大きく重い。

 大型弾倉を掴んだカウルは、それを両の手で握り、意識を自分の両手に集中させる。

 すると、大型弾倉を握りしめるカウルの両手から、光が仄かに漏れた。

 カウルの手から放出された『心』が大型弾倉に注入されたのだ。


『鼓動』と呼ばれるこの特殊な力はは、人の心そのものを使用する。


 人の心は、かつては、そういうものがあると観念されるだけの存在であったが、現在は物質──とくに粒子としてその存在が認められている。

 この『粒子としての心』は、次のような性質を持っている。

 それは、人の心が込められたものはその『存在』が、他のものよりも優位する、というものであった。



 『心』を込める、という言葉や行為は、この能力が『鼓動』として名付けられる前から、人々の日々の営みの中に脈打っていた。

 例えば、人が強い思いを持って『心を込めて』作った代物は、そうでないものより、出来の巧拙に関わらず、それに触れた人に際立った存在感を感じさせる。

 あるいは、普段、その人が大切に扱っているものや思い入れがあるものは、ものの『持ち』がそうでないものより良かったりもする。

 このような経験は、作り主や持ち主の『心』がその物体に込められることによって、物体の『存在』がより優位なものとなり、存在感を増し、あるいはその物体が故障したり壊れたりしにくくしているのである。


 この現象を意識的に、かつ強力に発動することが、『鼓動』と呼ばれる能力である。

 この『鼓動』の能力は、戦争に大きく貢献することとなった。

 例えば、同じ銃弾を撃つにしても、『心が込められた銃弾』は、『心が込められていない普通の銃弾』より大きな威力を持つ。

 本来、両者の速度や質量、硬度といった物理的な数字が等しいとき、この二つの弾丸はともに同じ威力を持つはずだが、ここに『心』が加わると両者の間に差異が生じる。

 つまり、『心が込められた弾丸』のほうが、その『存在』において、『心が込められていない弾丸』に優位するのだ。

 その結果、それら二つの弾丸が衝突する標的が、『心が込められていない普通の銃弾』では通常破壊できない物体であったとしても、『心が込められた銃弾』ならば、その対象を破壊することができる。

 『心』という要素が加わったとき、物体の壊す・壊されるといった優劣の関係は、従来の速度や硬度といった物理的な要素と、『心』による『存在の優位性』を合わせた結果、決定されるのである。

 極端にいえば、それ相応の『心』が込められていれば、本来、威力の小さい拳銃の銃弾であっても、分厚い装甲を持つ対象を破壊することができるのである。

 逆に、例えば防刃・防弾性能のない普通の衣服であっても、それに十分な『心』が込められ、その『存在』が高められていれば、刃はその衣服を切ることはできず、また弾丸もその衣服を貫くことはできない、という現象が起こる。

 要するに、『心』が込められた武器はその威力を増し、また『心』が込められた衣服や装具はその防護力を高めるのである。


 また、『心』は衣服や武器といった物だけでなく、人体をも保護する。

 それは、『心』はそもそも、人の体のなかに宿っているためである。

 『心』を宿す肉体は、その『存在』を強く保とうとする。つまり、肉体は丈夫になって外傷を負いにくくなるのである。


 ただしこれは、すべての人間に当てはまることではない。

 『心』はすべての人間に宿るが、その『量』と『質』が、この『鼓動』の能力の強さを決定する。

 小さく弱い『鼓動』の能力なら、誰しもそれを使える潜在的な可能性を持っているが、それを一定以上の強さである目的のために──特に戦闘行為のために実用的な水準で使用できるものは、一部の者だけであった。

 強い『心』を持つもの──すなわち『鼓動』の能力を習得した者だけが、常人の肉体より強い肉体を持ち、そしてその『心』を体外へ放出し対象に込めることで、威力や防護力に優れた武器や防具を身につけることができるのである。

  

 そして、現在の戦闘、特に海上での戦闘では、この『鼓動』の能力をさらに活用した戦闘形態が生まれた。

それが、カウルたち艦上歩兵科による『艦上白兵戦闘』であった。

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