第39話 艦上攻撃隊
「敵艦が?!」
無線を通じて、新たに敵艦が現れたことがセーグネルたち艦上守備隊の隊員たちに知らされた。
セーグネルは背嚢から双眼鏡を取り出し、覗きこむ。
「……あれか!」
右舷水平線上に朧気に見える小さな影。
──小さい……恐らく駆逐艦……
セーグネルはしばらくじっと双眼鏡を覗き続けた。
双眼鏡の視界に捉えた艦影は、次第に濃くなり、それがこちらに向けてまっすぐ接近してきていることがわかる。
しかし、その艦影の数自体は一つだけで、その周辺には他に何も現れなかった。
(一隻だけ……艦隊じゃない……?)
敵の別の艦隊が現れたのではないかと危惧していたセーグネルはそこで疑念を抱く。
(単艦でいったい何を……?)
単独で行動しているこの艦影は、おそらく現在、左舷側で交戦中の艦隊のうちの一隻だろう。
何かしらの狙いがあって、敢えて艦隊から離れ、単艦で別行動をしているに違いない。
(でも、挟撃するにしても、一隻では……)
セーグネルはこの一隻の小型艦の意図を掴みかねた。
砲戦を繰り広げている左舷側には巡洋艦らしき中型艦を含む四隻の艦隊。対して右舷から来たのは駆逐艦らしき小型艦一隻のみ。
仮に自分達を挟み撃ちにするにしても、もう少し均等に戦力を分けそうなものだが……
──まさか。
嫌な予感がする。
「各員、見張りを厳にせよ!」
セーグネルが第二分隊の隊員たちに命じる。
「……」
胸騒ぎを覚えながら、セーグネルは緊張した表情で、水平線上の敵艦に目を向けた。
駆逐艦『ゲイル』の主砲塔の天蓋の上に、赤国国防軍の女性将校、ザラ=ローズマリーは一人立っていた。
『ゲイル』の第四戦速二十七ノットが起こす向かい風が、将官服の上に羽織ったオーバーコートの裾と、ザラの長い赤髪を強くはためかせる。
「そう、もっと右」
ザラが独り小さく呟く。──はるか先から自分たちに向けられた敵意を感じとりながら。
彼女の表情は戦闘下にある今の状況にそぐわない、穏やかなものだった。『ゲイル』の針路の先にいる青国の艦隊に向けられた眼差しは、まるで何かを慈しむように細められており、口元には微かな笑みが浮かぶ。
オーバーコートの袖からは彼女の細い手が覗く。その繊細で長い五指が握るのは、一丁の短機関銃であった。
短機関銃は自動小銃を短くしたような形状で、全体像は自動小銃に似ているが、使用する弾薬は小銃弾ではなくさらに小型の拳銃弾である。機関部にはその拳銃弾が三十発入った細長い弾倉が挿入されており、この拳銃弾をかなりの連射速度で発射することができる。
短機関銃は近接戦闘での使用を想定して設計されているので、狭い空間での取り回しに特化した設計になっている。そのため銃身は短く、銃床は伸縮自在の造りになっているが、今は短く縮められており、ザラはまるで短機関銃を拳銃を持つかのようにその手に提げていた。
すると、短機関銃を握るザラの手から、金色に輝く光の粒子が溢れ出た。
その光──ザラの『心』の粒子がみるみる短機関銃に吸い込まれていく。
短機関銃に『心』を注入したのだ。
「みんな、気をつけて」
すると、ザラがぽつりと呟く。
と同時に、『ゲイル』の右舷から人影の群れが飛び出した。
重武装を纏った兵士の一群──第十六掃海隊の『艦上攻撃隊』であった。
「!」
その姿はうっすらとであるが、双眼鏡を覗いていたセーグネルにも視認できた。
駆逐艦の横から飛び出てきた人影の群れは、そのまま空中を飛びながら移動し、駆逐艦から離れていく。
まっすぐこちらに向かってくるのではない。セーグネルから見て左──『アマネ』らの進路を先回りするような方向で、空中を移動している。
──敵の攻撃隊だ!
セーグネルに緊張が走る。
『艦上攻撃隊』──この兵科は敵艦船への直接攻撃、特に敵の艦上守備隊をはじめとした敵艦船の防衛能力の排除を目的として構成された部隊である。
隊は一人一人の武装した歩兵で構成されるが、一般的な歩兵科と異なるのは、艦上攻撃隊の兵士のいずれもが、『鼓動』や『律動』の能力を有し、その能力によって超人的な戦闘力を発揮するところにある。
セーグネルがいままさに目撃したのは、敵駆逐艦から出撃した攻撃隊が『鼓動』の思念動力によって自身を浮遊させ、空を移動するところであった。
(敵の数は……)
セーグネルは双眼鏡を強く握り、その人影を追う。
空中を移動する影の群れは、大軍ではないが、一個小隊ほどの人数はいるように見えた。
「通信機を!」
セーグネルはすぐさま分隊の通信兵を呼び寄せ、部隊を統括する艦上守備隊隊長に報告をあげた。
「こちら第二分隊!敵の駆逐艦から出撃した一群を発見!敵の攻撃隊と思われる!」
「──了解。対人戦闘用意」
すぐに艦上守備隊を指揮する小隊長から命令が下った。




